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【第十二章】あなたが灯す世界
私も、やりたいことを見つけたよ
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――こんな幸せな日が、あっていいの?
いつまでも、このままでいたい。
そう思っていたら、ハチはふっと腕を緩め、照れたように笑うと、再び車椅子を押しながら歩き出した。
「ってことで、ご飯を食べに行こう!」
こんなに素敵な雰囲気だけど、私は慌てて話を切り出す。
「あのね、ハチ。とっても言いにくいんだけど……パンケーキのお店は……」
もうすぐお店に着いてしまう。
せっかくハチが予約してくれたけど、あのお店は車椅子では入れない。
どうしよう。ちゃんと伝えなきゃ。
そう思って、勇気を振り絞って話し始めたとき――
目の前に見えたお店を見て、私は息を呑む。
そういえばこのお店……十二月末まで改装中……って。
それをすっかり忘れていた私は、見違えたお店の入口を見て驚く。
改装後の入口は、段差がなくなり緩やかなスロープがついていた。
言葉を失っているうちに、ハチは迷いなくそのスロープを上がり、すんなり店内へ。
「いらっしゃいませ」
「予約していた八幡です」
店員さんが笑顔で案内する。
私は店内へと進んだ瞬間、さらに驚いた。お店の中も、以前とはまるで違う。
テーブルとテーブルの間がゆったりとした間隔になっていて、以前よりもずっと落ち着いた雰囲気になっている。目を向けた先には、私たちのために用意されたテーブル。椅子は、一つだけだった。
ハチが自然な動作で、椅子が無い方の席に車椅子を止めてくれる。
照明が控えめで、柔らかいオレンジ色の光が店内を包んでいた。
テーブルの上には、可愛いフラワーアレンジメント。キャンドルの炎が静かにゆらめいて、とても綺麗だ。
私はまだ、驚きと感動で言葉が出せずにいた。
「鈴木さんたちから、このお店は車椅子では入れないって聞いていたんだ。でね、礼美さんは、ずっとこのお店に改装のお願いをしてたんだって」
ハチは楽しそうに笑いながら続ける。
「でも、開店したばかりのお店に改装なんて、無理って何度も断られててさ。まあ、当然だよね」
私は驚きつつ、思わず聞き返す。
「え、じゃあ……どうして?」
「我が社総出で説得したんだよ」
「……我が社?」
「うん。僕、アストラルアークを辞めて、礼美さんがいる会社に転職したんだ」
私は目を見開いた。
ハチが礼美ちゃんの会社に――?
「弊社の社長と、この店のオーナーが同級生らしくてね。『屋上にテラス席を作りたい』っていうオーナーの要望を、タダみたいな価格で引き受ける代わりに、改装をオーケーしてもらったんだ」
「えっ……すごい」
私は思わずふふっと笑ってしまう。
「うん。ランチは若者とファミリー向け、夜は年齢層高めをターゲットにしてメニューを変更。バリアフリーにして、店内もゆったりとした空間にすれば、ベビーカーや足腰が不自由なお年寄りも気軽に立ち寄れる。このお店だけじゃなくてさ、僕たちは、このリアルの世界を〈MAHORA〉に負けないくらい、誰もが住みやすい世界にしたいと思ってるんだ」
ハチの声が、まっすぐに届く。
こちらの世界で初めてハチと会った時、彼の大きくなった背中を、ただ眩しく感じていた。
だけど今――目の前にいるハチは、その時以上に、ずっと輝いて見えた。
「僕はやっと、この世界で、やりたいことを見つけたよ」
あの頃、漠然と「東京に行きたい」と言っていたハチ。
そんな彼は今、自分で考え、選びとった道をまっすぐに歩き始めている。
「ハチ……かっこいい」
ぽつりと溢れた言葉に、ハチの顔が一瞬で赤く染まった。
「なっ……!」
目を丸くして固まるハチを見て、私は思わずふふっと笑った。
こういうところは、昔のハチと変わらない。
「私もね、やりたいことが見つかったの」
「えっ」
ハチが、驚きと喜びが混じった目で私を見つめる。
「私、システム開発部に異動したんだ」
「ええっ!」
「はじめはママに頼まれて、ハチの穴埋めって感じだったんだけど」
ハチが「あっ」という顔をして、申し訳なさそうに右手を出し、ゴメンってポーズをとる。
「ふふっ。でもそのおかげで、気づけたんだ。私は本気で〈MAHORA〉の開発に関わろうって決めたの」
ハチの目が真剣にこちらを見つめる。
「私を救ってくれた世界は〈MAHORA〉のβ版だった。あのときの私みたいに、〈MAHORA〉に救われた人は、きっとたくさんいると思うから」
少し前まで、私は何もできないと思っていた。
でも――もう違う。
私も、ハチの隣にいて恥ずかしくない自分でいられるように。
この世界で、自分ができることをやっていこう。
いつまでも、このままでいたい。
そう思っていたら、ハチはふっと腕を緩め、照れたように笑うと、再び車椅子を押しながら歩き出した。
「ってことで、ご飯を食べに行こう!」
こんなに素敵な雰囲気だけど、私は慌てて話を切り出す。
「あのね、ハチ。とっても言いにくいんだけど……パンケーキのお店は……」
もうすぐお店に着いてしまう。
せっかくハチが予約してくれたけど、あのお店は車椅子では入れない。
どうしよう。ちゃんと伝えなきゃ。
そう思って、勇気を振り絞って話し始めたとき――
目の前に見えたお店を見て、私は息を呑む。
そういえばこのお店……十二月末まで改装中……って。
それをすっかり忘れていた私は、見違えたお店の入口を見て驚く。
改装後の入口は、段差がなくなり緩やかなスロープがついていた。
言葉を失っているうちに、ハチは迷いなくそのスロープを上がり、すんなり店内へ。
「いらっしゃいませ」
「予約していた八幡です」
店員さんが笑顔で案内する。
私は店内へと進んだ瞬間、さらに驚いた。お店の中も、以前とはまるで違う。
テーブルとテーブルの間がゆったりとした間隔になっていて、以前よりもずっと落ち着いた雰囲気になっている。目を向けた先には、私たちのために用意されたテーブル。椅子は、一つだけだった。
ハチが自然な動作で、椅子が無い方の席に車椅子を止めてくれる。
照明が控えめで、柔らかいオレンジ色の光が店内を包んでいた。
テーブルの上には、可愛いフラワーアレンジメント。キャンドルの炎が静かにゆらめいて、とても綺麗だ。
私はまだ、驚きと感動で言葉が出せずにいた。
「鈴木さんたちから、このお店は車椅子では入れないって聞いていたんだ。でね、礼美さんは、ずっとこのお店に改装のお願いをしてたんだって」
ハチは楽しそうに笑いながら続ける。
「でも、開店したばかりのお店に改装なんて、無理って何度も断られててさ。まあ、当然だよね」
私は驚きつつ、思わず聞き返す。
「え、じゃあ……どうして?」
「我が社総出で説得したんだよ」
「……我が社?」
「うん。僕、アストラルアークを辞めて、礼美さんがいる会社に転職したんだ」
私は目を見開いた。
ハチが礼美ちゃんの会社に――?
「弊社の社長と、この店のオーナーが同級生らしくてね。『屋上にテラス席を作りたい』っていうオーナーの要望を、タダみたいな価格で引き受ける代わりに、改装をオーケーしてもらったんだ」
「えっ……すごい」
私は思わずふふっと笑ってしまう。
「うん。ランチは若者とファミリー向け、夜は年齢層高めをターゲットにしてメニューを変更。バリアフリーにして、店内もゆったりとした空間にすれば、ベビーカーや足腰が不自由なお年寄りも気軽に立ち寄れる。このお店だけじゃなくてさ、僕たちは、このリアルの世界を〈MAHORA〉に負けないくらい、誰もが住みやすい世界にしたいと思ってるんだ」
ハチの声が、まっすぐに届く。
こちらの世界で初めてハチと会った時、彼の大きくなった背中を、ただ眩しく感じていた。
だけど今――目の前にいるハチは、その時以上に、ずっと輝いて見えた。
「僕はやっと、この世界で、やりたいことを見つけたよ」
あの頃、漠然と「東京に行きたい」と言っていたハチ。
そんな彼は今、自分で考え、選びとった道をまっすぐに歩き始めている。
「ハチ……かっこいい」
ぽつりと溢れた言葉に、ハチの顔が一瞬で赤く染まった。
「なっ……!」
目を丸くして固まるハチを見て、私は思わずふふっと笑った。
こういうところは、昔のハチと変わらない。
「私もね、やりたいことが見つかったの」
「えっ」
ハチが、驚きと喜びが混じった目で私を見つめる。
「私、システム開発部に異動したんだ」
「ええっ!」
「はじめはママに頼まれて、ハチの穴埋めって感じだったんだけど」
ハチが「あっ」という顔をして、申し訳なさそうに右手を出し、ゴメンってポーズをとる。
「ふふっ。でもそのおかげで、気づけたんだ。私は本気で〈MAHORA〉の開発に関わろうって決めたの」
ハチの目が真剣にこちらを見つめる。
「私を救ってくれた世界は〈MAHORA〉のβ版だった。あのときの私みたいに、〈MAHORA〉に救われた人は、きっとたくさんいると思うから」
少し前まで、私は何もできないと思っていた。
でも――もう違う。
私も、ハチの隣にいて恥ずかしくない自分でいられるように。
この世界で、自分ができることをやっていこう。
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