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君がいない六年間
それは個人情報です
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ブランコに座ってゆらゆら揺れる。特に楽しいわけでもなく、腕を限界まで伸ばし身体を限界まで倒してひたすらにゆらゆら揺れる。
習い事のカバンに家の鍵を入れっぱなしで忘れてしまった。だから今日の龍臣は家に入れない。だがそれは龍臣にとってそれほど苦ではなかった。
中学生の姉と保育園生の妹はまだ帰ってこないし、シングルマザーの母はきっと今日も遅くまで仕事をしてくるのだろう。家にいるのもここでブランコに乗っているのも、引っ越したばかりで友達もいない龍臣にとっては同じことだった。
夏だったら自分はコンクリートで茹だっていただろうから、季節が秋でよかった、とそんなことを考えながら、背負ったランドセルがクッション代わりになることを信じ、ひょいと腕を離して背中から落ちた。
ブランコから落っこちたらどうなるんだろう、という純粋で幼稚な好奇心からの行動だった。いくら好奇心があったって痛いのは嫌だ。
しかしそれを実行に移してしまえるくらい龍臣は退屈で仕方がなかった。
「大丈夫かっ!」
ランドセルのおかげでどこもいたくなかった。ちらちらと紅葉が舞う中で地面に寝転がり青空を見上げ続けていた龍臣の頭上に黒い影が落ちた。
詰襟を着て学生鞄を持った青年がこちらを心配そうに見下ろしてくる。龍臣を片手で引っ張り起こしたその青年こそ、中学生の片瀬拓海だった。
ベンチに座らされどうして一人公園にいるのかと聞かれたため、龍臣は正直に鍵を忘れたことを話した。話したからといって拓海に何らかの対応を求めてはいなかったし、むしろそのまま立ち去るだろうとも思っていた。
だが拓海は違った。半ば強制的に龍臣を自分の家に迎え入れ、龍臣は姉が部活から帰ってくる時間まで拓海の家に置いてもらうことになった。
「なあ、名前はなんていうの?」
「…こじんじょーほーだから教えない」
「ははっまじか!個人情報を知っているなんてお前は賢いな」
愛想がなく口数が少なかった龍臣を前にしても、拓海はまったく気にしていないようでべらべらと一人で喋り続けていた。時々こじんじょーほーにならない質問に答えカードゲームなどをして、龍臣は引っ越してから初めてといっていいくらい楽しい時間を過ごした。
夜六時頃、姉、千鶴の帰宅時間に合わせて二人で龍臣の家に向かった。玄関まで見送ってくれた拓海の母、晴美は「またいつでもいらっしゃい」とにこにこ笑って言った。
意外にも二人の家は同じ通りにあって、龍臣の母、辰子とも町内の役員としてお互い面識があったらしい。
家に帰ると先に帰っていた千鶴がほぼ怒りながらも迎えてくれた。いるはずの龍臣が家の中にいないので心配して探しに行こうとしていたらしい。申し訳ないなと思いながら拓海と一緒に怒られた。その流れで拓海と千鶴が同じ学校の同じ部活に所属していたこともわかり、二人はスポーツの話題で意気投合していた。
仲良く話している二人を見ていると何故かちくっと胸が痛くなって、思わず千鶴の服の裾を引っ張った。
「なに?たつくん」
「あ、そういえば名前聞いてないんだった。こじんじょーほーだもんな」
拓海は龍臣と目を合わせてにやっと笑った。同じ話題を共有している者に送られる視線が嬉しくて龍臣も同じようににやりと笑って見せた。
「ふーん、こいつはね黒田龍臣っていうの。私の弟」
千鶴が龍臣と肩を組みながら言った言葉に、拓海は驚いたように目を丸くした。
「えっ、この子男の子なの⁈」
「そうそう男の子なの。お目目ぱっちりで背も低いし凄い美少女に見えるよねー」
「びっくりしたわ、お前すっごい可愛いからなー!」
今まで女の子だと思われていたのかと憤慨して、キッと拓海を睨みつけると「ごめんごめん」と笑いながら頭をなでられた。
そのまま頬を膨らませながらも、拓海に言われた「可愛い」が嬉しかった。それを隠すために龍臣はしばらく怒ったふりを続けていた。
習い事のカバンに家の鍵を入れっぱなしで忘れてしまった。だから今日の龍臣は家に入れない。だがそれは龍臣にとってそれほど苦ではなかった。
中学生の姉と保育園生の妹はまだ帰ってこないし、シングルマザーの母はきっと今日も遅くまで仕事をしてくるのだろう。家にいるのもここでブランコに乗っているのも、引っ越したばかりで友達もいない龍臣にとっては同じことだった。
夏だったら自分はコンクリートで茹だっていただろうから、季節が秋でよかった、とそんなことを考えながら、背負ったランドセルがクッション代わりになることを信じ、ひょいと腕を離して背中から落ちた。
ブランコから落っこちたらどうなるんだろう、という純粋で幼稚な好奇心からの行動だった。いくら好奇心があったって痛いのは嫌だ。
しかしそれを実行に移してしまえるくらい龍臣は退屈で仕方がなかった。
「大丈夫かっ!」
ランドセルのおかげでどこもいたくなかった。ちらちらと紅葉が舞う中で地面に寝転がり青空を見上げ続けていた龍臣の頭上に黒い影が落ちた。
詰襟を着て学生鞄を持った青年がこちらを心配そうに見下ろしてくる。龍臣を片手で引っ張り起こしたその青年こそ、中学生の片瀬拓海だった。
ベンチに座らされどうして一人公園にいるのかと聞かれたため、龍臣は正直に鍵を忘れたことを話した。話したからといって拓海に何らかの対応を求めてはいなかったし、むしろそのまま立ち去るだろうとも思っていた。
だが拓海は違った。半ば強制的に龍臣を自分の家に迎え入れ、龍臣は姉が部活から帰ってくる時間まで拓海の家に置いてもらうことになった。
「なあ、名前はなんていうの?」
「…こじんじょーほーだから教えない」
「ははっまじか!個人情報を知っているなんてお前は賢いな」
愛想がなく口数が少なかった龍臣を前にしても、拓海はまったく気にしていないようでべらべらと一人で喋り続けていた。時々こじんじょーほーにならない質問に答えカードゲームなどをして、龍臣は引っ越してから初めてといっていいくらい楽しい時間を過ごした。
夜六時頃、姉、千鶴の帰宅時間に合わせて二人で龍臣の家に向かった。玄関まで見送ってくれた拓海の母、晴美は「またいつでもいらっしゃい」とにこにこ笑って言った。
意外にも二人の家は同じ通りにあって、龍臣の母、辰子とも町内の役員としてお互い面識があったらしい。
家に帰ると先に帰っていた千鶴がほぼ怒りながらも迎えてくれた。いるはずの龍臣が家の中にいないので心配して探しに行こうとしていたらしい。申し訳ないなと思いながら拓海と一緒に怒られた。その流れで拓海と千鶴が同じ学校の同じ部活に所属していたこともわかり、二人はスポーツの話題で意気投合していた。
仲良く話している二人を見ていると何故かちくっと胸が痛くなって、思わず千鶴の服の裾を引っ張った。
「なに?たつくん」
「あ、そういえば名前聞いてないんだった。こじんじょーほーだもんな」
拓海は龍臣と目を合わせてにやっと笑った。同じ話題を共有している者に送られる視線が嬉しくて龍臣も同じようににやりと笑って見せた。
「ふーん、こいつはね黒田龍臣っていうの。私の弟」
千鶴が龍臣と肩を組みながら言った言葉に、拓海は驚いたように目を丸くした。
「えっ、この子男の子なの⁈」
「そうそう男の子なの。お目目ぱっちりで背も低いし凄い美少女に見えるよねー」
「びっくりしたわ、お前すっごい可愛いからなー!」
今まで女の子だと思われていたのかと憤慨して、キッと拓海を睨みつけると「ごめんごめん」と笑いながら頭をなでられた。
そのまま頬を膨らませながらも、拓海に言われた「可愛い」が嬉しかった。それを隠すために龍臣はしばらく怒ったふりを続けていた。
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