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【第七章】歩き出す世界
ハチと私の夢
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ハチが家に来たときに、いくつかの「不具合」を見つけた。
最初に驚いたのは、ドアを開けたときだ。
「さあ、どうぞ」とドアを開けたら、うまく家とつながらなくて驚いた。
もう一度開け直したら、いつもどおりの家に戻った。ほっと胸を撫で下ろしてハチを誘う。
次に見つけたのは麦茶だ。
テーブルに置いた麦茶が、ハチにはうまく見えていないようだった。
そして最後、これは「不具合」というより、私がうっかりしてしまっていただけだけど。
「ねぇ、あれ、何?」
驚いた声が、ハチの口から漏れる。
その視線の先には、まだきちんと設定が終わっていない「作りかけの弟」がいた。弟が欲しいと言った私に、ハチのお父さんがその夢を叶えてくれたのだ。
くりくりの目も、まだ動かない。まるで眠っている人形のようだった。
「ああ……弟!」
なんとか笑って答えたけど、ハチの表情は驚きのまま固まっていた。
胸がずきんと痛む。きっと、怖がらせてしまったんだ。
私はハチが笑顔になるように、声を弾ませて遊びに誘う。
「今は動かないから気にしなくて大丈夫だよ。で、何しよっか。二人だとできるゲーム限られちゃうね。私、神経衰弱が得意なんだけど――」
今日は、ハチのお父さんに報告することが山ほどある。
公園にあったワープできる場所、ドアの不具合に、見えない麦茶。そして私は、ハチのお父さんからの頼まれごとを思い出した。
『そうだ、今日はハチの将来の夢をきいてきてくれるかい?』
でも、どうして自分で訊かないのか、不思議でたまらない。
『僕はハチに嫌われているからね……』
そう言って、寂しそうに笑うお父さん。
どうしてこんなに優しいお父さんなのに、ハチは――。
胸の奥で、その理由を知りたくなる気持ちが膨らんだ。いつかハチに訊いたら、答えてくれるかな。
私はもっと遊びたかったけど、ハチが急に帰ると言ったので、家まで送ることにした。その道すがら、私は今日の目的を思い出していた。
「ねぇ、ハチって、将来の夢とかあるの?」
横顔を見つめながら訊ねると、ハチは少し驚いたように目を丸くした。
「将来の夢……?」
一瞬考えてから、ぽつりと答えた。
「大人になったら東京に行ってみたいかな」
「東京?」
思わず聞き返すと、ハチは遠くを見るような目をして続けた。
「こことは違って、東京には何でもあるし、何にでもなれそうな気がする」
その目の中に、小さな星のような輝きが浮かんでいるように見えた。
私も、その夢に触れたくなった。
「ふーん、ハチは東京に行きたいのね。私も行けるかなぁ」
「行けるよ! 大人になれば、きっとどこへだって行けるよ」
どこへだって行ける――。
その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。
忘れていた感覚だ。心の中に、柔らかな輝きが生まれる。
「どこへだって……」
私は呟いた。
足が動かなくなってから、自由な未来なんて私にはずっと遠いものだと思っていた。でも……。
この世界でなら、私は自由に歩ける。誰の手も借りず、自分の力で一歩を踏み出せる。
ママと一緒に、車椅子では入れなかったお店にも行けるかもしれない。
ううん、今ならきっと、私は一人で――
「そうよね」
言葉が弾けるように、私は叫んだ。
「どこへだって行ける!」
手足を大きく振りながら、誇らしげに歩く。
振り返ると、ハチが眩しいほどの笑顔を見せていた。
「じゃあ私も一緒に行こうかな、東京」
「うん! 行こう、東京!」
私たちは、笑いながら歩き出す。
これから、どこへでも行ける。
この世界でなら、眠っているハチも、足が動かない私も、一緒に未来へ踏み出せる。
きっと、夢だって追いかけられる。何にだってなれるのだ。
最初に驚いたのは、ドアを開けたときだ。
「さあ、どうぞ」とドアを開けたら、うまく家とつながらなくて驚いた。
もう一度開け直したら、いつもどおりの家に戻った。ほっと胸を撫で下ろしてハチを誘う。
次に見つけたのは麦茶だ。
テーブルに置いた麦茶が、ハチにはうまく見えていないようだった。
そして最後、これは「不具合」というより、私がうっかりしてしまっていただけだけど。
「ねぇ、あれ、何?」
驚いた声が、ハチの口から漏れる。
その視線の先には、まだきちんと設定が終わっていない「作りかけの弟」がいた。弟が欲しいと言った私に、ハチのお父さんがその夢を叶えてくれたのだ。
くりくりの目も、まだ動かない。まるで眠っている人形のようだった。
「ああ……弟!」
なんとか笑って答えたけど、ハチの表情は驚きのまま固まっていた。
胸がずきんと痛む。きっと、怖がらせてしまったんだ。
私はハチが笑顔になるように、声を弾ませて遊びに誘う。
「今は動かないから気にしなくて大丈夫だよ。で、何しよっか。二人だとできるゲーム限られちゃうね。私、神経衰弱が得意なんだけど――」
今日は、ハチのお父さんに報告することが山ほどある。
公園にあったワープできる場所、ドアの不具合に、見えない麦茶。そして私は、ハチのお父さんからの頼まれごとを思い出した。
『そうだ、今日はハチの将来の夢をきいてきてくれるかい?』
でも、どうして自分で訊かないのか、不思議でたまらない。
『僕はハチに嫌われているからね……』
そう言って、寂しそうに笑うお父さん。
どうしてこんなに優しいお父さんなのに、ハチは――。
胸の奥で、その理由を知りたくなる気持ちが膨らんだ。いつかハチに訊いたら、答えてくれるかな。
私はもっと遊びたかったけど、ハチが急に帰ると言ったので、家まで送ることにした。その道すがら、私は今日の目的を思い出していた。
「ねぇ、ハチって、将来の夢とかあるの?」
横顔を見つめながら訊ねると、ハチは少し驚いたように目を丸くした。
「将来の夢……?」
一瞬考えてから、ぽつりと答えた。
「大人になったら東京に行ってみたいかな」
「東京?」
思わず聞き返すと、ハチは遠くを見るような目をして続けた。
「こことは違って、東京には何でもあるし、何にでもなれそうな気がする」
その目の中に、小さな星のような輝きが浮かんでいるように見えた。
私も、その夢に触れたくなった。
「ふーん、ハチは東京に行きたいのね。私も行けるかなぁ」
「行けるよ! 大人になれば、きっとどこへだって行けるよ」
どこへだって行ける――。
その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。
忘れていた感覚だ。心の中に、柔らかな輝きが生まれる。
「どこへだって……」
私は呟いた。
足が動かなくなってから、自由な未来なんて私にはずっと遠いものだと思っていた。でも……。
この世界でなら、私は自由に歩ける。誰の手も借りず、自分の力で一歩を踏み出せる。
ママと一緒に、車椅子では入れなかったお店にも行けるかもしれない。
ううん、今ならきっと、私は一人で――
「そうよね」
言葉が弾けるように、私は叫んだ。
「どこへだって行ける!」
手足を大きく振りながら、誇らしげに歩く。
振り返ると、ハチが眩しいほどの笑顔を見せていた。
「じゃあ私も一緒に行こうかな、東京」
「うん! 行こう、東京!」
私たちは、笑いながら歩き出す。
これから、どこへでも行ける。
この世界でなら、眠っているハチも、足が動かない私も、一緒に未来へ踏み出せる。
きっと、夢だって追いかけられる。何にだってなれるのだ。
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