上 下
45 / 45

ようやく、見つけた、、、

しおりを挟む
「すごいな、これは•••」エドゥアルト王子が目を丸くし驚くのも当然だ•••多くの家庭で、水色の布地で作った旗が掲げられ、街全体が青く一色に染まっている•••今日は姫さまの王女としてのお披露目式•••街を上げてのお祝いで、•••至る所に料理の屋台が立ち並び、また、思い思いに祝いの歌が奏でられている•••お祭り騒ぎに自然と心が弾む•••


「オレにはあなたの方が衝撃です。」王子は何がだと言わんばかりに、チラリッとオレを横目で見て、「結婚相手を探すのは王族の義務だ。何もおかしくはないだろう。」と、思い出したのか、少し不機嫌に腕を組む。

王子の従者ラッセンは、「まあ、常に女に追いかけられてきたエドゥが、生まれて初めての失恋だもんなあ•••。正直、今後一生結婚できないかもしれないと俺は少し不安だ。」ガハハッとオレンジの瞳を細めて人の良さそうな笑みを浮かべる。
確かに王子の容姿なら女性は放っておかないだろうが、やっぱり姫さまだけは渡せない•••エドゥアルト王子が正式にルイス王に、姫さまへの結婚を申込んだと聞いた時には驚いた••• 互いに王位継承権を持つゆえとルイス王は婉曲に断ったらしいが、王子はまだ諦めていないらしい•••

「アーシャは一筋縄ではいかないからねえ。アーシャに惚れてしまったら、他の女性で満足できないよね。フフッ•••さあ、着いたよ。リリアとショーンが待っているはずだから、一緒に向かおう。」フェンは、完全に面白がってる•••こいつたまに涼しい顔して毒吐くんだよな•••

王城の内門で止まった馬車から降りたオレたちは、城の衛兵に案内され、真っ直ぐとある場所へと向かう•••。

◇◇◇

トンットンッ

フェンリルが扉を叩き、「アーシャ、準備はできたかい?」と声をかける。

「ええ、出来てるわ。」普段より弾んだ声が聞こえた後、ここまで案内してくれた城の衛兵が扉を開けてくれた。


入るなり、姫さまの姿を目にしたフェンリルが、感激したような声を出して、「アーシャ、とても綺麗だ。ねっ、カイル?」と振り返る。

「ああ•••。」
本当に綺麗だ•••今日の姫さまはロイヤルブルーの正装姿••流れるような薄桃色の髪を纏めて、ティアラを被ってる•••••心臓がトクンッと音を立てる•••姫さまに触れた時の柔らかい感触や甘い香りが甦る•••薔薇のように色づいた頬が愛らしく、また触れたいと思ってしまう•••

普段の可愛らしい水色のドレスと異なる、気品あるロイヤルブルーの正装姿は初めて見る•••オレはドレスについて詳しくはないが、姫さまのアンバランスなほどの意志の強い眼差しに、光沢のある青味が加わることで、その神秘的な雰囲気がより強調されているように思う••••

••なにより、、•••普段よりかなり上品に見える•••

•••ッ•••こんな時なのに思い出し、クスッと笑みが漏れてしまった•••「ああ、今日もいつもの稽古姿だったらどうしよう•••と思ったが、•••とても綺麗だ。」と、ついからかってしまう•••

姫さまは頬をさらに染めて、唇を尖らせ「ひどいわ、今日は精一杯おめかししたのよ。」とむくれているが、その表情さえ愛らしい••

オレが姫さまの稽古に毎日付き合っていたことを、フェンも思い出したのだろう•••フェンまで少し笑いを堪えて、
「フッ、カイルはもうアーシャの従者じゃないのに、、•••アーシャ、君はこれまでどれだけカイルに苦労かけてきたんだい?」と、腰をかがめ、姫さまの顔をジッと覗き込む•••まるで兄が妹を心配してるように親身な態度で•••フェンは昔からモテるが、こういうところなんだよな•••本人が無自覚な分、ある意味、女泣かせだ•••姫さまもこういうところに惚れたんだろうか•••

姫さまが顔を上げ、扉の方に向かい、「エドゥアルト王子!ラッセン!」と、鈴のような弾んだ声をあげる•••

そして姿勢を正し、改まった様子で、
「エドゥアルト王子、今日はわざわざ遠い中、来て頂けて嬉しいわ。ありがとう。」と控えめな微笑む。カイラス国と無事、同盟を締結したわが国は、今回のお披露目式に、正式にエドゥアルト王子を招待した。祝いのための白い正装で現れた王子は、誰もが認める完璧王子の姿だ•••ここに来る途中も、普段より城の女性たちの視線が露骨だったのも気のせいではないだろう•••

「あまり改まるな。ここにはうるさい奴はいないのだから、普段通りで良い。」ブラウンの瞳を優しげに細め、響きのある声で穏やかに話す。優雅な振る舞いからは、とてもじゃないが、「銀の野獣」と呼ばれている姿を想像もできない•••

いつもは無造作な金髪を、今日は綺麗に整えてる王子の従者ラッセンは、「本当に、あの騎士さんが、王女様だったんだな•••。」と、オレンジの瞳を丸めて驚いている•••

切長の瞳がチラリと横目でラッセンを見て、「王女の時もかなりのジャジャ馬だからな••••。大して変わらぬ。」と何かを思い出すように、口の端を上げるが、仮面舞踏会で初めて姫さまと出会った時のことを思い出してるのだろうか•••? 

ラッセンは、人懐っこい笑顔を浮かべ、「アーシャ王女殿下、いや、ほんっとシャンリゼの花の女神と見間違うほどの美貌です。こんな美女がエドゥのお嫁さんだったら、俺も嬉しかったんだけどなあ、、」としみじみと姫さまに語りかけているが、冗談じゃない。
「それは諦めてください。シャンリゼの花を他国にやることはありませんから。」

フェンリルが、にこやかな顔で、「ほんと君たち仲が良いんだから。」と、オレとエドゥアルト王子たちの間に割って入る。•••自分は関係ないようなすました顔してるが、実は、エドゥアルト王子が姫さまに結婚を申し込んだ時、一番最初に反対したのがこいつだった••••まあ、フェンの言う通り、言いたい放題言えるのは、いいことか•••。


トントンッと更なるドアの音が響く。

「皆さま、準備はできましたか?」
ドアが開かれると、聖女の衣装を纏ったリリアと、白いブラウスでお召かしした弟のショーンがいた。リリアは、城から聖女として任命された。まさかリリアが、聖女となるとは思っていなかった•••  だが、誠実でしっかりしている彼女なら、神官ハムルの下で、今日のお披露目式の儀礼の手助けも上手くできるだろう•••。

姫さまが扉の外に立つリリアたちを見て、「リリア!ショーンも!」と、弾けたような笑顔で迎える。

リリアはなぜか姫さまの姿を見て、頬を赤らめた•••騎士姿の姫さまに助けられた時の彼女は、完全に恋する乙女のようだったから、またあの時のことを思い出したのかもしれない•••普段の彼女は、サバサバして話しやすいが、未だに姫さまの前でだけ、少し緊張してしまうみたいだ•••
「まあ、アル様、•••いいえアーシャ姫、とてもお似合いです。」•••やっぱり思い出してた•••

「ありがとう、リリア!あなたも本当に素敵よ。」と、答える姫さまに、クリクリッとした黒目を輝かせ、弟のショーンが興奮して叫ぶ。

「うわあっ•••!!!  アルッ!すっごい可愛いっ!本物のお姫さまみたい!うわあっ•••!!! 」
ショーンたちは、貴族ではないから、ドレス自体もあまり見慣れないはずだ•••初めて間近で見たドレスが、こんなに豪華だと驚いてしまう気持ちがよく分かる•••。

姫さまが少し屈んで、「フフッ、ショーン、ありがとう、、」と、ラベンダー色の少年の髪の毛を何度も撫でる。髪に触れられた途端、ショーンは、目を丸くしたまま、ガチガチに肩をこわばらせ顔を真っ赤にして、口をポカンっと開けて姫さまを凝視している。

「フフッ•••」フェンリルが緊張しているショーンを見て、笑顔をこぼすと、ショーンは、フェンの笑い声に反応し、窓際に佇むオレたちの方に顔をグルリと回し、さらに驚く。

「あっ、、•••!!! 」

•••ッ•••ショーンの反応に、オレまでフェンにつられて頬が緩んでしまう•••普段強がりなのに、身体いっぱいに驚いたり喜んだり素直に感情を表す姿は、姫さまにちょっと似てる••••


「騎士の格好、格好いいっ••!! うわあ~すごいよっ!」
ショーンがフェンリルとオレのところに来て、その周りをグルグル回りながら、大袈裟なくらい興奮する•••フェンは、普段の神官の衣ではないのだから、驚くのも無理はない•••オレもフェンリルも、一種の儀礼的な姿とは言え、神話の時代から語り継がれている『蒼の騎士』としての姿なのだから•••

リリアが、笑顔で、「皆さま、おはようございます。本当に皆さま、素敵です!」と、両手を頬に添え、1人1人を視界に入れるように部屋を見回す。
•••姫さまはなぜか今、フェンとリリアをくっつけようとしている•••たしかに、2人とも気が良いからお似合いだと思うが、恋愛に発展するかと言われればどうだろう•••? 当の2人に全くその気がないように見えるが、オレには分からない•••。

ショーンの相手をしていたフェンリルが顔を上げ、
「時間だね。そろそろ行こうか。もうちょっとアーシャを僕たちだけで、独り占めしたかったんだけどね。」といたずらっぽい笑みを浮かべて、オレを見た。そしてヒラヒラと手を振り、「アーシャ、後でね。」と部屋を出ていく。

リリアがフェンの言葉に頷き、紅潮させた頬のまま姫さまに、「外は、もの凄い熱気と人の数です。アーシャ姫が出てくるのを、皆、今か今かと待っていますわ。」と笑みを浮かべる。そして、ショーンの手を引き、フェンの後を追う。

「ラッセン、行くぞ。」とエドゥアルト王子は颯爽と扉まで歩き、部屋を出る間際に振り返ったかと思うと、「アーシャ、気が向いたらいつでも俺のところに来い。大事にしてやる。」と姫さまの顔を見て優しい眼差しをする•••。

「まったく油断もスキもない。」思わずポロッと言葉が漏れた•••カイラス国の王子は女性嫌いと聞いていたが、こんなに積極的だったとは•••





パタンッ

賑やかだった部屋が皆が出て行った途端、一気に落ち着きを取り戻した•••遠くの方から、うっすらとお祭り騒ぎの喧騒が聞こえてくるが、心地よい程度のざわめきだ。

姫さまがシンッとなった部屋で、オレの目の前まで歩いてきて、「カイルっ•••! 稽古姿を思い出して笑うなんてひどいわっ•••!! カイルって、いったい私のことどう思ってるの•••???」と、頬を膨らませて、オレの目を覗き込み拗ねる。


「オレが姫さまをどう思っているか•••??? そうですね•••その無鉄砲なところも、ちょっと抜けてるところも、すぐムキになるところも、好きですよ•••。」


そう答えると、姫さまが泣きそうな顔で、
「カイルのいじわる•••それ全然褒めてないじゃない。」と、オレの指先をそっと握る•••。


やっぱり分かってない•••!! 

オレは俯きそうになる姫さまの前に、首を傾けて目を見つめる•••


「これでも褒めてるつもりなんですけどね•••。だって、髪の毛一本まで含めて、あなたのすべてを愛してるって言ってるんですから•••。」


そう囁いたら、一気に姫さまの顔が赤くなった•••そのままオレを見上げる薄桃色の瞳が艶かしく、吸い寄せられるように姫さまから目が離せない•••身体の奥に熱が灯ったような衝動を覚え、つい姫さまの腰を抱き寄せる。姫さまの乳白色の肌がほんのりと朱に染まり、熟れた唇をより紅く色付かせた•••姫さまがオレにしなだれかかるように身体を寄せてくるのに任せ、そのまま息もできないほど深く口付ける•••柔らかい唇の感触についその先を望みそうになる•••すっかり力を抜き、瞳を閉じ、身を委ねる姫さまの色っぽい様子に、奥底から痺れが押し寄せてくる•••。


どれくらいの時間が経ったのか、オレはゆっくりと唇を離す。


「•••姫さま、、••••行こうか。」
皆が待つ場所へ•••。




愛しい人は、潤んだままの瞳でオレを見上げ、少し恥ずかしそうに笑んだ。
「ええ、•••婚約者殿。」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...