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32 ゼルヴァスヘルベイン(可哀想)
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ざりざり。ざりざり。
猫舌で目の近くを舐められて、わたしは目を覚ました。
テーブルに突っ伏したままということは、そんなに時間は経ってないはず。
「大丈夫ですか?」
奈々美さんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。
「ん、ごめんなさいね。驚かせて」
「大丈夫です。スキルちゃん達がグループトークで事情を説明してくれたので」
そかそか。
わたしもライトモを開いてみると、
『ゴメンね。ついでに対戦相手の気配のする素材たぁぁぁぁっくさん収集したら、本体寝ちゃった。五分程で起きるよう』
とある。
報連相の出来る、善きスキルちゃん達よね。
わたしは冷たいパナマ草茶を出して、一気に煽った。
「ふぅ。とりあえず奈々美さん、このライ様像はしまいましょう」
「え、どうしてですか?」
「スキルさんが臍を曲げるからです」
「…………どういう」
意味ですか、まで言えずに、馬車が揺れた。
来た! ゼルなんとか!
わたしが馬車の扉を開いて飛び降りると、何も言わずにクロの背中がわたしを受け止めた。
シロは一匹で馬車を引いて距離を取る。
大きい。
ゼルなんとかは、ノクレイドラゴンの倍ほどある。頭に角をびっしり生やし、羽根の風圧で馬車を揺らしたのだ。
わたしに向かって飛んでくる。赤い眼をして。
わたしに爪をかけようとした瞬間、絶対防御が発動し、ゼルなんとかは、光る輪に捕縛されて弾かれた。チャンス!!
そうして、ゼルなんとかは素材になった。
採ったどー!!! スキルちゃんと一緒に腕を突き上げた。
「え?! 何が起こったんですか? 今どうなったんです? 叔父様!」
「待ちなさいマリーシェラ。叔父様は今から熱い抱擁で妻を迎えないといけませんので」
(どうしよう……こんな叔父様見たことないっ!!)
さっと髪を整え、襟元を正すアシャールを見て、マリーシェラは戸惑った。
「香子!」
馬車の扉を開けて、アシャールさんが両手を広げている。
「よいしょっと」
わたしは一旦クロの上で立ち上がると、アシャールさんに向かってジャンプした。
アシャールさんはしっかりわたしを受け止めて抱きしめる。
「やったわ! アシャールさん」
「ええ、あなたは本当に素晴らしい」
「アシャールさんの魔導具のおかげよ」
「捕縛にするよう指示した香子の慧眼のおかげです。カウンター機能にしていたら、大変なことになっていました」
くるりと反転して、アシャールさんはわたしをしっかりと馬車の内部に入れる。
「ではここから先は、私の仕事です」
アシャールさんは馬車から一歩踏み出して、そのまま数歩、空を歩くと翼を広げた。
「主ライフォートよ、御身の光をこの地に満たし給え――――」
雲間から陽光が差し込み、アシャールさんの翼がそれを受け止めると、彩光がネコノメを遍く照らす。
黒い霧は晴れ、翠と水の豊かな、美しい景色が現れた――――
一方でこの一部始終を動画に収めていたものがいた。ピホとスキルちゃん達である。
ピホはスキルちゃん達の動画も受け取り、下僕合唱団に動画に使う音楽を歌わせ、動画編集アプリを巧みに操るのだった。
「まだ信じられませんわ……多くの同胞を苦しめたゼルヴァスヘルベインが、あんな一瞬で?!」
驚きで混乱しているマリーシェラさんには悪いけど、わたしは忘れないうちにリシャールさんに聞いたことを、奈々美さんに説明する。奈々美さんは、真剣にメモを取って聞いてくれた。
「じゃあきっと、もう臍を曲げてますね……」
「機嫌を取りましょう? わたしがご機嫌だと、スキルちゃん達もご機嫌なの。奈々美さんがして楽しいことはなに?」
「私……が、ですか? でも香子(かおりこ)さんと違って、私とスキルさんはなんだか共通することがあまりないっていうか……」
「じゃあ、スキルさんに直接聞いて見ましょ? どうして欲しいのか」
奈々美さんは少し黙って、それから俯いた。
「……答えて……くれません」
「あらら、やっぱり臍を曲げてるからかしら? 奈々美さん、今スキルは使える? この手、スキル化出来る?」
わたしが奈々美さんの右手をそっと両手で包むと、白い装甲を纏った手に変わった。
「大丈夫よ。いつものかっこよくて頼りになる奈々美さんのスキルさんね。本当にいつもありがとう。奈々美さんとわたし達を守ってくれて」
「あっ。そうです……本当はスキルの持ち主の私が、もっとスキルさんを頼って信じなかったから、臍を曲げられちゃったんですよね……なんとなくわかった気がします」
奈々美さんはそっとわたしの肩に額を落とした。
「私、どこかで人に……スキルに頼っちゃいけない……頼りっきりになってはダメになるって恐れがあったんです」
「うん」
わたしは奈々美さんの背中をそっと摩った。
それはきっと慎重で真面目で、責任感が強い故の恐れだろう。
「私、スキルさんに頼っていいのかな」
「良いのよ。大丈夫よ」
「そっか……」
「それに慌てずゆっくりでもいいのよ。出来ることから一歩ずつ。そうだわ、今度シュベルクランの冒険者ギルドも見てみましょう?」
奈々美さんは、顔を上げて笑顔を見せてくれた。
さて、キトキト馬車が向かうは、ゼルなんとかの巣です。スキルちゃん達がどうしても行きたいというので。
山の中腹らしきところに、巣穴にしていたと思われる洞窟があったのだけど、やけに眩しいのよ。キンキラリンなの。
山そのものが。
因みに隣りに見える山脈もそうね。なんか光ってるの多いよ……?
「えーとなになに? 〈タラセタ 神の祝福を受けた魔力を帯びた黄金。どの金属より粘りと強さがあり、朽ちることのなく、神物級アイテム作りに最適な金属の王。この土地でしか生まれない〉」
生まれない……??
鑑定結果を読み上げた途端に、スキルちゃん達がごそっと山を削った。ワア、見渡し良くなったぁ。
そして、とても大きなたまごが見つかった。これ、ゼルなんとかの卵じゃないわよね。
ない?
ただの森のたまご?
なら良かったわ。
スキルちゃん達はたまごをシュッと空間収納に仕舞った。
本体の代わりに温めます~。
え? うん……。うん、ま、いっか。
「叔父様、こんな山以前はなかったはずですよね?」
「どうやらゼルヴァスヘルベインが随分と環境を変えてしまっていたようですね。それと土地の所有者が香子なのが影響したのかと」
国ではないが、私有地であるネコノメ。その所有者はわたし個人なのですよ。成り行きで。
「カオリコさんの影響?」
「香子の国籍は、神国イスタリオなので、私が主に浄化を願い出た時に、おそらく主の祝福も土地に齎されたのかと」
「え!? イスタリオ?」
わたし達は一旦金の山から離れ、キトキトコンビが好きな水辺に向かう。馬車のなかで、マリーシェラさんに今までのことを全部説明した。
「まあ、叔父様を助けていただいて感謝しますわ、カオリコさんにナナミさん。それに世界まで……」
「それは香子さんのお手柄ですから」
「たまたま運よく事が運んだだけですよ」
マリーシェラさんは首肯いた。
「そうでしょうとも。カオリコさんは幼輪と天輪、二つ揃えていらっしゃるんですもの。神に縁が深いのですわ」
「幼輪と天輪??」
「因みに叔父様もそうです」
わたしと奈々美さんは、アシャールさんを見た。
「なんですかそれ?」
奈々美さんはアシャールさんではなく、マリーシェラさんに聞いた。
「そうですね、それを実際見分ける目を持つのはライフォート様を信仰するフェイ族しかいないと言われています。頭頂に開かれるイスタリオへの門……。元々女性は生まれつき神との結びつきが強く、初潮を迎えるまでは幼輪をもつ神の子なのです」
あ。なんか似たようなこと聞いたことあるわね。海外の生き神信仰だったかしら?
「初潮を迎えると徐々に幼輪は薄れます。ですが幼輪は聖なる神の祝福の証。異性と結ばれ、それを失う時まで女性は邪なるものから護られます。男性は神の代わりに幼輪を喪った女性を守らなければいけません。もっとも男性もそれだけの力量があるものばかりではありませんので、お互い苦難の中で手を取り合って生きていかないといけないのです。そして閉経がやってくると、再び神との結びつきができ、天輪が開くのです。幼輪を保ったまま天輪を開くと当然ながら神と特別な繋がりができます。正しくイスタリオに呼ばれるような」
「な、なるほど」
「男性の場合には大抵修行で輪を開くのです。その場合でも、異性と肉体的な交わりを持てば幼輪は消えますので、カオリコさんは叔父様の浮気の心配などは一切不要ですよ」
「ワア、アリガタイデス」
こっわ。異世界こっわ。超プライベートがバレバレなのか……。
「あの……そういうの、フェイ族は皆さん見えるんですか?」
「翼が四枚以上あればですね」
「勉強になります」
奈々美さんも神妙な顔になった。
猫舌で目の近くを舐められて、わたしは目を覚ました。
テーブルに突っ伏したままということは、そんなに時間は経ってないはず。
「大丈夫ですか?」
奈々美さんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。
「ん、ごめんなさいね。驚かせて」
「大丈夫です。スキルちゃん達がグループトークで事情を説明してくれたので」
そかそか。
わたしもライトモを開いてみると、
『ゴメンね。ついでに対戦相手の気配のする素材たぁぁぁぁっくさん収集したら、本体寝ちゃった。五分程で起きるよう』
とある。
報連相の出来る、善きスキルちゃん達よね。
わたしは冷たいパナマ草茶を出して、一気に煽った。
「ふぅ。とりあえず奈々美さん、このライ様像はしまいましょう」
「え、どうしてですか?」
「スキルさんが臍を曲げるからです」
「…………どういう」
意味ですか、まで言えずに、馬車が揺れた。
来た! ゼルなんとか!
わたしが馬車の扉を開いて飛び降りると、何も言わずにクロの背中がわたしを受け止めた。
シロは一匹で馬車を引いて距離を取る。
大きい。
ゼルなんとかは、ノクレイドラゴンの倍ほどある。頭に角をびっしり生やし、羽根の風圧で馬車を揺らしたのだ。
わたしに向かって飛んでくる。赤い眼をして。
わたしに爪をかけようとした瞬間、絶対防御が発動し、ゼルなんとかは、光る輪に捕縛されて弾かれた。チャンス!!
そうして、ゼルなんとかは素材になった。
採ったどー!!! スキルちゃんと一緒に腕を突き上げた。
「え?! 何が起こったんですか? 今どうなったんです? 叔父様!」
「待ちなさいマリーシェラ。叔父様は今から熱い抱擁で妻を迎えないといけませんので」
(どうしよう……こんな叔父様見たことないっ!!)
さっと髪を整え、襟元を正すアシャールを見て、マリーシェラは戸惑った。
「香子!」
馬車の扉を開けて、アシャールさんが両手を広げている。
「よいしょっと」
わたしは一旦クロの上で立ち上がると、アシャールさんに向かってジャンプした。
アシャールさんはしっかりわたしを受け止めて抱きしめる。
「やったわ! アシャールさん」
「ええ、あなたは本当に素晴らしい」
「アシャールさんの魔導具のおかげよ」
「捕縛にするよう指示した香子の慧眼のおかげです。カウンター機能にしていたら、大変なことになっていました」
くるりと反転して、アシャールさんはわたしをしっかりと馬車の内部に入れる。
「ではここから先は、私の仕事です」
アシャールさんは馬車から一歩踏み出して、そのまま数歩、空を歩くと翼を広げた。
「主ライフォートよ、御身の光をこの地に満たし給え――――」
雲間から陽光が差し込み、アシャールさんの翼がそれを受け止めると、彩光がネコノメを遍く照らす。
黒い霧は晴れ、翠と水の豊かな、美しい景色が現れた――――
一方でこの一部始終を動画に収めていたものがいた。ピホとスキルちゃん達である。
ピホはスキルちゃん達の動画も受け取り、下僕合唱団に動画に使う音楽を歌わせ、動画編集アプリを巧みに操るのだった。
「まだ信じられませんわ……多くの同胞を苦しめたゼルヴァスヘルベインが、あんな一瞬で?!」
驚きで混乱しているマリーシェラさんには悪いけど、わたしは忘れないうちにリシャールさんに聞いたことを、奈々美さんに説明する。奈々美さんは、真剣にメモを取って聞いてくれた。
「じゃあきっと、もう臍を曲げてますね……」
「機嫌を取りましょう? わたしがご機嫌だと、スキルちゃん達もご機嫌なの。奈々美さんがして楽しいことはなに?」
「私……が、ですか? でも香子(かおりこ)さんと違って、私とスキルさんはなんだか共通することがあまりないっていうか……」
「じゃあ、スキルさんに直接聞いて見ましょ? どうして欲しいのか」
奈々美さんは少し黙って、それから俯いた。
「……答えて……くれません」
「あらら、やっぱり臍を曲げてるからかしら? 奈々美さん、今スキルは使える? この手、スキル化出来る?」
わたしが奈々美さんの右手をそっと両手で包むと、白い装甲を纏った手に変わった。
「大丈夫よ。いつものかっこよくて頼りになる奈々美さんのスキルさんね。本当にいつもありがとう。奈々美さんとわたし達を守ってくれて」
「あっ。そうです……本当はスキルの持ち主の私が、もっとスキルさんを頼って信じなかったから、臍を曲げられちゃったんですよね……なんとなくわかった気がします」
奈々美さんはそっとわたしの肩に額を落とした。
「私、どこかで人に……スキルに頼っちゃいけない……頼りっきりになってはダメになるって恐れがあったんです」
「うん」
わたしは奈々美さんの背中をそっと摩った。
それはきっと慎重で真面目で、責任感が強い故の恐れだろう。
「私、スキルさんに頼っていいのかな」
「良いのよ。大丈夫よ」
「そっか……」
「それに慌てずゆっくりでもいいのよ。出来ることから一歩ずつ。そうだわ、今度シュベルクランの冒険者ギルドも見てみましょう?」
奈々美さんは、顔を上げて笑顔を見せてくれた。
さて、キトキト馬車が向かうは、ゼルなんとかの巣です。スキルちゃん達がどうしても行きたいというので。
山の中腹らしきところに、巣穴にしていたと思われる洞窟があったのだけど、やけに眩しいのよ。キンキラリンなの。
山そのものが。
因みに隣りに見える山脈もそうね。なんか光ってるの多いよ……?
「えーとなになに? 〈タラセタ 神の祝福を受けた魔力を帯びた黄金。どの金属より粘りと強さがあり、朽ちることのなく、神物級アイテム作りに最適な金属の王。この土地でしか生まれない〉」
生まれない……??
鑑定結果を読み上げた途端に、スキルちゃん達がごそっと山を削った。ワア、見渡し良くなったぁ。
そして、とても大きなたまごが見つかった。これ、ゼルなんとかの卵じゃないわよね。
ない?
ただの森のたまご?
なら良かったわ。
スキルちゃん達はたまごをシュッと空間収納に仕舞った。
本体の代わりに温めます~。
え? うん……。うん、ま、いっか。
「叔父様、こんな山以前はなかったはずですよね?」
「どうやらゼルヴァスヘルベインが随分と環境を変えてしまっていたようですね。それと土地の所有者が香子なのが影響したのかと」
国ではないが、私有地であるネコノメ。その所有者はわたし個人なのですよ。成り行きで。
「カオリコさんの影響?」
「香子の国籍は、神国イスタリオなので、私が主に浄化を願い出た時に、おそらく主の祝福も土地に齎されたのかと」
「え!? イスタリオ?」
わたし達は一旦金の山から離れ、キトキトコンビが好きな水辺に向かう。馬車のなかで、マリーシェラさんに今までのことを全部説明した。
「まあ、叔父様を助けていただいて感謝しますわ、カオリコさんにナナミさん。それに世界まで……」
「それは香子さんのお手柄ですから」
「たまたま運よく事が運んだだけですよ」
マリーシェラさんは首肯いた。
「そうでしょうとも。カオリコさんは幼輪と天輪、二つ揃えていらっしゃるんですもの。神に縁が深いのですわ」
「幼輪と天輪??」
「因みに叔父様もそうです」
わたしと奈々美さんは、アシャールさんを見た。
「なんですかそれ?」
奈々美さんはアシャールさんではなく、マリーシェラさんに聞いた。
「そうですね、それを実際見分ける目を持つのはライフォート様を信仰するフェイ族しかいないと言われています。頭頂に開かれるイスタリオへの門……。元々女性は生まれつき神との結びつきが強く、初潮を迎えるまでは幼輪をもつ神の子なのです」
あ。なんか似たようなこと聞いたことあるわね。海外の生き神信仰だったかしら?
「初潮を迎えると徐々に幼輪は薄れます。ですが幼輪は聖なる神の祝福の証。異性と結ばれ、それを失う時まで女性は邪なるものから護られます。男性は神の代わりに幼輪を喪った女性を守らなければいけません。もっとも男性もそれだけの力量があるものばかりではありませんので、お互い苦難の中で手を取り合って生きていかないといけないのです。そして閉経がやってくると、再び神との結びつきができ、天輪が開くのです。幼輪を保ったまま天輪を開くと当然ながら神と特別な繋がりができます。正しくイスタリオに呼ばれるような」
「な、なるほど」
「男性の場合には大抵修行で輪を開くのです。その場合でも、異性と肉体的な交わりを持てば幼輪は消えますので、カオリコさんは叔父様の浮気の心配などは一切不要ですよ」
「ワア、アリガタイデス」
こっわ。異世界こっわ。超プライベートがバレバレなのか……。
「あの……そういうの、フェイ族は皆さん見えるんですか?」
「翼が四枚以上あればですね」
「勉強になります」
奈々美さんも神妙な顔になった。
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