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第6話 【街道と商人アンドリオ】
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「……やはり、異世界か」
馬の背で揺られながら、俺はぼんやりと考える。
人生初の乗馬が異世界とはな。
転生か、転移か。
今の俺は生後半日の新生児ってことか?
「……ま、どうでもいいか」
俺はすぐに思考を切り捨てた。
生きてるなら、やることは変わらねぇ。
夕暮れ前、ようやく街道に辿り着いた。
遠くには、古都ロールを目指す旅人たちの姿が見える。
「……やっと人の気配だ」
馬を止め、空を見上げる。
茜色の空。風が草原を渡り抜けていく。
日本でも異世界でも、夕暮れの寂しさは変わらねぇな。
俺は息を吐き、手綱を握る。
……が、どうにも周囲の視線が痛い。
無理もねぇ。
スカジャンにジーパン、返り血まみれの男が馬に乗ってるんだ。
俺が逆の立場なら、絶対に関わりたくない。
「このままじゃ、門兵に捕まるな」
舌打ちし、懐を確認する。
金貨、銀貨、鉄貨。
野盗の記憶によれば、鉄貨1枚が1ラルク――日本円で10円ちょい。
宿代が千ラルクとして、当面の金はある。
あとは、まともな服だけだ。
通りを見渡しながら、獲物を待つ。
やがて街道の向こうから、幌馬車が三台、近づいてきた。
二頭立ての馬車。側面には鉄板。
護衛の男たちは揃いの革鎧。掲げられた旗には「旅客商警備」の印。
「……来た。リヤス(旅客商警備)だ」
野盗から奪った知識が脳裏に浮かぶ。
国に属さず、金で商隊を護る民間のプロ。
“街道の秩序”を保つ影の存在。
旗を掲げているなら、話は通じるはずだ。
「……妙に安心するな」
俺は敵意がないことを示すため、馬を降り、両手を挙げて街道の脇へ立った。
護衛の一人が俺を睨み、もう一人が弓に手をかける。
当然の反応だ。
護衛が馬を寄せ、短く問う。
「何用だ」
俺は落ち着いた声で返す。
「野盗を追い払ったが、服が汚れた。金はある。着替えを売ってくれ」
嘘と事実を混ぜて、端的に伝える。
護衛は俺をじっと見定め、「待て」と言い残して馬車へ戻った。
しばらくして、荷台から小太りの男が降りてくる。
赤茶色の髪を束ね、上等な服を着ている。
砂埃など気にも留めず、満面の笑みで歩いてきた。
「いやぁ、災難でしたねぇ!」
男は人懐っこい笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「私はロールで商人をしとります、アンドリオと申します。服ならございますよ。えぇ、もちろん」
揉み手が似合いそうな、営業スマイル。
目が笑っていない。
あぁ、こりゃあ……狸か。
俺は手を出し、握手をする。
(胡散臭いな……狸親父が)
(胡散臭いですね……実に興味深い)
馬の背で揺られながら、俺はぼんやりと考える。
人生初の乗馬が異世界とはな。
転生か、転移か。
今の俺は生後半日の新生児ってことか?
「……ま、どうでもいいか」
俺はすぐに思考を切り捨てた。
生きてるなら、やることは変わらねぇ。
夕暮れ前、ようやく街道に辿り着いた。
遠くには、古都ロールを目指す旅人たちの姿が見える。
「……やっと人の気配だ」
馬を止め、空を見上げる。
茜色の空。風が草原を渡り抜けていく。
日本でも異世界でも、夕暮れの寂しさは変わらねぇな。
俺は息を吐き、手綱を握る。
……が、どうにも周囲の視線が痛い。
無理もねぇ。
スカジャンにジーパン、返り血まみれの男が馬に乗ってるんだ。
俺が逆の立場なら、絶対に関わりたくない。
「このままじゃ、門兵に捕まるな」
舌打ちし、懐を確認する。
金貨、銀貨、鉄貨。
野盗の記憶によれば、鉄貨1枚が1ラルク――日本円で10円ちょい。
宿代が千ラルクとして、当面の金はある。
あとは、まともな服だけだ。
通りを見渡しながら、獲物を待つ。
やがて街道の向こうから、幌馬車が三台、近づいてきた。
二頭立ての馬車。側面には鉄板。
護衛の男たちは揃いの革鎧。掲げられた旗には「旅客商警備」の印。
「……来た。リヤス(旅客商警備)だ」
野盗から奪った知識が脳裏に浮かぶ。
国に属さず、金で商隊を護る民間のプロ。
“街道の秩序”を保つ影の存在。
旗を掲げているなら、話は通じるはずだ。
「……妙に安心するな」
俺は敵意がないことを示すため、馬を降り、両手を挙げて街道の脇へ立った。
護衛の一人が俺を睨み、もう一人が弓に手をかける。
当然の反応だ。
護衛が馬を寄せ、短く問う。
「何用だ」
俺は落ち着いた声で返す。
「野盗を追い払ったが、服が汚れた。金はある。着替えを売ってくれ」
嘘と事実を混ぜて、端的に伝える。
護衛は俺をじっと見定め、「待て」と言い残して馬車へ戻った。
しばらくして、荷台から小太りの男が降りてくる。
赤茶色の髪を束ね、上等な服を着ている。
砂埃など気にも留めず、満面の笑みで歩いてきた。
「いやぁ、災難でしたねぇ!」
男は人懐っこい笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「私はロールで商人をしとります、アンドリオと申します。服ならございますよ。えぇ、もちろん」
揉み手が似合いそうな、営業スマイル。
目が笑っていない。
あぁ、こりゃあ……狸か。
俺は手を出し、握手をする。
(胡散臭いな……狸親父が)
(胡散臭いですね……実に興味深い)
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