34 / 53
第四章 天才魔道騎士の想い
34 ローラン王子
しおりを挟む
年頃になりリーチェはますます綺麗になった。腰まで伸びた銀の髪は歩くたびにサラサラと流れ落ち、白く長い手足と、アンバランスに豊かな胸は色っぽさも感じさせた。
何より表情豊かな鮮やかな夕焼けのような色をした瞳が、どれほど見ても飽きることがないくらいオレは好きだった。そして花が咲いたように笑うリーチェの笑顔も。『残念令嬢』なんて噂も一部あったが、それでもリーチェの可憐さに恋文が絶えなかったことをオレは知ってる。
この国では貴族は17才で正式に求婚できる。だからこそ、幼い時のあの日からずっと心に決めていたプロポーズ。
◇ ◇ ◇
「は?嘘だろッ?」
いつものようにソルシィエ家の演習場で稽古をしていた時、使用人たちが噂しているのが聞こえた。
(リーチェがローランの妃候補???)
貴族は17才だが、王族だけ婚姻が16才から認められている。まあ、王族の特権ってやつだ。リーチェは16才になったその日、ローラン王子の正式な妃候補となった。
「ローランがなぜリーチェを???」
リーチェは社交界にもほとんど出ず、ローランとの接触もほとんどなかったはずだ。確かにローズ家の家格は妃候補としては申し分ねぇ。でもどうしてよりにもよって『残念令嬢』なんて呼ばれてるリーチェ???
頭が混乱し稽古場の真ん中に突っ立ってると、ガサゴソッと窓から人が入ってくる気配がした。窓の方へ振り向く余裕もなく、剣を握る手にも力が入らねぇ。
呆けてるオレのそばを通り過ぎ、まるで自分ン家かのようにゆったりと稽古場の一番奥へと歩いていく。真っ赤でふわふわした頭に水色のラフなシャツを着ているそいつは、悪びれることもなく椅子に腰掛け長い足を組んだ。
「シエル、君、何だかポケッとしているようだったけど、稽古は終わったのかい?」
「今日はやる気が出ねぇ。」
胸に何かがつっかえてるようだ。開いた窓から入り込む風で耳飾りの音だけが稽古場の中で鳴り響いてる。
そいつは目を細めて気持ちよさそうに風を受け、「じゃ、一緒に休むかい?」と端正な顔に笑みを浮かべた。
「ローランッ、てめぇ、また変装してこんなとこまで来やがって、いいかげん王族の仕事しやがれっ。」
「これも社会勉強だよ。」
『冬』の家系は、代々魔獣を仕留めることだけを生業としてきたわけではない。王族が遠征する時などは特に、王族を影から守る護衛騎士も兼ねてきた。大っぴらにはできねぇから、ローランはオレのとこに来る時はこうやって変装していることが多かった。
「ったく、単なる好奇心じゃねぇか。」
(随分機嫌が良さそうだ。)
普段は聡明さを伺わせる切れ長の瞳が、今は殊のほか優しい眼差しで窓の外の景色を眺めている。
「何だか珍しいね。」
ポツリと呟いたローランの視線の先を見ると、ターコイズの腕輪からポコンッポコンッと水泡が現れては割れて散っていた。
ブレた自分の意識を水泡に注ぎ直すと、足元に深い藍の鏡のような水溜まりが広がっていく。過剰な魔力をなだめながら、自分自身に「落ち着け」と言い聞かせた。
「・・・それより、なンでリーチェ・ブランカ・ローズが妃候補なんてことになってンだ? てめぇとリーチェの間に親交があったとは初耳なンだが。」
「耳が早いね。彼女、城での催し物にはあまり来ないけど、来たときはずっとシエルといるだろ。それで顔は知ってたんだ。」
「は?」
(オレが接点か?)
「それで君がいない時は、必ずと言っていいほど『虹の泉』で1人で何やら美味しそうなもの食べて鼻歌を歌ってるから興味をそそられてね。結婚なんて考えていなかったけど、もし結婚しないといけないなら、彼女がいいなって。」
「・・・。」
ただの噂だったら、なんて針の穴にも縋りてぇくらいだったのに、当人から聞いちまうとダメージが半端ねぇ。ローランは親友だ。だからってリーチェを諦められるわけがない。
(そう言えばオレ、リーチェにちゃんと自分の気持ち伝えてなかったな。)
ゴゴゴゴゴォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
「ちょっ、ちょっとっ、シエルッ!」
(いけねっ、ボーッとしてた。)
ふと意識が飛んだ瞬間に放出してたのは、銀の粉を撒き散らす竜巻。ローラン自身の青く冷たい炎が天井に広がりガードしてなかったら間違いなくもっと巻き込んじまってた。
ローランを転倒させねぇよう、静かに降ろしていく。
「・・・ごめん。」
ストンッと降り立ったローランは、乱れた髪を手櫛で整えながら緑碧の瞳を見開いた。
「まさかとは思うけど、シエルが一途に思い続けてる女性って彼女のことだったのかい?」
何より表情豊かな鮮やかな夕焼けのような色をした瞳が、どれほど見ても飽きることがないくらいオレは好きだった。そして花が咲いたように笑うリーチェの笑顔も。『残念令嬢』なんて噂も一部あったが、それでもリーチェの可憐さに恋文が絶えなかったことをオレは知ってる。
この国では貴族は17才で正式に求婚できる。だからこそ、幼い時のあの日からずっと心に決めていたプロポーズ。
◇ ◇ ◇
「は?嘘だろッ?」
いつものようにソルシィエ家の演習場で稽古をしていた時、使用人たちが噂しているのが聞こえた。
(リーチェがローランの妃候補???)
貴族は17才だが、王族だけ婚姻が16才から認められている。まあ、王族の特権ってやつだ。リーチェは16才になったその日、ローラン王子の正式な妃候補となった。
「ローランがなぜリーチェを???」
リーチェは社交界にもほとんど出ず、ローランとの接触もほとんどなかったはずだ。確かにローズ家の家格は妃候補としては申し分ねぇ。でもどうしてよりにもよって『残念令嬢』なんて呼ばれてるリーチェ???
頭が混乱し稽古場の真ん中に突っ立ってると、ガサゴソッと窓から人が入ってくる気配がした。窓の方へ振り向く余裕もなく、剣を握る手にも力が入らねぇ。
呆けてるオレのそばを通り過ぎ、まるで自分ン家かのようにゆったりと稽古場の一番奥へと歩いていく。真っ赤でふわふわした頭に水色のラフなシャツを着ているそいつは、悪びれることもなく椅子に腰掛け長い足を組んだ。
「シエル、君、何だかポケッとしているようだったけど、稽古は終わったのかい?」
「今日はやる気が出ねぇ。」
胸に何かがつっかえてるようだ。開いた窓から入り込む風で耳飾りの音だけが稽古場の中で鳴り響いてる。
そいつは目を細めて気持ちよさそうに風を受け、「じゃ、一緒に休むかい?」と端正な顔に笑みを浮かべた。
「ローランッ、てめぇ、また変装してこんなとこまで来やがって、いいかげん王族の仕事しやがれっ。」
「これも社会勉強だよ。」
『冬』の家系は、代々魔獣を仕留めることだけを生業としてきたわけではない。王族が遠征する時などは特に、王族を影から守る護衛騎士も兼ねてきた。大っぴらにはできねぇから、ローランはオレのとこに来る時はこうやって変装していることが多かった。
「ったく、単なる好奇心じゃねぇか。」
(随分機嫌が良さそうだ。)
普段は聡明さを伺わせる切れ長の瞳が、今は殊のほか優しい眼差しで窓の外の景色を眺めている。
「何だか珍しいね。」
ポツリと呟いたローランの視線の先を見ると、ターコイズの腕輪からポコンッポコンッと水泡が現れては割れて散っていた。
ブレた自分の意識を水泡に注ぎ直すと、足元に深い藍の鏡のような水溜まりが広がっていく。過剰な魔力をなだめながら、自分自身に「落ち着け」と言い聞かせた。
「・・・それより、なンでリーチェ・ブランカ・ローズが妃候補なんてことになってンだ? てめぇとリーチェの間に親交があったとは初耳なンだが。」
「耳が早いね。彼女、城での催し物にはあまり来ないけど、来たときはずっとシエルといるだろ。それで顔は知ってたんだ。」
「は?」
(オレが接点か?)
「それで君がいない時は、必ずと言っていいほど『虹の泉』で1人で何やら美味しそうなもの食べて鼻歌を歌ってるから興味をそそられてね。結婚なんて考えていなかったけど、もし結婚しないといけないなら、彼女がいいなって。」
「・・・。」
ただの噂だったら、なんて針の穴にも縋りてぇくらいだったのに、当人から聞いちまうとダメージが半端ねぇ。ローランは親友だ。だからってリーチェを諦められるわけがない。
(そう言えばオレ、リーチェにちゃんと自分の気持ち伝えてなかったな。)
ゴゴゴゴゴォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
「ちょっ、ちょっとっ、シエルッ!」
(いけねっ、ボーッとしてた。)
ふと意識が飛んだ瞬間に放出してたのは、銀の粉を撒き散らす竜巻。ローラン自身の青く冷たい炎が天井に広がりガードしてなかったら間違いなくもっと巻き込んじまってた。
ローランを転倒させねぇよう、静かに降ろしていく。
「・・・ごめん。」
ストンッと降り立ったローランは、乱れた髪を手櫛で整えながら緑碧の瞳を見開いた。
「まさかとは思うけど、シエルが一途に思い続けてる女性って彼女のことだったのかい?」
1
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』
みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」
皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。
(これは"愛することのない"の亜種?)
前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。
エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。
それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。
速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──?
シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。
どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの?
※小説家になろう様でも掲載しています
※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました
※毎朝7時に更新していく予定です→2月15日からはランダム更新となります。ご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる