高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち

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第三章 なにがあっても拒否ります

17 めげずに説得にあたってみます

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「ってか、ちょっと落ち着いてくれません? 殿下」
「私は十分、落ち着いている」
 いやぜってえ嘘だし。
「てかあんた、俺が男だってわかった途端、急に言葉遣いがぞんざいになってねえ? それひどくね? レディファーストはわかるけど、なんかめちゃくちゃ差がありすぎね??」
「やかましい」
「うわ、ひっど!『やかましい』ってひっど! 俺がシルヴェーヌちゃんじゃないってわかった途端にそんな手のひら返しする? サイテーだな皇子。男としてサイテー。見損なったぜ!」
「ちょっと黙れ」
「いーやーだーねーっ」

 「イーッ」て歯をむきだしてやる。
 だれが黙るもんか、バカにすんなよ。

「黙らないとこのまま口づけをするが。それでもいいか」
「……ひょえっ?」

 速攻でシュンッと細くなった俺。たぶん。
 ほら、怖いもん見たときのフクロウとかミミズクとかがなるみたいに。

「な……ななな、なにをおっしゃってられられるんで……??」
 驚愕のあまり、呂律ろれつがかなーりあやしいことになっている。
「いいから黙って聞いてくれ。……ええと」

 そこで多分、皇子はちょい前の記憶を掘り起こしたんだと思う。ぱちぱちと二回ほど瞬きがはさまった。
 ああ、近くで見るとあらためて睫毛がなげえ。

「あー……『タナカ』だったか?」
「あ。どっちかっつーと『健人』のほうでお願いしゃっす」
「ケントか。なるほど、確かに他国の言語の響きがするな」

 あいや、多分あんたが知ってる「他国」とはまったくちげえと思うけど。まあいいや。

「昔、魔法関連の本で《魂替たまがえの儀》というのを読んだことならある」
「たまがえ……? ってつまり魂を入れ替えるみたいなことですか?」
「そうだ。とはいえそれは大いなる秘術であって、膨大な魔力や稀有な素材を大量に必要とするとも書かれていた。そしてめったにおこなわれない」
「へ? なんでですか」
「まず、普通はおこなう理由がない。使う魔力や材料等々と、結果とが見合わなすぎるんだ。よほどの事情がないかぎりな。つまり、そうそう頻繁に行われるような術式ではないということだ」
「ふうん……?」

 じゃあ、なんかの拍子にシルヴェーヌちゃんがそれを発動させちまったんだろうか。彼女自身は気づいてなかったとはいえ、膨大な魔力をもっていたのは事実みたいだし。魔塔に入ってなかったから、制御方法もあんまりわかってなかっただろうしなあ。

「なんか、きっかけとかあったのかなあ? ショックなこととか……」
「それはわからん。そなたに渡した《魔力の珠》に記録が残っていなかったか」
「さあ……? よくわかんないです。多分なかった気がするけど」
「そうか……」

 皇子、ちょっと顎に手をあてた。
 ってか顔が近い。「キスするぞ」って言ったとこからほとんど動いてねえんだもん。
 やめろってば。なんかわけもわかんねーけど胸のとこがバクバクして、耳が熱くなってきてるし!
 俺は手のひらを皇子の顔に向けて、じわじわ押し返すようにした。

「ちょっと殿下。ちけえから。もうちょい離れろ……クダサイ」

 じろっと睨まれて、一応語尾だけ変化させる。
 それで皇子は、少しだけ離れてベッドの縁に腰かけてくれた。
 やっと胸をなでおろす。

「それで? そなたは今後どうするつもりでいるんだ」
「んー。とりあえず魔塔の宗主サマには呼ばれてっから、そこには行くとして……。騎士になる勉強と、剣とか馬術の訓練もやって。あれって確か、入隊試験があるんでしょ? それに受かるのが当面の目標で」
「は? 騎士?」

 皇子、呆気にとられた顔になる。

「女の身で騎士団に入隊するつもりだったのか。それは無謀というものでは」
「は? あんだけベル兄やあんたと一緒に剣の訓練してたじゃないっすか。なに見てんのよ」
「いや、そうだが……。単に体力づくりの一環かと」
「ちがいますー。知っての通り、シルちゃんは前はちょっと太ってて、そこにつけ込まれて変な男に言い寄られてたでしょうが。結婚しようって」
「……ああ」

 皇子、急に不快げな顔になった。
 色々思い出したらしい。

「平民あがりの男爵ごときの子息が、よりにもよって公爵家の令嬢を利用しようとするとはな。まったく、身の程知らずもはなはだだしい」
「でっすよね?」
 そこはまったく同感だ。
「んで、思ったんですよ。この世界の女性って、結局、条件のいい男を捕まえるのが人生の至上命題みたいになっちゃってんでしょ?」
「…………」 

 皇子、今度はぽかんと俺の顔を見た。

「それって、なーんかねえ。人生の目的として間違っちゃいねえかもしんねえけど……なんかこう、広がりとバリエーションがねえじゃん? 人生、つかまえた男次第とかさあ。言っちゃなんだけど、すごーく貧しい感じがすんじゃん?」
「…………」
「シルちゃんの人生が、これからもそんな価値観だけで動いてくの、俺、やだったんスよね。それで散々、いじめられたりして可哀想な目にも遭って来たんだし。俺から見りゃあ、すんげえくだらねえ女の小さな世界の争いでさ──」
「ケント……」
 皇子、不思議な目の色で俺を見ている。
「あの子には、ちゃんと自分で自分の人生を歩いてほしい。だから騎士。べつに騎士じゃなくてもよかったけど、とにかく可能性を広げといてあげたかった。この世界で、とりあえず自分で自分の道を切り開くにはそれがいいかな~って思ったんです。あのまんまじゃどん詰まりだったし、これなら痩せるのにもいいしね!」

 皇子は今や、まじまじと俺を見つめていた。
 なんだろう。なんかもの言いたげだなあ、さっきから。
 あんま見つめすぎるのはちょっとやめてほしい。顔に穴あいちゃうから。
 んで、なんか耳が熱いんスけど。

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