8 / 13
八 『鬼』
しおりを挟む
「うわっ!」
驚いて、片手で床をしっかり支え、あいりの身体を受け止める。シャツ越しのあいりの柔らかい身体の感触と、白いTシャツからうっすらと覗く下着のラインに、一気に熱が上がった。
「これで、引き分けやし!ーーーたくみの顔、しに赤いど。なんでなー?」
「なっ・・・!! 何でもねぇよ!! 近ぇっ!」
「ありっ!! ごめん。」
「あっ!?」
「何かあってん?」
またあいりの近くにアイツがいた。黒い煙のような感じであいりの隣にスーッと寄っていったり、グルグル回ったり、遊んでるみてぇだ。
「いっいや、、、別に。ーーーあいりは病気とか、その、、身体に悪いところとかねぇよな?」
「病気? なんでね? 見ての通り健康やんにー!」
だよな。これ本当に『鬼』か???
その後も夏休みの間、毎日のように離れの部屋で、オレはあいりから稽古を受けた。自己流でやっていた時とは違い、呼吸やら重心の置き方やら、今まで考えたこともないような内容が多かった。だが、あいりから教えてもらったことを念頭に、蹴りなどの攻撃をすると、その正確性や打撃の強さが確実に増した。
あいりの近くに時折居る『鬼』は、あいりに似て居たり居なかったり形もさんざんに変える気まぐれなものだし、真っ黒なのに不気味な感じはしなかった。
《お前、何であいりに憑いてるんだ? どっかいけよ!》
そう言うと、一瞬オレのところに寄ってくる気配を見せるが、実際にオレを取り巻くことはなく、結局あいりの近くに居座っていた。
ーーーあいりの近くが居心地いいとか? この”霊的な存在”が、その辺でたまに見かける無害なものか、人が死ぬ時に見る存在なのかだんだん自信が持てなくなってきた。
夏休み、あいりと過ごすようになり、分かったことがある。あいりは毎日相当早起きし、生活のほとんど全てを自分の鍛錬に費やしていた。
ーーー別にもう先生として、地元に帰れば仕事があるんだから、そこまで一生懸命にならなくてもよいんじゃね?
あいりの強さへの嫉妬なのか、それとももっと趣味とかそーいうのをやってみてもいいんじゃねーか、とか余計なお世話だと知りつつ考えたりした。
ある日、稽古の後、一緒に縁側で冷たく冷やしたスイカを食べてる時、何気なく聞いてみた。
「はぁー、しに美味し~!!」
「・・・。あいりは何でそんなに一生懸命なんだ? 跡継ぎでちいせぇ時から稽古ばっかさせられてたんだろ? 他のことやりてぇとか思わないのか? 」
「たくみは、陰陽師の仕事?、うちは詳しくないけど、鹿乃江さんの後を継ぐの嫌なわけ?」
「嫌っていうか、めんどくさい。他にもやりてぇことたくさんあるし。」
「ふふっ!! きみはまるで昔のうちみたいど。本当に放っておけんよ。」
「はぁっ?」
「他にやりたいことがあって悩むのは、きみが優しいから。 して、看板がうちに向かって落ちてきた時も、咄嗟に助けたさぁね?」
オレが優しい? 自分勝手だから、ワガママだからオレは悩んでるだけだとずっと思ってきたけど。
「そんな風に考えたことはなかった・・・。」
「うち、今は楽しいんよ。でもさ、以前はおとうがやってるのを見ても、そんな真剣にやりたいとは思わんて、てーげーでいいよって。」
「じゃ、今は何で?」
「去年、うちのおとうが亡くなったことは、たくみも知ってるはずね?」
「ああ、あいりのお父さんも武術の先生だったんだよな。」
「 うん、ーーーーうち、知らない男に乱暴されそうになったんよ。助けにきたおとうは、そいつに突き飛ばされて、走ってきた車に轢かれたわけ・・・。してから、武術をこのまま続けるのは、おとうが言ったからか、うちが自分で選んでやるのか考えたさぁ。」
「余計なこと聞いてごめん。」
「ううん、うちは、毎日おとうが熱心に練習してるのを見てるのが好きやし、うちは自分で選んでやってんよ。自分で選んでるからに、中途半端にはやりたくないやんに? それだけ。」
「そか。」
焦茶色の瞳が強い光を宿してるみてぇだ。こんなにもひたむきに自分の道を歩く彼女を、羨ましく、そして同時にとても綺麗だと思った。強えぇのにおっとりしていて、年上でオレなんかよりずっと大人なのに、身近に感じられるこの人をもっと知りてぇと思った。
もし、オレがもっと真剣に陰陽師について学んでいたら、あいりの近くをウロウロする『鬼』も何とかできたのかな。
!?
ふと、あいりの方を向いた時だった。ここ二、三日、姿を見せていなかった『鬼』が、赤黒い色になり、あいりの身体の全てを覆っていた。
驚いて、片手で床をしっかり支え、あいりの身体を受け止める。シャツ越しのあいりの柔らかい身体の感触と、白いTシャツからうっすらと覗く下着のラインに、一気に熱が上がった。
「これで、引き分けやし!ーーーたくみの顔、しに赤いど。なんでなー?」
「なっ・・・!! 何でもねぇよ!! 近ぇっ!」
「ありっ!! ごめん。」
「あっ!?」
「何かあってん?」
またあいりの近くにアイツがいた。黒い煙のような感じであいりの隣にスーッと寄っていったり、グルグル回ったり、遊んでるみてぇだ。
「いっいや、、、別に。ーーーあいりは病気とか、その、、身体に悪いところとかねぇよな?」
「病気? なんでね? 見ての通り健康やんにー!」
だよな。これ本当に『鬼』か???
その後も夏休みの間、毎日のように離れの部屋で、オレはあいりから稽古を受けた。自己流でやっていた時とは違い、呼吸やら重心の置き方やら、今まで考えたこともないような内容が多かった。だが、あいりから教えてもらったことを念頭に、蹴りなどの攻撃をすると、その正確性や打撃の強さが確実に増した。
あいりの近くに時折居る『鬼』は、あいりに似て居たり居なかったり形もさんざんに変える気まぐれなものだし、真っ黒なのに不気味な感じはしなかった。
《お前、何であいりに憑いてるんだ? どっかいけよ!》
そう言うと、一瞬オレのところに寄ってくる気配を見せるが、実際にオレを取り巻くことはなく、結局あいりの近くに居座っていた。
ーーーあいりの近くが居心地いいとか? この”霊的な存在”が、その辺でたまに見かける無害なものか、人が死ぬ時に見る存在なのかだんだん自信が持てなくなってきた。
夏休み、あいりと過ごすようになり、分かったことがある。あいりは毎日相当早起きし、生活のほとんど全てを自分の鍛錬に費やしていた。
ーーー別にもう先生として、地元に帰れば仕事があるんだから、そこまで一生懸命にならなくてもよいんじゃね?
あいりの強さへの嫉妬なのか、それとももっと趣味とかそーいうのをやってみてもいいんじゃねーか、とか余計なお世話だと知りつつ考えたりした。
ある日、稽古の後、一緒に縁側で冷たく冷やしたスイカを食べてる時、何気なく聞いてみた。
「はぁー、しに美味し~!!」
「・・・。あいりは何でそんなに一生懸命なんだ? 跡継ぎでちいせぇ時から稽古ばっかさせられてたんだろ? 他のことやりてぇとか思わないのか? 」
「たくみは、陰陽師の仕事?、うちは詳しくないけど、鹿乃江さんの後を継ぐの嫌なわけ?」
「嫌っていうか、めんどくさい。他にもやりてぇことたくさんあるし。」
「ふふっ!! きみはまるで昔のうちみたいど。本当に放っておけんよ。」
「はぁっ?」
「他にやりたいことがあって悩むのは、きみが優しいから。 して、看板がうちに向かって落ちてきた時も、咄嗟に助けたさぁね?」
オレが優しい? 自分勝手だから、ワガママだからオレは悩んでるだけだとずっと思ってきたけど。
「そんな風に考えたことはなかった・・・。」
「うち、今は楽しいんよ。でもさ、以前はおとうがやってるのを見ても、そんな真剣にやりたいとは思わんて、てーげーでいいよって。」
「じゃ、今は何で?」
「去年、うちのおとうが亡くなったことは、たくみも知ってるはずね?」
「ああ、あいりのお父さんも武術の先生だったんだよな。」
「 うん、ーーーーうち、知らない男に乱暴されそうになったんよ。助けにきたおとうは、そいつに突き飛ばされて、走ってきた車に轢かれたわけ・・・。してから、武術をこのまま続けるのは、おとうが言ったからか、うちが自分で選んでやるのか考えたさぁ。」
「余計なこと聞いてごめん。」
「ううん、うちは、毎日おとうが熱心に練習してるのを見てるのが好きやし、うちは自分で選んでやってんよ。自分で選んでるからに、中途半端にはやりたくないやんに? それだけ。」
「そか。」
焦茶色の瞳が強い光を宿してるみてぇだ。こんなにもひたむきに自分の道を歩く彼女を、羨ましく、そして同時にとても綺麗だと思った。強えぇのにおっとりしていて、年上でオレなんかよりずっと大人なのに、身近に感じられるこの人をもっと知りてぇと思った。
もし、オレがもっと真剣に陰陽師について学んでいたら、あいりの近くをウロウロする『鬼』も何とかできたのかな。
!?
ふと、あいりの方を向いた時だった。ここ二、三日、姿を見せていなかった『鬼』が、赤黒い色になり、あいりの身体の全てを覆っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる