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44 シャンリゼの花は、祝福する、、、

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シルヴィオたちが捕らえたあの赤髪の男、、あの男を操っていたのは、首に蛇の刺青のある男だった、•••特徴から、イーブル国の元宰相で間違いはないらしい••••彼は別の罪、つまりイーブル国への王族への反逆罪ですでに指名手配されていた•••

その男は今回の件で、イーブル国だけでなく、わがウンディーネ国そしてカイラス国の怒りを買った•••捕まるのは時間の問題だろう•••

男について知った時のエドゥアルト王子の怒りは凄まじかった•••
「俺が奴を八つ裂きにしてやろう。」

肌にピリピリした刺激が襲いかかってきたかと思うと、あまりの殺気に、風も吹いていないのに窓が振動し、その内のいくつかは実際にガラスが割れた•••部屋の外にいたはずの城の番犬まで、役目を果たさず、怯えて逃げていってしまったくらいだ•••私には、イーブル国の元宰相より、エドゥアルト王子の方が恐ろしい•••つくづく敵でなくて良かった•••

思わずブルッと身震いすると、目の前にいる彼は、そんな私の様子を見て、アンバー色の瞳を細め、迷いない声とともに、優しい笑顔を向けてくれる•••
「大丈夫です。オレが一生守って差し上げますよ。」

月明かりが闇夜を照らす中、私はわがままを言って、城内のシャンリゼの花畑にカイルに連れてきてもらっていた。シャンリゼの花は、陽の光の下では、明るい薄紫と薄赤を混ぜたようなマゼンタ色だが、日暮れに近づくにつれ、色が抜けていき、月明かりの下では、銀細工のような不思議な色となる。そして日の出とともに陽の光を吸収し、再びマゼンタへと戻っていく•••今、月の繊細な光を浴び、一面に銀細工のように光る花々から甘い香りが立ち込め、とても幻想的な雰囲気だ•••

カイルの言葉に素直にありがとうと言えばいいだけなのに、ロマンチックなシャンリゼの花に囲まれて、つい本音を零してしまった•••「カイルは私の『蒼の騎士』だからそう言ってくれるんでしょ•••でも、好きでもないのに、女性と2人きりの時にそんなこといったら誤解されちゃうんだから軽々しく言っちゃダメよ•••。」


嬉しいはずなのに、•••私いつの間にこんなに欲深くなってしまったの•••?

自分で言っていてだんだん悲しくなってきて、顔が俯いていく•••カイルの顔が直視できない•••。


「やっぱり気づいてなかった•••。」

ボソッと呟かれた言葉の意味がわからず、「え?」と、顔を上げる。

「仕方ないですね。花の女神も今晩だけは、許して下さるでしょう。」

カイルはキョロキョロと辺りを見回したかと思うと、月明かりの中で一際銀色に輝く、大きなシャンリゼの花のそばに行き、一輪だけ手折る。

そしてその花を大切そうに手に持ち、琥珀色に煌めく髪を揺らしてこちらに歩いて来たかと思うと、私の目の前で立ち止まって片膝をつき、私の手を取った•••。顔を上げ、私を真っ直ぐな眼差しで見つめながら、、
「アーシャ王女殿下、オレはあなたの騎士です。もしあなたが許して下さるなら、一生この身を、あなたと共に•••。」

と、長い睫毛を伏せ、私の手に口付ける•••。驚きと、そして愛おしむように触れられた唇とその表情を見てしまった嬉しさがない混ぜになり、身動きできない•••。

カイルは立ち上がると、長くて細い指で私の耳に触れる•••甘い余韻が私の身体に熱をもたらす•••カイルはそのまま髪をかき上げ、そこにシャンリゼの花を差してくれた。

むせ返るような花の甘い香りの中、沈黙が落ちる•••きっと私、今、顔が赤くなっていると思うわ•••永遠に続くかのような静寂の中で、心臓の音だけが忙しなく鳴っている•••だって今のは••••まるで•••プロポーズみたいだった••••

どうしても、お互いの息遣いと微かな動きを、敏感に感じ取ってしまう•••沈黙に耐えられず顔を上げると、カイルがジッと私を見ていた••••ッ•••しっとりと濡れた唇に微笑みを浮かべ、こんなに一途に想われたら、大概の女性は虜になっちゃうんじゃないかしら•••なんかずるいっ•••

そして夜露に溶けていきそうな優しい声で、「あんたを愛してる•••。あんたがフェンリルのことを好きでも構わない•••。オレは騎士として、あんたを一生守る。」




!?




えっ•••??? 




カイルッ、、•••???  今なんて言った•••?? 私がフェンリルを好き•••??? 



たしかに前世を思い出す前の私はフェンリルのことが好きで、毎日のように追いかけ回していたのは事実だけれど、、、••••違うっ••••それは違うのよ•••!! 思わず涙目になりながら、
「カ、カイルの鈍感っ••!!」と叫ぶ•••


カイルは少し目を見開いたが、心底分からないという風に、「んっ?鈍感って誰が•••??鈍感なのは姫さまだろ•••??」と首まで捻って考えている•••こっちはいっぱいいっぱいなのに、余裕ある感じが何か少し悔しい•••

唇が怒りでプルプル震えるままに、気持ちをぶつける•••
「鈍感なのは、カイルなんだからっ•••!!! 私が好きなのは、あなたなのよ!」
一気に捲し立てるように言ってしまう•••いつの間にか身体に力が入り、両手の拳を握り締めていた•••。

カイルは信じられないという風にしばし唖然とし、「それって姫様の勘違いじゃなくて•••??」と呟く•••。


カイルって一体私のこと、どう思ってるのよっ•••!!!  違うっ•••!!! と言いたいのに、、伝えたい想いが溢れているのに全然伝わらなくて、、••••堪えていた涙が次から次へと流れてくる•••せっかく良い雰囲気だったのに、私が台無しにしてしまった•••。

溢れた涙が、シャンリゼの花々の上に落ちて消えていく•••。

•••ッ•••!?


不意に暖かい腕で、すっぽりと包み込まれた•••!! そして目前で、サラッと柔らかそうな髪が揺れ、美しい瞳が私を映す。カイルは、もう片方の大きな手を私の頬に添え、親指で涙を拭ってくれる••。

「姫さま、もっとこちらへ寄ってください。」と、もうすでに私の身体はカイルの腕の中にくるまれ、充分に近い距離にいるのに、カイルはとろけるような声で私に囁く•••。

寄るって•••これ以上どうやって•••? 腕の力も抜けた私は、カイルにされるがままだ•••

「この体勢、、•••なんだか恥ずかしい•••。」
だって、真正面からこれだけ密着していると、私も女性にしては背が高い方だけど、、•••いちいち見上げないとカイルの顔が見えないもの•••そして、顔を上げると、カイルの形の良い唇と艶のある眼差しが、いちいち色っぽいんだもの•••


「付き合ったら、どうせもっと恥ずかしい体勢するのに•••?」

•••!?•••茶化すような口調で、とんでもない爆弾発言が耳元で呟かれた•••!?



カ、カイルッ•••!! ど、どういう意味•••!? ギョッとして、顔を上げたら、耳と頬を赤くして、ニコッと私を見て笑うカイルがいた•••。

「冗談です。あんたがあんまりにも可愛らしい反応するから、、•••。オレも緊張してます•••。」

その笑顔は、、•••遠い昔に出会った少年の笑顔と重なる•••親切で、とても綺麗な顔立ちの少年•••カイルのはずがないのに•••。



なぜか懐かしいような不思議な感覚•••目の前の彼は、とても愛しい人•••恥ずかしいけど、やっぱりそれ以上に離れたくないっ•••! 私は、垂らしていた両腕を、カイルの背中に回して、思い切りギュッと抱きついた。
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