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【第十章】再び交わる世界
もう、傷つきたくない
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「ママ……私、システム開発部に行ってもいいよ。私のせいでハチがいなくなっちゃったんだし」
「だから、それもあなたのせいじゃないでしょ? 会社を辞めるって決めたのは八幡くんなんだから。なんでも自分のせいにするんじゃありません! そういうところを可琳はなおしていかないと」
ママが少しだけ口調を強めて言った。
私は黙って俯いた。ママの言葉はもっともだ。でも、私が関係していることは事実だし――
「……可琳がシステム開発部に来てくれるのは嬉しいけど――ねぇ、八幡くんと、一度きちんと話した方がいいんじゃない?」
ママの声が優しくなる。
「ママは何度か八幡くんと話したときに、あなたへの想いの強さをとても感じていたの」
私は静かに首を振った。
「ハチにその気があるのなら、私に連絡をくれるはずでしょ? もうハチは、私のことなんか忘れて、新しい人生を歩んでるんだよ」
「あなたはそれでいいの?」
「私から距離を置いたんだもん。これでいいんだよ。ハチの隣にいるべき人は、私じゃない」
自分で言いながら、胸の奥が苦しくなる。心の奥がざわついた。
ママは小さく息をついて、それからハチの話はしなかった。
食事を終え、私は自室に戻ってきた。
小さい頃から、ママたちが離婚したのは、自分のせいだと思っていた。
でも、ママの話をきいて、それは違うとわかった。
――私のせいじゃなかった。
そう思えたのに、なぜだろう。軽くなったはずの心に、今度は違う痛みが生まれた。
パパは離婚してから、一度も私に会いに来てくれない。
それはつまり、パパも、私から離れていったということだ。
私は――パパに愛されていなかった?
胸がきゅっと痛む。
パパと一緒に暮らしていた日々を振り返る。
一緒にごはんを食べたり、お出かけしたりしたけれど、いつも話しかけるのは私の方からで、パパの興味はいつも、テレビやスマホだった。
もし、私から何も話しかけなかったら?
パパは私のことを、気にかけてくれただろうか?
厳しいことを言われたり、嫌な思いをしたことはない。でも、悲しいとき、辛い時、慰めてくれたのはいつもママで、パパは、私と関わろうとしていなかったのだと、気づいてしまった。
パパは、いつからママと私に興味がなくなったんだろう。
……もしかしたら、最初からなかったのかもしれない。
私が大好きな人達は、みんないつの間にか、私から離れていく。
きっとハチも、私への興味がなくなったんだ。だからあれから、なんのリアクションも起こさない。
……そうだよね。
あんなに酷い言葉を投げつけた私のことなんか、気にするはずがない。
こんなに辛い思いをするなら、もう新たに、人との関係を作るのはやめよう。
どうせいつか、離れていってしまうんだ。
だったら初めから、近づかなければいい。
もうこれ以上、苦しい思いはしたくない。
現実世界は、とても冷たくて苦しい。
ハチの世界は、あんなにも優しさで溢れていたのに。
急に、ハチの世界が恋しくなった。ハチのお父さんが作った、どこまでも優しい世界。
「窪くんのラーメン、また食べたいな」
仕事終わりに顔を出すと、ハチと窪くんの温かい声が飛んでくる。
優しい人たち。ハチと並んで歩いた帰り道。二人の間を心地よく吹き抜ける風。満点の星空。
現実はこんなにも苦しいのに、あの世界だけは、私を優しく包みこんでくれた。
――ハチは今でも、あの世界に行っているんだろうか。
私は、古いアルバムをめくるような気持ちで、β世界のログを見る。
もしハチがいなければ、少しだけ、β世界に行ってみようかな。
あの日以来、ハチがログインした形跡はなかった。
ハチは私みたいに、現実逃避なんてしない。
ハチはやっぱり、しっかりと自分の人生を歩んでいるんだ。
「ほんとハチは、かっこいいな……」
関係は終わったと言いながら、私ばかりが、ハチの面影を追って、いつまでたっても忘れることができない。
そんな自分が情けなくて、思わず苦笑いが溢れる。
ログを見ていく手が、ふと止まった。
「……え?」
ログの中に、私の弟――圭の活動履歴がある。
おかしい。ハチのお父さんが亡くなった日に設定が更新されてから、ずっと動きがなかったはずなのに。
私は、圭のログを見ていく。
ハチが現実世界で目を覚まして、その後に初めてβ世界にログインした日から、圭は動き始めていた。そして、ハチがログインしているときは、圭も活動している。
――このログから読み取れることは……。
「ハチと圭は、β世界で会っていたの?」
胸の奥がざわめいた。
私は急に圭のことが気になり、圭の今の座標を調べる。
そして次の瞬間には、β世界にログインしていた。
「だから、それもあなたのせいじゃないでしょ? 会社を辞めるって決めたのは八幡くんなんだから。なんでも自分のせいにするんじゃありません! そういうところを可琳はなおしていかないと」
ママが少しだけ口調を強めて言った。
私は黙って俯いた。ママの言葉はもっともだ。でも、私が関係していることは事実だし――
「……可琳がシステム開発部に来てくれるのは嬉しいけど――ねぇ、八幡くんと、一度きちんと話した方がいいんじゃない?」
ママの声が優しくなる。
「ママは何度か八幡くんと話したときに、あなたへの想いの強さをとても感じていたの」
私は静かに首を振った。
「ハチにその気があるのなら、私に連絡をくれるはずでしょ? もうハチは、私のことなんか忘れて、新しい人生を歩んでるんだよ」
「あなたはそれでいいの?」
「私から距離を置いたんだもん。これでいいんだよ。ハチの隣にいるべき人は、私じゃない」
自分で言いながら、胸の奥が苦しくなる。心の奥がざわついた。
ママは小さく息をついて、それからハチの話はしなかった。
食事を終え、私は自室に戻ってきた。
小さい頃から、ママたちが離婚したのは、自分のせいだと思っていた。
でも、ママの話をきいて、それは違うとわかった。
――私のせいじゃなかった。
そう思えたのに、なぜだろう。軽くなったはずの心に、今度は違う痛みが生まれた。
パパは離婚してから、一度も私に会いに来てくれない。
それはつまり、パパも、私から離れていったということだ。
私は――パパに愛されていなかった?
胸がきゅっと痛む。
パパと一緒に暮らしていた日々を振り返る。
一緒にごはんを食べたり、お出かけしたりしたけれど、いつも話しかけるのは私の方からで、パパの興味はいつも、テレビやスマホだった。
もし、私から何も話しかけなかったら?
パパは私のことを、気にかけてくれただろうか?
厳しいことを言われたり、嫌な思いをしたことはない。でも、悲しいとき、辛い時、慰めてくれたのはいつもママで、パパは、私と関わろうとしていなかったのだと、気づいてしまった。
パパは、いつからママと私に興味がなくなったんだろう。
……もしかしたら、最初からなかったのかもしれない。
私が大好きな人達は、みんないつの間にか、私から離れていく。
きっとハチも、私への興味がなくなったんだ。だからあれから、なんのリアクションも起こさない。
……そうだよね。
あんなに酷い言葉を投げつけた私のことなんか、気にするはずがない。
こんなに辛い思いをするなら、もう新たに、人との関係を作るのはやめよう。
どうせいつか、離れていってしまうんだ。
だったら初めから、近づかなければいい。
もうこれ以上、苦しい思いはしたくない。
現実世界は、とても冷たくて苦しい。
ハチの世界は、あんなにも優しさで溢れていたのに。
急に、ハチの世界が恋しくなった。ハチのお父さんが作った、どこまでも優しい世界。
「窪くんのラーメン、また食べたいな」
仕事終わりに顔を出すと、ハチと窪くんの温かい声が飛んでくる。
優しい人たち。ハチと並んで歩いた帰り道。二人の間を心地よく吹き抜ける風。満点の星空。
現実はこんなにも苦しいのに、あの世界だけは、私を優しく包みこんでくれた。
――ハチは今でも、あの世界に行っているんだろうか。
私は、古いアルバムをめくるような気持ちで、β世界のログを見る。
もしハチがいなければ、少しだけ、β世界に行ってみようかな。
あの日以来、ハチがログインした形跡はなかった。
ハチは私みたいに、現実逃避なんてしない。
ハチはやっぱり、しっかりと自分の人生を歩んでいるんだ。
「ほんとハチは、かっこいいな……」
関係は終わったと言いながら、私ばかりが、ハチの面影を追って、いつまでたっても忘れることができない。
そんな自分が情けなくて、思わず苦笑いが溢れる。
ログを見ていく手が、ふと止まった。
「……え?」
ログの中に、私の弟――圭の活動履歴がある。
おかしい。ハチのお父さんが亡くなった日に設定が更新されてから、ずっと動きがなかったはずなのに。
私は、圭のログを見ていく。
ハチが現実世界で目を覚まして、その後に初めてβ世界にログインした日から、圭は動き始めていた。そして、ハチがログインしているときは、圭も活動している。
――このログから読み取れることは……。
「ハチと圭は、β世界で会っていたの?」
胸の奥がざわめいた。
私は急に圭のことが気になり、圭の今の座標を調べる。
そして次の瞬間には、β世界にログインしていた。
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