【完結】陰陽師の跡取り息子は、年上女性に恋をする〜オレの『蒼の札』をあの人は断る

来海ありさ

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最終話 朝日

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その日、不思議な夢を見た。



昔の日本だろうか、一人の若い男性が、ゆったりとした服を着ている。親父が陰陽師として、正装する時に着るやつと多分同じだ。

朱色の袴の上に白の狩衣(かりぎぬ)を着たその男性は、板張りの部屋の中で、一生懸命、硯に水を垂らし墨を磨っていた。オレは蒼の筆ペンを使うが、親父は今も陰陽師の仕事の時は、必ず墨を磨っていたからやり方は知ってる。夢の中なのに、鮮明なカラー映像で、意識は不思議とハッキリしていた。夢の中のその男性の姿を見ながら、オレの胸は早鐘を打つようにドクドクとし、全身の細胞が、けば立つようにぶわりっとなった。だって目の前の男は、、、、



オレだ・・・!!!

切れ長の目で長い黒髪を一つにまとめた姿形は、今の自分とは全然違うが、これは自分自身だとなぜか確信した。


そいつは、紙に『延喜ニ十一年』と書き、何やら暦について真剣な顔で書き記していた。その後、式札を取り出し術をかけている。式神を使役してるところを見ると、こいつも陰陽師なのか? 延喜って昔の日本の年代だよな? 


これッて安倍晴明が生きてた時代じゃねぇか? 一千年以上も前??? 他の時代についてはさっぱりだが、同じ陰陽師のことについては、親父からみっちり学ばされたから知ってる。


そいつは式神を両手で持ち立ち上がると、隣の部屋へと歩いて行った。隣の部屋には、とても綺麗だけど病弱そうな女性が伏せっている!?



『式神よ、妻を守護せよ。』

そう言ってそいつは寝ている女性の枕の下に、そっと式神を差し込んだ。

するとその女性は物音に起きたのか、目を少しだけ開けたが、口を聞くほどの元気はねぇようだった。





だが、女性の瞳を見た瞬間、息が止まるかと思ったッ!! 夢の中のはずなのに、今の自分の身体の感覚がはっきりあって、何かが身体の奥から込み上げてくる。ハッハッと絞り出すように息をするのが精一杯で、オレは、その女性から目が離せなかった。



痩せてて、年も今のあいりより随分若い。けれど、その女性はまぎれもなく、ずっと昔の、過去のあいりの姿だった!!



『君の寿命を、禁術を使い、理を曲げてまで伸ばした。その報いはすべて私が受けよう。君の寿命が尽きるはずだった時より、およそ1年、君とこうして過ごせた。ーーーもう私には悔いはない。』


寿命を一年無理やり伸ばしたのか???

オレからは、静かに語りかける男の背中しか見えねぇ。あいりの、、その女性の優しげな目元に、一筋の涙が光る。夢の中で何年も時間が過ぎたのか、それとも男が語りかけた直後だったのか、時間の感覚は分からねぇ。でも、オレが見ている前で、その女性は静かに息を引き取った。その瞬間、陰陽師の男性が、オレが見ていることは知ってるわけねぇのに、こちらを見えるはずがねぇのに、それなのにオレの方を向いた・・・!?



『未来にいつか生まれ変わる”もう一人の私”よ。聞くがいい。いつか私の妻の生まれ変わりと、君は出会うだろう。もう二度と、私のような目に合わないために、私は君のために未来の妻を守る『鬼』となろう。』

そう言うとそいつは、紙に包まれた何かの粉を飲んだ。そして亡くなったばかりの女性の手を握りしめながら、まるで眠ってるままなんじゃ?と錯覚しちまうぐれぇに静かに死んでしまったことが分かった。呼吸音がどうとか、脳波がどうとか、細けぇことは分かンねぇけど、なのに分かっちまった。人ってこんなにあっけなく死んじまうのか? もう一度夢の中で生き返るンじゃねぇか、そんな風に思っちまうぐれぇに、目の前の二人は幸せそうな顔をしていた。





その時オレは気づいてしまった。今の今までずっと、あいりにまとわりつく『鬼』は、死を呼び込むと思ってきた。だから必死で陰陽師の術で何とかしようとしてきたんだ。結局オレは何もできなかったし、『鬼』もオレが思ってたような存在じゃなかった。



だって、『鬼』は、陰陽師だった過去のオレの魂で、あいりが一日でも長く生きることができるよう、ずっと守っていたんだ!! ちょうど一年、夢の中の女の人が寿命を超えて生きた年月と同じ分だけ。夢ン中の昔のオレがあんなにあっけなく死んじまったのも、”禁術”を使って力尽きたからなんだな。




あんたが見上げていた星空を、千年も経った後で、今オレも見ている。


ーーーあんたの言った通り、オレはちゃんとあんたが大切に守ってくれていた”光”を見つけたよ。



オレは夢の中の”もう一人の自分”に語りかけた。オレの心の中には、夢で見た幸せそうな二人の笑顔が今もハッキリと残ってる。


◇   ◇   ◇




目が覚めた時、涙で枕が濡れていた。姿形はたとえ違っていたとしても、またいつか、必ずあいりと会える、そしてそれが気が遠くなるような長い年月だったとしても。
オレはそう確信していた。

「よし、もう泣くのは終わりだ。次にあいりに会った時に、恥ずかしくねぇよう親父からきちんと陰陽師について学ばねぇと!!」


窓から差し込む朝日が、涙でぐちゃぐちゃに濡れたオレの顔を照らす。窓の外に広がる青空を見た時、『たくみ! またねっ!』どこからか、あいりの明るい声が響いた気がした。

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