ノンタイトルおばさん〜勇者でも聖女でもなく〜

天三津空らげ

文字の大きさ
25 / 44

25 スマホ

しおりを挟む
 この世界では時間はゆっくり過ぎる。
 まあ今わたし達仕事してない状態ですからね!
 ヴァレ茶はリラックス効果と多幸感も高く、飲んだあと、わたし達三人はスヤァと幸福な午前寝を貪っていた。そして珍しくアシャールさんが爆睡している。

 「そういえば、わたし達に会うまでずっと牢屋で拘束されてたんだから、疲労の蓄積半端ないはずよね」
 「ですね。今のうちにしっかり休んで欲しいです」

 寝起きのスッキリ感が半端なく、わたしと奈々美さんは、キトキトコンビが休憩場に選んだ湖の畔でキトキトコンビに食事を与えたり、馬車の水回りの手入れをしたりして元気にバタバタしてるのに、気配に敏感なアシャールさんがすやすやしている。
 ちょっと心配になって、アシャールさんの魔力ちゃんに確認したら、本体の疲れが溜まっていたようでと返事が来たので、心ゆくまで眠ってもらうことにした。

 テーブルセットを取り出し、今度は普通のパナマ草茶で、奈々美さんと二人でのんびりする。ミケ子達も目の届く範囲で駆けっこしたり戯れあったりして遊んでいて、とても平和。

 「なーんか、のんびりしてて良いわねぇ」
 「はい! こんな自然の中でのんびりできるなんて、贅沢ですよね。本来なら自然って厳しいもののはずですよね……」
 「そうよね……」

 わたしはキトキトコンビが湖で水浴びしているのを眺めた。潜らないよう祈りながら。

 「春さん、元気でいるでしょうか」
 「……多分。とりあえず冒険者はやめたんだから、怪我の心配とかはないんじゃないかな」

 アオリハにいる間に一度、ミケ子にちり紙なんかの日用品を届けて貰ったら、お手紙を持って帰って来た。
 読み書きが出来て計算もはやいので、縁が出来てとある貴族の使用人として働くことになったそうだ。

 「貴族の使用人って、お給料良いんでしょうかね?」
 「さあ……見当もつかないわ。冒険者の報酬はなんとなくわかって来たけど。でも春さんがそっちを選んだってことは、冒険者やってるより収入が良かったんじゃないかしら?」
 「……香子(かおりこ)さんは、お家ができたら冒険者を辞めるんですか?」
 「うーん、とりあえずシュベルクランは冬に雪が降るらしいから、その間はお家でゆっくりしたいかも。でもそれ以外は、冒険者するのも良いんじゃない? スキルちゃんと素材採取したいし、買い取ってくれるところも冒険者ギルドしか知らないしね」

 奈々美さんの表情が緩んだ。

 「実は私、冒険者の仕事が楽しいなって思うようになったんです。この環境だからだろうけど」

 わかるわかる。わたしが頷いた時、アシャールさんが、馬車から降りてきた。

 「アシャールさん、まだゆっくり休んでいて良いのよ」
 「お陰様で、数十年ぶりに良き眠りを得られました。しかしこれ以上は夜の睡眠に支障をきたしますので。という訳で香子、頼まれていた魔導具の最終確認が終わりました。稼働には全く問題なく、スキルちゃん達はかなり優秀ですね」
 「ほんと?! じゃあ本番機の作成に入っちゃいますよ!」

 リガルさんから貰ったお皿の箱の下に、パーティ猫の目の紋章を作ってみたと、カッコかわいい図案があったので、利用させて貰うことにした。
 わたしとスキルちゃんが製造に入っている間に、奈々美さんはアシャールさんから試作機を受け取って驚いた。

 「これって、スマホですか?! ライふぉ以外のアプリも使えるんです?」
 「時計、カレンダー、スケジュール、録音、録画、カメラ、住所録、ヘルスケア、音声通信、電卓、香子の鑑定図鑑や素材や製品在庫のチェックなどかなり多機能ですよ。貴方達のスマホを更にこちら向きに変えた魔導具ですね。この『ライトモ』アプリで各自の状況を知らせる事が可能」
 「いつのまにこんなものを……」

 『ライトモ』はズバリSNSだが、利用者はわたし達しかいない。トークとか投稿機能はあれども。
 いざという時に『ライふぉ』を個人間の連絡で使うのも気が引けるので作ったアプリです。

 わたしはノクレイ外装で猫の目紋章入りスマホを四台造った。
 本当はもう一台あるのだけど、それはスキルちゃんを通じてライ様に渡して貰った。こんなんできましたよ♪ と。だってサーバーや通信塔代わりの魔導具、わたしの空間収納内だけど、狙ってイスタリオに置かせて貰ったの。だってそこ、神様の領域だから、世界中どこでも高速で魔力電波繋げられるし。

 「はい。ではみなさんそれぞれどうぞ。名入れもしてあるから」

 奈々美さんとアシャールさん、それからピホにスマホを渡した。

 「ピホウ! ピピホー!」

 ピホさん大歓喜。作ってよかったピホの分。

 「わ! アカウント情報って魔力を流すだけで登録出来るんですね」
 「因みにこっちのスロットに冒険者証を差し込むと、眼鏡のギルド長さんがしてたみたいに討伐履歴が読み取れるの」
 「……香子、スキルちゃん達は写真に写るのですか?」

 ?

 「ちょっと言ってる意味がわかりません。スキルちゃん達はわたしの中にいるのであって……」

 アシャールさんは、そっと『ライトモ』を開いた自分のスマホをわたし達に見せる。
 そのプロフィール画面には、紙を作ったり、農園の水やりしてたり、素材を両手で掴む笑顔のスキルちゃん達の画像が上手く配置された、見事なヘッダー画像がある。かわいい。

 「えーっと、我々はとある元気なスキルちゃん。本体がのびのび育ててくれたので、Cー壱のよちよちから現在SSSー五まで急成長中! るるん。ららん」

 奈々美さんが読み上げた。
 アイコンは青と緑の二色シンプルアイコンだけど、早速画像付きの投稿が上がっている。
 スキルちゃんの農園だよ! ららん♪

 ????

 謎すぎるわ。
 わたしは空間収納を確認した。スキルちゃん専用スマホが二台有る……この魔導具のせいね、ご理解しましたよ。
 スキルちゃん達にはのびのび暮らして欲しいので、気にせずわたしは黙って友達追加した。

 「可愛い。スキルちゃん達ってこんな姿してたんですね」

 奈々美さんもほくほく顔で友達追加している。スキルって何だろう。



 スマホ本体のアカウント情報にはステータス値も表示されるようなっていて、仲間内に公開するかの設定もある。わたしはこのメンバーで隠し立てするものは何もないのでオープンよ。ノクレイドラゴンを素材にしたおかげでレベルもね、四三二まで上がったの。
 あの変態ドラゴン、かなりお強かったみたいですね。まあ人語話してたし。
 しかしここで、大問題? が持ち上がった。

 「……あの、香子さん、ぜったい、絶対、ぜったい、前線に出ちゃだめですよ」

 わたしのステータスを見て、奈々美さんは真剣に言った。絶対を三回も言った。

 因みにわたしのステータス、
  レベル:四三二
  体力:六〇
  魔力:四二〇〇〇
  攻撃力 (物理):一五
  防御力 (物理):四〇
  魔法攻撃力:一二〇〇〇
  魔法防御力:六五〇〇
  敏捷性:五〇
  知力/処理能力:三四〇〇〇
  運/幸運:一二〇〇

 奈々美さんのステータス、
  レベル:五二
  体力:三八〇〇
  魔力:一六〇〇
  攻撃力 (物理):九〇〇
  防御力 (物理):一八〇〇
  魔法攻撃力:一一〇〇
  魔法防御力:一三〇〇
  敏捷性:九五〇
  知力/処理能力:六〇〇
  運/幸運:六五〇

 アシャールさんのステータス、
  レベル:一〇〇〇
  体力:五〇〇〇〇〇
  魔力:一〇〇〇〇〇〇
  攻撃力 (物理):五〇〇〇〇
  防御力 (物理):一〇〇〇〇〇
  魔法攻撃力:二〇〇〇〇〇
  魔法防御力:一五〇〇〇〇
  敏捷性:八〇〇〇〇
  知力/処理能力:三〇〇〇〇〇
  運/幸運:一〇〇〇〇
  ※衰弱状態にあるため各ステータスが表示値の十分の一まで下がっています。

 です。
 ここ、わたしのステータスよりラスボスみたいなアシャールさんのステータスに注目すべきじゃない?

 「ピホかミケ子さんは、私がいない時は絶対香子と離れないように」

 アシャールさんも真剣よ?

 「大袈裟ですねー。これでも体力は六十まで上がったんだから」
 「物理防御が四十、敏捷性が五十しか有りません。とてもレベル四三二のステータスではありませんね。香子は極端に物理的攻撃に弱いのです。物理攻撃力など十五しか無いのですよ。物取りに襲われただけで無抵抗にやられてしまいます。ピホ、もし香子がならず者に襲われそうになったら、問答無用で攻撃して下さい」
 「ピオウ!」
 「香子さんの敵は人……」

 待って、奈々美さんの呟きが物騒だわ。

 「少々スキルちゃん達とゆっくりトークする必要がありそうですね」
 「え? アシャールさん、うちのかわいいスキルちゃんに何をさせるつもりなの?」
 「『武器は素材』、まずこれを徹底していただこうかと」
 「いやいやいや、職務上帯剣してる方々とかいるでしょう? 治安を守る方々とか。自動採取の対象にはできませんよ!?」

 アシャールさんは、フッと笑った。

 「やりようとは、色々あるものですよ」

 ああ、もう。わたしも寝る前にスキルちゃん達とお話し合いをしないとだわ。


 夕方から優しく雨が降り出して、わたし達は大人しく馬車の中で過ごした。
 温かいヴァレ茶を飲んで、ぐっすり眠る準備をする。
 アシャールさんは地図を広げて、スマホで何か確認している。家造りの構想を練っているのだろうか。

 「お先にお休みなさいアシャールさん。ほどほにね」
 「ええ、お休みなさい。良い夢を」

 わたしがベッドルームに引っ込むと程なくしてスマホの通知が鳴った。
 ライトモにアシャールさんから、『愛しています』と。

 今まで生きてて、誰にも言われたことのない言葉に、一瞬で身体中に血が巡って、脳内の思考が霧散した。目を閉じると、さっき見たアシャールさんのいつも通りの澄ました佇まいが再生される。
 アシャールさん、あのひとは。独りが苦にならないタイプの人だ。その気楽さより、わたしと一緒にいることに価値を見出したのよね……。鑑定で確認しても、愛してるの言葉に嘘はない。

 ああ、既読がついちゃってるわ。何か返信しないと! わたしも、は、はじめての愛の告白に返すのに足りない気がして。

 『エルカリシャ』

 わたしはそう返信した。

 わたしは、あなたの存在を、求めます。いつもそばにいて。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...