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5 勇者と聖女
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わたし達はとりあえず、アシャールさんの言う通りに貸家を出た。
ライ様はちゃんと空間収納スキルも下さったようで、元の世界の物や、支援金で買い物した衣類などは持って行くことにした。あと心苦しいが支援金の残りも。
何があるかわからない旅なのだから、慰謝料として。えいやっと勢いつけて血税から出てるんだろうなという罪悪感を振り切った。
一応お世話になった宰相様宛に、お礼と主神様が夢に現れてこの国を出るようおっしゃったので旅に出ます。わたし達のことは心配いりませんの旨をしたためた手紙を置いておく。
あの宰相様がどこまで国の暗部に関わっているか知らないけれど、こう書いておけばなにかしら考え直すことも……たとえば勇者君の待遇とかね、あるかもしれないし。
神官たるアシャールさんによれば、この世界の本当の神はライ様ことライフォート様だけだが、各国で歴史に残る活躍をした偉人達が死後主神に神として召し上げられたという体で、戦や農業他様々な神が祀られているそう。
ライ様は権威をひけらかす神ではないので、それが人の安寧の為になるならいんじゃないと傍観しているそうです。
さて絶賛指名手配犯であるアシャールさんは、染粉で髪を染め、神官服を脱ぎ冒険者風の服に着替えて、狼の魔物の耳を魔法で加工して頭に付ければ、余裕で検問を通り抜けてることが出来た。
最後の耳がやばい。ちゃんと動きや表情に合わせて自然に動いていたんだもん。
わたし達は無事貸家のあった王都を抜け、乗り合いの馬車で二つ先の町に着いた。そして宿を取ることにした。
宿は三人一部屋。抵抗感ありまくりだけど、アシャールさん曰くその方が安全らしい。
「こういう治安の悪い宿には、怪しい魔法や魔導具が仕掛けてあったりするんですよ」
「なんでそんな宿選んだんですか……」
奈々美さんがもっともなことを言う。
「この国で普通の平民や冒険者の泊まれる宿など、どこもこのレベルだったりするからですよ」
「じゃあやるしかないわね」
わたしは魔導具と聞いて、闘志を燃やす。やつらは素材。やつらは素材。魔導具は素材。はじめにそう認定したからには、素材であるべきだ。
貸家でそうしていたように、素材利用出来る不要な魔法、魔導具を認定する。
盗聴魔導具二つ。各ベッドに昏睡魔法付与。あっ、これ、客の荷物盗んだり、売れる情報収集するためか……!
対戦するまでもなく、宿の魔導具(ついでに魔法も)は、あっけなく素材として採取できてしまった。
わたしは窓を開けて今採取したばかりの魔法の一部と常時ストックしてある日光を合成して即席の殺菌消毒魔法を造って放つ。ベッドの裏や床の隅々までよ。ミケ子様が降臨なさるのだからね。
「奈々美さん、念の為索敵お願いしていい?」
「任せて下さい! 虫は厄介な敵ですからね」
最後にアシャールさんが、風魔法でチリや埃を綺麗に吹き飛ばしてから、窓を閉じて、わたし達は部屋に落ち着いた。
ここに来てようやく猫柳香子(かおりこ)は、アシャールさんに本名を明かした。
ここから先は、冒険者登録をしておいた方がいいらしいから。
冒険者登録の際に発行される冒険者証は、最低限の身分証となるので、国境を越えるなら持っておいた方が良いそう。色々手続き的に。
「でもそれって、アシャールさん一発でバレません?」
「ええ、ですがかまいませんよ」
わたしと奈々美さんは、揃って首を傾げた。ミケ子は久しぶりにキャリーから出て、ふんふん部屋の匂いを嗅いでいる。
「私達フェイ族は、古い古い強大な魔力を持つ種族です。歴史の中ではフェイ族の機嫌を損ねると国が滅ぶと言い伝えられるほど。実際私は軽く神殿も破壊しましたからね。だからまあ、フェイ族と分かれば彼らは私に何もしないでしょう」
「……じゃあなんで神殿の地下牢で捕まってたの?」
わたしのツッコミに、アシャールさんは咳払いをした。
「あの魔導具はフェイ族を捕える為に特別に造られたものなのです。香子のおかげで、もうこの国に私を捕える術はありません。犠牲になった数多のフェイ族も浮かばれることでしょう」
「……つまりあの魔導具や勇者召喚の魔導具が、素材のくせに素材にならなかったのって、特別仕様の魔導具だからなの?」
魔導具は素材。それはついさっき証明出来た。魔導具は素材。わたしのスキルちゃんも、熱く主張しているのを感じる。
「その二つの魔導具は、どれもフェイ族が造った伝説の魔導具なのです」
「勇者召喚の魔導具は一旦置いておくとして、何故フェイ族が同族を捕える魔導具を造ったんですか?」
奈々美さんが聞いた。
部屋の探検に満足したのか、ミケ子は部屋に置かれた、わたし達の囲む丸テーブルの上で、とてんと横になる。三人の手がそれぞれそっとミケ子を撫でだした。
「大昔のフェイ族に、このグランヒューム王国の王女と恋仲になった者がいたそうです。当時の王は娘である王女を人質に、そのフェイ族に二つの魔導具を造らせました。勇者召喚の魔導具と、その魔導具を起動するための大量の魔力を確保する為にフェイ族を捕える魔導具です……」
「待って、それじゃあアシャールさん、今枯渇……」
だって、わたし達が巻き込まれた召喚の燃料にされたってことよね?
しかし、アシャールさんはお口をへの字にして言った。
「それでも私は、充分強いです」
あらま。意外と負けん気が強いようですよ。
「香子さん、もしかしてアシャールさんの魔力が不足してなかったら、この国……」
「…………神殿で済んで良かったわね」
とはいえ、魔力不足がどんな影響を及ぼすかわからないし、パナマ草茶はアシャールさんにも飲んでもらおう。体力と魔力量の増加を助ける効果があったはずだし。
「あ、そうだ。アシャールさん、聖女ってなんですか?」
神官だったのだから、きっと知っているだろう。奈々美さんもアシャールさんを見た。
「聖女……ですか? そうですね。一般的には神官の女性版といったところでしょうか。治癒や浄化魔法を扱う女性もそう呼ばれますね。しかし、召喚された聖女には、別の役割があるのです」
「……その、役割って、」
奈々美さんの声が掠れた。
「勇者の天敵です」
「て……天敵って……、」
アシャールさんは何かを思い出すように、テーブルを指でトントン軽く叩く。
実際思い出そうとしているのだろう、アシャールさんを鑑定したら六百歳って見えたから。フェイ族は二千年くらい生きるようだから、見た目に騙されちゃいかん。
「……元々この世界には、時折異世界からの迷い人が訪れることがあったのです。元の世界に帰すことは叶わないので、せめて生きやすいようにと、主は特別に言語を理解する祝福とスキルを与えることにしました。これは本人の資質に合わせてのスキルですね。これに目をつけたグランヒュームの王は迷い人を人工的に作り出し、戦闘能力に特化したスキルが得られるよう研究……フェイ族を巻き込んで成功させました。しかしそれは神の御技に土足で足を乗せること。欠点……代償がありました」
「……代償」
「勇者のスキルは本人の資質に関係なく強制的に与えられるもの……使えば使うほど、魂が耐えられず苦痛に苛まれ、徐々に心臓が魔石と化して命を落とします」
「そんな……!」
奈々美さんが息を呑んだ。わたしも確認する。
「……なんとか……なんとかする方法ないの?」
勇者に召喚された子は、制服を着ていた。まだ未成年の、未来のある子……なのに。アシャールさんはゆっくりと首を横にふった。
「魔石になった勇者の心臓は、無念の想いの詰まった呪いの石です。この国はそれさえも利用して、政敵の元に送り大国として君臨しています。その魔石を唯一破壊、もしくは浄化できるのが召喚された聖女です」
「……っ、それって……勇者君が死ぬまで私には何もできないってことですか?!」
「……」
アシャールさんの無言は肯定だった。
ああ、だからライ様「勇者には彼の命運がある。気にせず逃げろ」と。勇者はどうにもしてあげられないから、せめてわたし達だけでもと……。
不意に、いつもわたしのスキルのやらかしに、ブフフと笑っているライ様の顔に悲しみの顔が重なった気がした。
「念の為聞いておくけど、聖女のスキルは安全なものなの? その、奈々美さんの資質にあった?」
だって〈外殻装甲〉よ? 今は男装しているとしても、このシュッとした美人で優しく礼儀正しいお嬢さんのスキルがよ?
「勇者以外のスキルは、本人の資質に合わせて得られるものなので心配はありません。その中でさらに、勇者の魔石に有効だと判断されるスキルを得た方に、聖女の称号が与えられます。私も長く生きていますが、〈外殻装甲〉なんてスキルは初めて見ましたよ」
「そっか、心配なくて良かったわね奈々美さん」
「え……え、はい……」
奈々美さんは複雑そうだ。
アシャールさんは淡々と言った。
「今すぐどうしようもできないことに悩む前に、目の前にある問題から片付けましょう。そうすれば、自ずと道は開けるものです」
……その通りだ。流石、殺しはしても犯しはしない神官様のありがたいお言葉である。
「……そうね。もし本当にその役目を果たさなくてはいけない時がきても、わたしはきっと奈々美さんと一緒にいるからね」
「香子さん……」
素材採取しできないわたしが役に立つかはわからないが、一緒に居てくれる人がいるか居ないかは気持ちの上で大きく違ってくると思うのよ。
「それじゃあ、この国を出て目指すのは、ええと」
「自由国家アオリハでしたっけ?」
お。さすが奈々美さん。若い記憶力、頼りになる。
「そうです。そこはいろんな種族の人間を受け入れている活気のある国ですよ。私の所属する神殿もアオリハにあります」
「つまりアシャールさんの実家に向かうのね」
アシャールさんに勝手に出てきてもらうミッションを完了したことで、わたしは〈空間収納〉スキルを得られたのだけど、奈々美さんは〈収納空間〉スキルだった。この差はなんだ? と思っていたのだけど、きっとなんか本人の資質による微調整がされたんだろうな……先刻の話からするに。
多分わたしの素材採取スキルグループと鑑定スキル、空間収納スキルってすごく相性いいんだと思う。頭の片隅でスキルちゃん達が手を繋いでご機嫌にマイムマイム踊ってる気がするのよ。
因みにミケ子はちゃんと鑑定の結果〈神獣:猫ちゃん〉になっていた。ライ様からは絶対防御という加護をいただいているので、超安心。
写真を撮るのに活躍してるスマホも、わたしと奈々美さんのスマホには「ライふぉ」という新たなアプリが追加されて、ミケ子の画像をライ様に捧げることができるようになっていた。
スマホの充電は、アシャールさんがあっという間に魔導具を作ってくれたのですよ。フェイ族というのは、魔法だけでなく魔導具造りにも長けているらしい。
わたしは場の雰囲気を変えるためにも、空間収納からコップを三つと片手鍋と鍋敷を取り出して並べる。そしていつものようにパナマ草茶を淹れる。
「さ、一服どうぞ。アシャールさんも飲んで下さいね。まさか妻の茶が飲めないとでも?」
一瞬眉を顰めたアシャールさんに、わたしは、ん? ん? と圧をかけた。
ライ様はちゃんと空間収納スキルも下さったようで、元の世界の物や、支援金で買い物した衣類などは持って行くことにした。あと心苦しいが支援金の残りも。
何があるかわからない旅なのだから、慰謝料として。えいやっと勢いつけて血税から出てるんだろうなという罪悪感を振り切った。
一応お世話になった宰相様宛に、お礼と主神様が夢に現れてこの国を出るようおっしゃったので旅に出ます。わたし達のことは心配いりませんの旨をしたためた手紙を置いておく。
あの宰相様がどこまで国の暗部に関わっているか知らないけれど、こう書いておけばなにかしら考え直すことも……たとえば勇者君の待遇とかね、あるかもしれないし。
神官たるアシャールさんによれば、この世界の本当の神はライ様ことライフォート様だけだが、各国で歴史に残る活躍をした偉人達が死後主神に神として召し上げられたという体で、戦や農業他様々な神が祀られているそう。
ライ様は権威をひけらかす神ではないので、それが人の安寧の為になるならいんじゃないと傍観しているそうです。
さて絶賛指名手配犯であるアシャールさんは、染粉で髪を染め、神官服を脱ぎ冒険者風の服に着替えて、狼の魔物の耳を魔法で加工して頭に付ければ、余裕で検問を通り抜けてることが出来た。
最後の耳がやばい。ちゃんと動きや表情に合わせて自然に動いていたんだもん。
わたし達は無事貸家のあった王都を抜け、乗り合いの馬車で二つ先の町に着いた。そして宿を取ることにした。
宿は三人一部屋。抵抗感ありまくりだけど、アシャールさん曰くその方が安全らしい。
「こういう治安の悪い宿には、怪しい魔法や魔導具が仕掛けてあったりするんですよ」
「なんでそんな宿選んだんですか……」
奈々美さんがもっともなことを言う。
「この国で普通の平民や冒険者の泊まれる宿など、どこもこのレベルだったりするからですよ」
「じゃあやるしかないわね」
わたしは魔導具と聞いて、闘志を燃やす。やつらは素材。やつらは素材。魔導具は素材。はじめにそう認定したからには、素材であるべきだ。
貸家でそうしていたように、素材利用出来る不要な魔法、魔導具を認定する。
盗聴魔導具二つ。各ベッドに昏睡魔法付与。あっ、これ、客の荷物盗んだり、売れる情報収集するためか……!
対戦するまでもなく、宿の魔導具(ついでに魔法も)は、あっけなく素材として採取できてしまった。
わたしは窓を開けて今採取したばかりの魔法の一部と常時ストックしてある日光を合成して即席の殺菌消毒魔法を造って放つ。ベッドの裏や床の隅々までよ。ミケ子様が降臨なさるのだからね。
「奈々美さん、念の為索敵お願いしていい?」
「任せて下さい! 虫は厄介な敵ですからね」
最後にアシャールさんが、風魔法でチリや埃を綺麗に吹き飛ばしてから、窓を閉じて、わたし達は部屋に落ち着いた。
ここに来てようやく猫柳香子(かおりこ)は、アシャールさんに本名を明かした。
ここから先は、冒険者登録をしておいた方がいいらしいから。
冒険者登録の際に発行される冒険者証は、最低限の身分証となるので、国境を越えるなら持っておいた方が良いそう。色々手続き的に。
「でもそれって、アシャールさん一発でバレません?」
「ええ、ですがかまいませんよ」
わたしと奈々美さんは、揃って首を傾げた。ミケ子は久しぶりにキャリーから出て、ふんふん部屋の匂いを嗅いでいる。
「私達フェイ族は、古い古い強大な魔力を持つ種族です。歴史の中ではフェイ族の機嫌を損ねると国が滅ぶと言い伝えられるほど。実際私は軽く神殿も破壊しましたからね。だからまあ、フェイ族と分かれば彼らは私に何もしないでしょう」
「……じゃあなんで神殿の地下牢で捕まってたの?」
わたしのツッコミに、アシャールさんは咳払いをした。
「あの魔導具はフェイ族を捕える為に特別に造られたものなのです。香子のおかげで、もうこの国に私を捕える術はありません。犠牲になった数多のフェイ族も浮かばれることでしょう」
「……つまりあの魔導具や勇者召喚の魔導具が、素材のくせに素材にならなかったのって、特別仕様の魔導具だからなの?」
魔導具は素材。それはついさっき証明出来た。魔導具は素材。わたしのスキルちゃんも、熱く主張しているのを感じる。
「その二つの魔導具は、どれもフェイ族が造った伝説の魔導具なのです」
「勇者召喚の魔導具は一旦置いておくとして、何故フェイ族が同族を捕える魔導具を造ったんですか?」
奈々美さんが聞いた。
部屋の探検に満足したのか、ミケ子は部屋に置かれた、わたし達の囲む丸テーブルの上で、とてんと横になる。三人の手がそれぞれそっとミケ子を撫でだした。
「大昔のフェイ族に、このグランヒューム王国の王女と恋仲になった者がいたそうです。当時の王は娘である王女を人質に、そのフェイ族に二つの魔導具を造らせました。勇者召喚の魔導具と、その魔導具を起動するための大量の魔力を確保する為にフェイ族を捕える魔導具です……」
「待って、それじゃあアシャールさん、今枯渇……」
だって、わたし達が巻き込まれた召喚の燃料にされたってことよね?
しかし、アシャールさんはお口をへの字にして言った。
「それでも私は、充分強いです」
あらま。意外と負けん気が強いようですよ。
「香子さん、もしかしてアシャールさんの魔力が不足してなかったら、この国……」
「…………神殿で済んで良かったわね」
とはいえ、魔力不足がどんな影響を及ぼすかわからないし、パナマ草茶はアシャールさんにも飲んでもらおう。体力と魔力量の増加を助ける効果があったはずだし。
「あ、そうだ。アシャールさん、聖女ってなんですか?」
神官だったのだから、きっと知っているだろう。奈々美さんもアシャールさんを見た。
「聖女……ですか? そうですね。一般的には神官の女性版といったところでしょうか。治癒や浄化魔法を扱う女性もそう呼ばれますね。しかし、召喚された聖女には、別の役割があるのです」
「……その、役割って、」
奈々美さんの声が掠れた。
「勇者の天敵です」
「て……天敵って……、」
アシャールさんは何かを思い出すように、テーブルを指でトントン軽く叩く。
実際思い出そうとしているのだろう、アシャールさんを鑑定したら六百歳って見えたから。フェイ族は二千年くらい生きるようだから、見た目に騙されちゃいかん。
「……元々この世界には、時折異世界からの迷い人が訪れることがあったのです。元の世界に帰すことは叶わないので、せめて生きやすいようにと、主は特別に言語を理解する祝福とスキルを与えることにしました。これは本人の資質に合わせてのスキルですね。これに目をつけたグランヒュームの王は迷い人を人工的に作り出し、戦闘能力に特化したスキルが得られるよう研究……フェイ族を巻き込んで成功させました。しかしそれは神の御技に土足で足を乗せること。欠点……代償がありました」
「……代償」
「勇者のスキルは本人の資質に関係なく強制的に与えられるもの……使えば使うほど、魂が耐えられず苦痛に苛まれ、徐々に心臓が魔石と化して命を落とします」
「そんな……!」
奈々美さんが息を呑んだ。わたしも確認する。
「……なんとか……なんとかする方法ないの?」
勇者に召喚された子は、制服を着ていた。まだ未成年の、未来のある子……なのに。アシャールさんはゆっくりと首を横にふった。
「魔石になった勇者の心臓は、無念の想いの詰まった呪いの石です。この国はそれさえも利用して、政敵の元に送り大国として君臨しています。その魔石を唯一破壊、もしくは浄化できるのが召喚された聖女です」
「……っ、それって……勇者君が死ぬまで私には何もできないってことですか?!」
「……」
アシャールさんの無言は肯定だった。
ああ、だからライ様「勇者には彼の命運がある。気にせず逃げろ」と。勇者はどうにもしてあげられないから、せめてわたし達だけでもと……。
不意に、いつもわたしのスキルのやらかしに、ブフフと笑っているライ様の顔に悲しみの顔が重なった気がした。
「念の為聞いておくけど、聖女のスキルは安全なものなの? その、奈々美さんの資質にあった?」
だって〈外殻装甲〉よ? 今は男装しているとしても、このシュッとした美人で優しく礼儀正しいお嬢さんのスキルがよ?
「勇者以外のスキルは、本人の資質に合わせて得られるものなので心配はありません。その中でさらに、勇者の魔石に有効だと判断されるスキルを得た方に、聖女の称号が与えられます。私も長く生きていますが、〈外殻装甲〉なんてスキルは初めて見ましたよ」
「そっか、心配なくて良かったわね奈々美さん」
「え……え、はい……」
奈々美さんは複雑そうだ。
アシャールさんは淡々と言った。
「今すぐどうしようもできないことに悩む前に、目の前にある問題から片付けましょう。そうすれば、自ずと道は開けるものです」
……その通りだ。流石、殺しはしても犯しはしない神官様のありがたいお言葉である。
「……そうね。もし本当にその役目を果たさなくてはいけない時がきても、わたしはきっと奈々美さんと一緒にいるからね」
「香子さん……」
素材採取しできないわたしが役に立つかはわからないが、一緒に居てくれる人がいるか居ないかは気持ちの上で大きく違ってくると思うのよ。
「それじゃあ、この国を出て目指すのは、ええと」
「自由国家アオリハでしたっけ?」
お。さすが奈々美さん。若い記憶力、頼りになる。
「そうです。そこはいろんな種族の人間を受け入れている活気のある国ですよ。私の所属する神殿もアオリハにあります」
「つまりアシャールさんの実家に向かうのね」
アシャールさんに勝手に出てきてもらうミッションを完了したことで、わたしは〈空間収納〉スキルを得られたのだけど、奈々美さんは〈収納空間〉スキルだった。この差はなんだ? と思っていたのだけど、きっとなんか本人の資質による微調整がされたんだろうな……先刻の話からするに。
多分わたしの素材採取スキルグループと鑑定スキル、空間収納スキルってすごく相性いいんだと思う。頭の片隅でスキルちゃん達が手を繋いでご機嫌にマイムマイム踊ってる気がするのよ。
因みにミケ子はちゃんと鑑定の結果〈神獣:猫ちゃん〉になっていた。ライ様からは絶対防御という加護をいただいているので、超安心。
写真を撮るのに活躍してるスマホも、わたしと奈々美さんのスマホには「ライふぉ」という新たなアプリが追加されて、ミケ子の画像をライ様に捧げることができるようになっていた。
スマホの充電は、アシャールさんがあっという間に魔導具を作ってくれたのですよ。フェイ族というのは、魔法だけでなく魔導具造りにも長けているらしい。
わたしは場の雰囲気を変えるためにも、空間収納からコップを三つと片手鍋と鍋敷を取り出して並べる。そしていつものようにパナマ草茶を淹れる。
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