ジ・エンドブレイカー

アックス☆アライ

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第三章 広がる世界

14話 新たな脅威③

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 「日々喜!?」

 オレガノが心配するような声を上げ、身を乗り出した。

 「待て、オレガノ。様子がおかしい」

 反射的に木陰から飛び出そうとするオレガノをキリアンがそう言って抑え込んだ。

 「俺達はともかく、どうしてマジックブレイカー達も身を隠しているんだ」

 キリアンの言う通り、先程まで彼らが戦っていた現場には、地面に縫い付けられたムラサメを残し、全員が木陰に隠れている。
 射手がマジックブレイカー達の仲間なら、そんな真似をする必要はないはずだった。

 「別の敵……?」

 リグラがキリアンの考えを理解したように呟いた。

 「シッ!」

 キリアンは静かにする様にと、口元に指を添えた。そして、ムラサメを挟んだ森の向こう側を指差した。
 何者かがこちらを目指して歩いて来るのが分かった。
 その人物は長身の身体に藍色のマントをまとい、切れ目から出した両手にはしっかりと弓を構えていた。羽織ったマントの襟元は、色黒のその顔の半分ほどを隠していたが、常に周囲に気を配る様に赤い両目をぎらつかせている。そして、まとったマントでは隠し切れない、特徴的な尖った両耳が突き出し、背中に掛かる程の長い銀色の髪が後頭部でまとめられ垂れ下がっていた。
 エルフだ。その姿を見た誰もが疑う事は無かった。
 エルフは、辺りを警戒する様子でゆっくりとムラサメの元へ歩いて来る。そして、地面に縫い付けられたまま、のたうち回る巨大な白蛇を眺め、怪訝な様子で首を傾げていた。

 「かかれ!」

 突如としてノブカの叫び声が上がり、木陰に隠れていた四人のマジックブレイカー達が一斉にそのエルフ目掛け切りかかった。
 エルフは手にしていた弓矢を手放す。
 次の瞬間、飛び掛かる者達よりも早く、エルフはその場を旋回する。まとっていた藍色のマントが勢い良くはためき、瞬時に群青色の竜巻を起こしたのかと錯覚させた。すると、切りかかるマジックブレイカー達は、その旋風に巻き込まれる様にして、次々と素手で打ち倒され、吹き飛ばされた。
 先に手放した弓が地面へと落下した時、その後に続く様にして、ノブカ達四人のマジックブレイカー達も気を失ったまま地面へと倒れて行った。
 エルフは倒れた者達の様子を窺い、それが起き上がる事が無い事を確かめると、地面に落ちた弓矢を拾い上げた。
 一連の流れを木陰から見つめていたキリアンは、そのエルフの強さに息を呑んだ。
 敵ではないのか。少なくともマジックブレイカー達の仲間ではない。しかし、白蛇やコウミにさえ矢を射った。見つかればただでは済まないかもしれない。

 「キリアン……」

 リグラが不安を顕わに声を掛けた。

 「静かに。このままやり過ごすしかない」

 キリアンは声を小さく答えた。
 しかし、エルフは姿を隠し続けるキリアン達の方へ、赤い視線を送っていた。

 「そこにいる者。出て来い」

 エルフの言葉に、見習い達は思わず身を震わした。こちらを睨みつけるエルフの視線は一向にブレる様子が無い。やり過ごす事は出来ないだろうと、見習い達は諦めた様にそこから姿を現した。

 「お前達、何者だ。ここで何をしている?」

 厳しい視線を解く事無くエルフは尋ねた。キリアンはそんなエルフの様子を警戒しながら話し始めた。

 「俺達は修練生だ」
 「修練生?」

 エルフは目を細める。この国の文化に疎い様子に見える。

 「修行の旅の最中で、カフカ―ス山脈を越える行程をこなしてる」
 「……ああ、見習い魔導士の事か」

 エルフは納得したのか、警戒を解く様にそれまでつがえていた矢を腰に携える矢筒の中に納め、自らの襟元を引き顔を顕わにした。
 均整の取れたその顔立ち、尖った耳は見習い達の良く知るクレス・フォレストと同じエルフの特徴である事を思わせた。しかし、目の前にする人物はクレス以上に美しく感じられる。人よりも一回り大きな瞳は鋭く光り、顎は細く、鼻は普通の人の三倍は高いのではないかと思えた。不自然な程のその美しさは、性別すらも超越している様に見え、声を聞かなければ、女性と見分ける事も難しい程であった。
 エルフは、地面に伸びているマジックブレイカー達を確認する様に見渡し始めた。

 「こいつらは、お前達の仲間ではないのか?」
 「ち、違います! この森を越えようとしていたら、その人達に突然襲われて」

 エルフの言葉に、リグラが慌てて疑いを晴らそうとした。

 「襲われた、か……。それは、災難だったな」

 何か引っかかる事があったのか、エルフはそう呟きながら倒れている一人のマジックブレイカーの下に近づき、顔に付けていた猿の仮面を取り外した。
 あどけない少年の顔が顕わになる。

 「ダイワの残党……、では無いのか? この顔立ち、この国の生まれか……」

 気を失ったままの少年の顔をしげしげと眺めると、エルフはその様な言葉を口にして、考え込むように辺りを見渡し始める。
 緊張の面持ちでその様子を見守っていたリグラは、おずおずとエルフに話し掛け始めた。

 「あの、貴女は一体?」

 エルフはリグラの方へ顔を向けた。

 「魔導士の方でしょうか?」

 「私はトウワ国の剣士だ。魔導士ではない。ここへは旅の道中、偶然立ち寄っただけだ」
 エルフの言葉に、キリアンとリグラは耳を疑った。トウワ人と言えば、殆どが日々喜の様な黒髪に黒い瞳の人物であると思っていたからだ。
 ましてや、人種の異なるエルフがトウワ国にも居て、それが剣士となっているなど、聞いた事も無かった。

 「トウワ人が珍しいか?」

 リグラ達の表情を見て察した様にエルフは尋ねた。

 「東部ではそれ程でも無いと聞いていたんだがな」
 「いえ。おっしゃる通りですけど、でも、エルフのトウワ人は初めて見たもので」
 「エルフ? ……ああ、私の事か」

 無自覚なエルフは、リグラの言葉を聞いて初めて自分が人と異なる種である事を知った様な反応を見せた。

 「ところで、他にも人が居たな。黒髪の背の高い奴が……」

 会話をする中で、オレガノは終始心配する様な表情を見せながら、日々喜達の隠れる木陰へ視線を送っていた。エルフはそんなオレガノの視線を辿る様に、木陰の方を見つめた。

 「そこのお前。出て来い」

 エルフの言葉に従う様にして日々喜がゆっくりと姿を現した。怪我の無いその様子を見て、オレガノは安心した様に胸を撫で下ろす。

 「お前も見習いか?」

 トウワ人と見紛う日々喜の顔立ち、そして、オレガノ達と変わらぬ魔導士の装いを見て取り、エルフは怪訝そうに眉を歪めた。
 緊張しているのか、日々喜は答えようとしない。こちらに疑いをもたれている今、何でもいいから話した方がいいとキリアンは焦る様に日々喜の事を見守り続けた。

 「……何故、黙っている? 喋れないのか?」

 不信を募らせたようなエルフの言葉を聞き、キリアンは誤解を解こうと口を開きかけた。
 その時、エルフの背後から音も無く姿を現したコウミが目に入る。
 何時の間に、どうやって。キリアンがその様な疑問を表情に出す間もなく、コウミは目の前で背中を向けているエルフの首目掛け、手刀を繰り出した。
 エルフは表情を強張らせる。同時に腕を上げコウミの不意の一撃を防いだ。まるで、頭に目が付いているかのような反応だ。
 すかさず、コウミはエルフの纏う藍色のマントを掴み、そのまま締め上げようとした。しかし、その動きを読んでいたかのように、エルフは自らのマントを脱ぎ捨て、前方へと転がり込むように一回転し、コウミと対峙した。
 奇襲は失敗に終わり、両者の間には緊迫した間合いが出来上がる。
 それを見て、コウミは手にしたマントを捨て去った。ふと、自分の両手首に深々とした裂傷が付いている事に気が付く。

 「貴様は、何だ?」

 対峙するエルフは、何時の間にか引き抜いていた二本のナイフを両手に持ち、構え、コウミに尋ねた。

 「魔導士なのか?」

 コウミは答えない。自分の手首に付いた傷跡を見て、エルフの手に持つナイフを眺め、再び傷跡を調べ始めた。
 血は出ていない。痛みも感じていないのか、コウミの様子を見ている者には大した傷には思えなかった。しかし、それがエルフの手によるものである事が直ぐに分かった。

 「コウミ……」

 日々喜は心配する様にコウミの名前を呟いた。

 「コウミ?」

 日々喜に背を向けていたエルフは、その呟きを聞きとがめ、驚いた様子で日々喜の方を振り返る。

 「コウミだと!?」

 瞬時に距離を詰めたコウミ。驚き覚めやらぬ様子のエルフの不意を突き、殴りかかった。しかし、エルフはそれを紙一重で回避した。

 「お待ちを! もしや、貴女は!」
 「うるせぇ!」

 エルフは確認する様な事を言いかけるが、コウミは構わず拳を振るい続けた。
 エルフはコウミの振るう拳は全てかわし尽くして行く。そればかりか、コウミの動きを注意深く眺めるかのように、付かず離れず一定の間合いを維持しながら観察し続けていた。

 「ちょこまか動くな! 殴らせろ!」
 「その気性。まるで人の話を聞こうとしない性格。間違いない!」

 エルフは翻弄する様に飛び回り、喜びを乗せた言葉をついた。

 「馬鹿にしてんのか!」

 コウミは腹を立て乱暴に腕を振り回した。

 「私です、ソウシです! お忘れですか!」
 「憶えていたら何だ! 射抜かれた事も、切り付けられた事も無かった事になるのか!」
 「誤解です! 私はモンスターが、この土地の人間を襲ってるものと」

 コウミの拳をかわしつつ、エルフは何とか誤解を解こうとそう言った。どうやらそのエルフとコウミは知り合いらしく、敵では無いのかもしれないと見習い達は思い始めた。

 「俺をモンスターと勘違いしたのか! なめるなよソウシ! 動くな! そこで、止まれ!」

 ソウシと名乗るそのエルフは足を止める。自分の名前を呼ばれた事に喜び、瞬時にのぼせた様に顔をピンク色に上気させコウミに応えた。

 「師母様!」

 その言葉を聞き見習い達は一様に驚いた顔をした。

 「師母様!?」

 次の瞬間、コウミの渾身の左拳がソウシの顔面に直撃した。
 そのまま、背後に吹き飛ぶソウシ。仰向けに地面に倒れ動かなくなった。

 「フン! スッとしたぜ」

 殴り抜けた確かな感触を振り払う様に、コウミは満足気に手を振り、倒れたエルフに向かってそう言い放った。
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