異世界で勇者になってたクラスメイトの愛が重すぎる

北山カナ

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英雄の裏側

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 屋敷に帰ると、早朝に家を出ていた小林くんはすでに戻ってきていた。 
 
「おかえり橘さん、勉強お疲れ様」 
「ただいま…」 
 
 広間のテーブルに置かれたクッキーのようなものが入ったバスケットが私に差し出される。
 
「橘さんもよかったら食べない?」
 
 バスケットから覗くのは、表面に砂糖がまぶされた四角いシンプルなクッキーと、アーモンドが真ん中に埋め込まれた丸いクッキー。ふわりと香るバターと小麦の香ばしいにおいが食欲を刺激する。
 
「少しもらおうかな」
「飲み物用意してもらうね、紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「じゃあ…紅茶で」
「テオ、紅茶を2つ」
「かしこまりました」
 
  後ろに控えていた若い執事の人が紅茶を取りに部屋を出ていった。小林くんの正面に位置する椅子に座ると「勉強どうだった?」と尋ねられた。
 
「楽しかったよ。歴史を勉強したんだけど、神話とか魔法とかがたくさん出てきてファンタジーみたいだった」
「歴史学んでるはずなのに物語読んでるみたいだよね」
 
 この国の歴史の話で盛り上がっていると、テオさんが紅茶を持って、目の前でカップに注いでくれた。少し飲んでみると、花のような香りが口いっぱいに広がった。華やかな香りに反して、あまり主張しないすっきりとした味わい。甘いクッキーと一緒に飲むのにぴったりな紅茶だ。
 
「おいしい?」
「うん、さっくりしてて、甘さもちょうどいいし、すごくおいしいよ」
「よかった、まだあるから好きなだけ食べてね」
 
 にこにここっちを見ながら紅茶に口をつけるばかりで、小林くんはクッキーをひとつも食べようとしない。
 
「食べないの?」
「んー、僕は橘さんが帰ってくる前に食べたから大丈夫かな」
 
 それならいいけど…じっと見られてると食べにくいな
 
「…そういえば、オリバーさんに小林くんたちがどうやって魔王と戦ったのか教えてもらったんだけど、小林くんが作戦立てたんでしょ?すごいね」
「ありがとう。でも僕ひとりで考えたわけじゃないよ、いろんな人に協力してもらったからできたことだし」

 相変わらず謙虚だな。世界を救ったんだからもっと自慢したってみんなよろこんで聞いてくれるだろうに

「ほんとにたくさんの人が関わってたんだ。何回も会議にかけたし、国の軍部も半分くらい動かしてもらったから」
「え、4人で魔王城に潜入したって聞いてたんだけど」
「魔王城に潜入したのは4人だけど、魔王軍もたくさんいたから魔王城から離す必要があって…そこまでは聞いてない?」

 どうやらオリバーさんの話は、かなり簡略化されていたらしい。実際は、魔王軍やいくつもの部隊の動きも絡んでいて、複雑な作戦だったようだ。小林くんが丁寧に説明してくれたけど、私の頭じゃ理解しきれなかった…

「できるだけ早く確実に終わらせたかったから、それを踏まえるとカイン、リヒト、リア王女の3人が能力的にベストだった。でも、そうなると上位貴族と王族だけになるからとてもじゃないけど過酷な長旅に耐えられるとは思えなかったんだ。僕も平和な日本育ちだから、野宿の経験なんてないしね。そもそも、道中で体力を削られたり、怪我をしたら非効率でしょ?」
「確かに…」
「持ち歩ける回復薬にも限りがあるし、魔王軍の近くで補給なんてできないからね。だったら魔王との戦いに全ベットした方がいいと思ってこの作戦にしたんだ」

 なるほど、そういう理由があったんだ。詳しい説明を聞くとほんとに無駄を極限まで省いた効率を重視した作戦だったんだな…

「そのおかげでだいぶ無茶な戦い方しても五体満足で帰ってこれたから、結果的にもこの作戦はよかったんだと思う」
「だいぶ無茶な戦い方…?」
「うん、腕3回飛んでっちゃって。でもその場で全部治ったんだから、この世界の回復薬ってすごいよね」
「えっ!?」

 腕が3回飛んでった!?ギョッとして思わず小林くんの腕を見る.

「あ、ごめんね。ちょっとグロい話だったね。でも、ちゃんと元に戻してもらったから大丈夫だよ」

 袖をまくると、確かに腕はちゃんとくっついていた。縫った傷なども見当たらない。

「ね?」

 小林くんはなんでもないことのように、私を安心させるように穏やかに笑った。
 あぁ、オリバーさんが言葉を濁していたのは、こういうことだったんだ。
 最小限の人数で敵地に突入し、ひとつ間違えたら全滅するかもしれない極限の戦いの中で最善の判断を繰り返す。何度負傷しようが即座に回復してまた戦う、なんて尋常じゃない覚悟とタフネスが必要だ。
 マニュアルに「何度腕を切り落とされても回復できる限り腕を生やして戦え」なんて書けないし、それを勇者に強要できるわけないよね…
「すごく大変な戦いだったんだね…」
「…そうだね…でも、今の平和を取り戻せたんだから、頑張った甲斐があったよ」

 さわやかに笑った。そんな過酷な戦場に身を投じてきたとは思えないほどに…

 もしも私が勇者として召喚されていても、こんなこと到底できなかっただろう。
 小林くんは、選ばれるべくしてここに呼ばれた人なんだ。
 やっぱり、すごい人だな…

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