再会した年下幼馴染が豹変してしまっていた

三郷かづき

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再会

職場にて

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 マンションの契約変更は元々同棲する予定もあったことで一週間ほどで終わったが、拓海はまだ龍臣に連絡できていなかった。テーブルに置かれた書類を腕組みしながら眺め、うんうんと思案しているだけで時間が過ぎていく。その繰り返しである。

「おっ片瀬、何ぼーっとしてんの?」

 職場の昼休み、スマホを見ている拓海の猫背を同僚の中原が勢いよくたたいた。はっと顔を上げた拓海の手の中でスマホの画面は黒くなっていて、心ここにあらずな状態を指摘された拓海はため息をつく。

「中原、あれ、今日の弁当は」

「今日はなし。たまには昼飯でも食いに行こうぜ」

 中原に誘われ、二人は近所の蕎麦屋へと向かった。拓海は天ぷら蕎麦、中原はカレーを注文した。

「片瀬が婚約者と別れたのっていつだっけ」

「うーん、一カ月前くらいかな」

「なんか最近元気ねえしさー、まだ引きずってんの?」

 元婚約者とは三年ほど付き合っていた。その際に中原の彼女も含めて四人で出かけたことがある。中原とその彼女は現在同棲中で、中原の持参する弁当は大抵その日の夕飯の残りらしい。どちらもとても快活で明るい、お似合いの二人だ。

「…いや、引きずっては、ない」

「そうなん?この前飲みに行ったときはまあまあ堪えてそうだったけど」

「何考えてるかわからないとか言って振られて、ショックだった部分はあったが…正直今問題なのはそこじゃないんだ」

「えっどこどこ」

 ちょうどその時定食とカレーが運ばれてきた。中原はいいところで話が区切られ俺の方を見て話し始めたいようにそわそわしている。
 店員が去った途端、中原は身を乗り出し面白そうな目で拓海を見つめる。早くつづきを話せという無言の圧を感じながら、拓海は口を開いた。

「いや、幼馴染と同居することになった」

「えっ幼馴染⁉それって女性?」

「いや男子大学生」

「なーんだ」

「なんだってなんだ」

 中原は落胆したように背もたれに深く腰掛けた。

「幼馴染の男子大学生とルームシェアすることの何が問題なんだよ」

「六年間も会ってなかったんだぞ、年も離れてるし何を話していいかわからん」

 何を話したらいいかわからない以前に、セックス込みの関係になってしまった幼馴染にどのように接したらいいのかわからない。しかしそんなことはいくら親しい同僚にも言うわけにはいかない。

「まあ就職の相談くらいには乗ってあげられるんじゃないか?」

 カレーを食べながら完全に興味を失った中原がそう言った。


 その日は午後もつつがなく業務を終わらせ、定時になって拓海は会社を出た。最寄り駅から家までの道を歩いて、龍臣と再会したあの小路へと差し掛かる。再開した日から拓海はなんとなくその道を避けていた。
 近道だが今日も帰ろうと踵を返しかけた時、小路の奥から誰かがもめるような声が聞こえてきた。覗いてみるとそこにはやはり不良たちが地面に這いつくばり、龍臣のみが立ち尽くしていた。あの時のように誰かに跨っていないだけ幸いである。

「おい龍臣、お前また喧嘩したのか」

 声をかけられて初めてこちらを認識した龍臣は、拓海の方をみてビクッと体を震わせた。

「……」

「黙ってんなよ、俺とした約束もう忘れたのか。喧嘩するんじゃねえ」

 倒れる不良たちの真ん中に沈黙が落ちる。顔を背けていた龍臣がこちらをきっと睨みつけた。

「喧嘩しちゃダメとは言われてねえ」
「屁理屈言うな」

 埒が明かないと思い龍臣の腕をつかんで自分の家へと歩き出す、二週間前にもこんなことあったなと思いながら。

「まあ取りあえず入れよ」

 龍臣を招き入れ、お茶を用意しているとキッチンに龍臣が入ってきた。その手に封筒を持って。

「これ、契約変更の書類だよな」

 現在の拓海を苦しめる悩みの現況。テーブルの上に無造作に置いていたそれを、今一番見てほしくなかった人が見つけてしまった。

「なんで終わったのに言ってくれなかったの?」

 咄嗟に目を合わせられずそっぽを向いた拓海に、龍臣はなおも言葉を続けようとしたが、黙り込んだ。そのまま言葉を発さない龍臣をちらと見ると、その顔は今にも泣きそうに歪んでいた。

「そんなに俺と住みたくなかったの」

「いや、そういうわけじゃ」

 嘘だ。本当はずっと龍臣への態度を決めかねて、迷っていた。

「もう、俺のこと幻滅した?そうだよな。こんな誰とでもヤる奴なんて願い下げだ」

「そんなことない!」

 そう言われて初めて拓海は自分の煮え切らない行動が龍臣を傷つけたことを知った。自分たちの間には六年分の距離がある。その間に何があったのかも知らないで、龍臣の―大事な幼馴染のことを理解しようともしていなかった自分に嫌気がさす。

 これからは見て見ぬふりをしないでちゃんと龍臣と向き合おう。龍臣の感じる寂しさをできるだけ自分がなくせるように。
 そしていつかは龍臣が本当に大切にできる誰かと出会って幸せになってほしい。自分はそれを見届けたい。

「龍臣がどんなになっても俺は龍臣のこと兄弟みたいに大切に思ってるからな」

 龍臣の手を掴んでそう言うと、龍臣は安堵したような寂しそうな表情で笑った。拓海はその表情に少し違和感を覚えたが、龍臣に唐突に抱き着かれ顔が見えなくなったために結局わからなかった。
首に触れる龍臣の手が少し冷たい。

「それじゃあ、今日から一緒に住んでくれる?」

「今日からかー、まあいいよ」

 耳元で小さく尋ねられた声に拓海は苦笑いして答えながらも、嫌ではなかった。これからの生活に思いを馳せながら、ぽんぽんと龍臣の背をたたいた。
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