極道転生 その男、外道につき

泳鯉登門

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第5話 ​外道認定と回顧録〚出会い〛②

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桜の店内は、ほのかに暖かかった。
客は、二人組の中年サラリーマン、キャバクラ嬢らしき女とその客、そして若い女性の五人。
​カウンターの向こうには、割烹着姿の四十前後の女将が立っていた。
「おや、親分さん。いらっしゃい。そこの席、あけてありますよ」
そう言って、視線で空いた席を示す。
​「おお、はるちゃん。すまねぇな」
親分が笑いながら言う。
「悪いが、この兄さんに旨いもんを適当に出してやってくれ」
​“はる”と呼ばれた女将、結城春子が俺を見る。
何かを察したように、ふわりと笑った。
​「ほらほら、立ってないで座って。難しい料理はできないけど、腕によりをかけておばちゃん頑張って作るからね」
​俺は黙ったまま、俯いて席に座る。
​その間も、サラリーマンたちやキャバ嬢たちは、組長に向かって愚痴をこぼしていた。
やれ、嫌味な部長から無理難題を押しつけられただの、この嬢(レイナ)が振り向いてくれないだの、彼氏が浮気しただの……。
​そのたびに組長は、
「そりゃ大変だったな」「頑張らないとな」「おうおう、そいつは心配だな」
と、笑顔やしかめっ面、驚き顔で相槌を打っていた。
​彼らも解決してほしいわけじゃない。
ただ、組長に話を聞いてもらい、笑ってもらうことで満足している。
「さすが親分さんだ、わかってくださる」
そう言って上機嫌に、自分たちの席に戻っていく。
​そんな光景を見ていると、
「出来たわよ~」と女将さんが盆を手に戻ってきた。
​白飯、味噌汁、厚揚げと野菜の煮物、キンピラゴボウ、だし巻き卵。
「今から唐揚げも作ってくるからね」
そう言い残し、パタパタとカウンターの中へ戻っていく。
​俺は料理を見つめる。
「ほら、遠慮せず。あったけぇ内に食え食え」
親分に勧められ、味噌汁を口にする。
​──暖かい。
​飯を食う。暖かい。
だし巻き卵、煮物、キンピラ……次々と箸が進む。
味噌汁をすする。
外で冷え切った身体が温まる。身体だけじゃない。
心の芯が、熱くなる。
​料理だけじゃない。
店の雰囲気、親分や他の客たちとのやり取り──
そのすべてが、暖かい。
​気がつけば、俺は泣きながら飯を食っていた。
​「兄さん、空腹はつらいよな。腹が減ってるってのはダメだ」
親分が穏やかに言う。
「人間な、腹が減ってるとイライラするし、考え事もろくな方にいかねぇ。ほら、いっぱい食え」
​親分だけじゃない。
女将も、客たちも、みんなが暖かい目で俺を見ていた。
​「兄さん、負けちゃいけないよ。頑張れよ」
「頑張っても負けそうになったら、いつでもいいから俺のところに顔を出しな。ここの女将とは昵懇(じっこん)の仲だ。俺のツケでいいから、遠慮なく食いに来い」
​「しかし、こりゃ本当に旨そうだ! さては、はるちゃんこの兄さんが男前だから奮発したな」
親分の一言に、女将さんが「もうやだ、親分さんは!」と返し、店の中は笑いに包まれる。
​俺は涙が止まらなかった。
こんな“暖かい”のは、いつ以来だろうか。
​──これが、親父との最初の出会いだった。
​俺は顔を上げ、立ち上がる。
​外道認定か。
……これが、俺の「業」だ。
​親父に憧れ、極道になった。
そして極道になってからも、その背中を追い続けた。
それでも、最後の最後で──それすら揺らいだ。
​逃げることも、誤魔化すこともできねぇ。
これが、俺に課せられた“宿命”なんだ。
​周りを見渡し、金品、食料、水、使えそうな物を袋に詰める。
先に出ていった四人が戻ってくる前に、アジトに繋がれていた馬へと乗る。
​そして──
背負うべき「業」と、異世界で生きる覚悟を胸に。
俺は静かにアジトを後にした。
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