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十四章 契約と誓約
268. 婚約発表
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夏休み後半に、王宮で行われた貴族会で、正式にドロシー王女の婚約、そして結婚の日取まで発表された。
その余りにも急過ぎるスケジュールに、驚きはあったものの、異を唱える貴族はいなかった。
ショウネシーで配信している動画は、銀行カードを持つものなら、その魔法表示画面を通して無料のものは自由に、有料のものは規定の代金を払って視聴することが可能だ。まだ銀行カードを持たない子供や、特に必要性を感じていないものも、神殿に設置されている魔法表示画面で、ショウネシー領に、奇跡のような新たな町とダンジョンが出来たことは知れ渡っているので。
貴族会は王族と宮廷の代表役職達と、各領地の代表やその日参加可能な貴族達で行われる。
大きな家門の貴族が王都に邸宅を構えるのは、社交だけでなく、この貴族会に参加する為でもあった。
今回の貴族会は、ドロシー王女の婚約発表だけでなく、ショウネシー領に発生したダンジョンの報告とそれに纏わる規則、そしてこれを機会に国内の道路交通整備を行っていくことの説明と、各領地からの要望があれば、書面で提出することの通達が主だった。
「今回の道路整備にあたり、既に整備が完了しているショウネシー領、エルロンド領、シーグローブ領は対象外とします。ただしシーグローブ領は自領で銀行融資をうけて領地整備を行っていたため、返済金の三割を国で負担します」
担当官の発言が続く中、マグダリーナは今すぐ駆け出して逃げたい衝動と戦っていた。
当然ながら、ダーモットは貴族会出入り禁止である。
一応王宮までは来ている。コッコ車の中で貴族会配信を視聴していることだろう。
そんなダーモットに代わり、成人前のマグダリーナとヴェリタスが参加しているのはこの上なく注目を集めている。
ダーモットの妖精のいたずらを知らない世代の貴族達には、生意気な子供達、もしくはダーモット・ショウネシーは政治のできない情けない貴族と思われているに違いない。
ダーモットと同じ王立学園に通っていた世代なら理由に察しはつくようで、隣の席の紳士に「ショウネシー伯爵はまだ書類と仲が悪いのかい?」と尋ねられてしまった。
「はい。妖精のいたずらなので、どうしようもなく……」
「なんと、あれは妖精のいたずらだったのか。彼は魔法制御も完璧だったし不思議なものだと思っていたのだよ。ああ失礼、淑女の前で名乗り忘れるとは。私はコナン・ゲインズ侯爵。令嬢のことはアルバーン伯からよく聞いているよ。ショウネシーの子供達は我が領の熊を沢山討伐してくれていると」
「そ……それはここにいるアスティン子爵や兄弟達で、私は補助的な役割がほとんどなのです……」
「それでも令嬢があの熊の狩りの現場にいることは、なかなかできることではない。感謝しているよ」
求められた握手に応じながら、マグダリーナは笑顔が引き攣らぬよう、懸命に意識した。
(エステラ達やレピのことより、熊師匠のことを話題に出されるとか令嬢としてどうなの)
とうとうドロシー王女の婚約が発表され、さらにその場で、ドロシー王女とダーモットの婚姻約束の書類に署名する、婚約式が行われる。
ダーモット本人はいないのに。
不思議に思いつつも殆どの貴族達は、とうとうショウネシーが王家に首輪を付けられたと考えるのは自然なことだった。
その為にセドリック王は、先の毒熊事件で多くを救った功労者でもある第一王女すらも、歳の離れた伯爵の後妻にするのかと内心震え上がっている。実際はそのドロシー王女が力技で結婚を迫ったのだけれども。
「ではこれより、第一王女ドロシー・リーンとダーモット・ショウネシー伯爵の婚約式を行う。ドロシー第一王女、それからマグダリーナ・ショウネシー子爵は署名台へ!」
ここで多くの貴族達が「???」となった。
ダーモットは書面に近づけないので、マグダリーナが代理人となって署名を行なわなければならないのだ。なんでか。
(うちの正統な後継はアンソニーなんだから、アンソニーが代理人の方が良いんじゃないかしら……あー、でも、この高さだと、アンソニーなら台に乗って書かなきゃいけないわ……)
想像すると、可愛くて微笑ましいが、それはマグダリーナが身内であるからこその感想で、他の貴族達がどう思うか考えると、まだ王太子の部下扱いで見られているマグダリーナの方がマシだろう……。
マグダリーナが爪先立って代理署名を終えると、隣にいるドロシー王女が、花のような微笑みで、マグダリーナから羽根ペンを受け取った。
第一王女なのに、どこをどう見てもハズレの政略的結婚だが、どこをどう見てもドロシー王女は幸せそうだった。
(きっと、ご自分で切り開かれた道だからだわ……なんて、強くて美しいひと……)
王族の義務感でダーモットとの結婚を選ぶのではなく、もっとご自分を大事にしてほしい……マグダリーナはそう思っていたが、今日のドロシー王女の顔を見て、その考えを改めた。
そして貴族席に戻ろうとして、はた、と気づいた。
(あれ? はたから見るとショウネシー伯爵家、じゃなくてお父さま、かなり悪い男じゃない――――?!)
王様の恋人を奪い、貧乏で死なせた挙句、働きも社交もせず家門を没落寸前にさせ、成人前の娘を働かせつつ、厚かましく娘と歳の変わらぬような王女を後妻にする。しかも子供が四人いるのに!
この父の評判は、今後ドロシー王女の評判に傷をつける可能性が大いにあるのだ。
思わず振り返って、ドロシー王女を見た。本当にうちのこの父で良いんですか?! を、視線に込めて。
ドロシー王女は、とてもとても魅力的なウィンクを返してくれた。
王宮を後にするとき、マグダリーナは本気でヤバいなと焦った。
もしもこのまま何事もなく、そう、何事もなく、学園を卒業してしまったら、宣言通りレベッカがハンフリーと婚約してしまうかもしれない。そうなると、世間は皆こう思うだろう。
ショウネシー家門の男は、皆非常に若い女性を好む変態野郎だと!
アンソニーの将来の為にも、そんな噂が立たないよう、ハンフリーに早くお嫁さんを見つけないといけない。特殊な例といえ、ショウネシー領のロリコンはニレルだけでお腹いっぱいなのだ。
その余りにも急過ぎるスケジュールに、驚きはあったものの、異を唱える貴族はいなかった。
ショウネシーで配信している動画は、銀行カードを持つものなら、その魔法表示画面を通して無料のものは自由に、有料のものは規定の代金を払って視聴することが可能だ。まだ銀行カードを持たない子供や、特に必要性を感じていないものも、神殿に設置されている魔法表示画面で、ショウネシー領に、奇跡のような新たな町とダンジョンが出来たことは知れ渡っているので。
貴族会は王族と宮廷の代表役職達と、各領地の代表やその日参加可能な貴族達で行われる。
大きな家門の貴族が王都に邸宅を構えるのは、社交だけでなく、この貴族会に参加する為でもあった。
今回の貴族会は、ドロシー王女の婚約発表だけでなく、ショウネシー領に発生したダンジョンの報告とそれに纏わる規則、そしてこれを機会に国内の道路交通整備を行っていくことの説明と、各領地からの要望があれば、書面で提出することの通達が主だった。
「今回の道路整備にあたり、既に整備が完了しているショウネシー領、エルロンド領、シーグローブ領は対象外とします。ただしシーグローブ領は自領で銀行融資をうけて領地整備を行っていたため、返済金の三割を国で負担します」
担当官の発言が続く中、マグダリーナは今すぐ駆け出して逃げたい衝動と戦っていた。
当然ながら、ダーモットは貴族会出入り禁止である。
一応王宮までは来ている。コッコ車の中で貴族会配信を視聴していることだろう。
そんなダーモットに代わり、成人前のマグダリーナとヴェリタスが参加しているのはこの上なく注目を集めている。
ダーモットの妖精のいたずらを知らない世代の貴族達には、生意気な子供達、もしくはダーモット・ショウネシーは政治のできない情けない貴族と思われているに違いない。
ダーモットと同じ王立学園に通っていた世代なら理由に察しはつくようで、隣の席の紳士に「ショウネシー伯爵はまだ書類と仲が悪いのかい?」と尋ねられてしまった。
「はい。妖精のいたずらなので、どうしようもなく……」
「なんと、あれは妖精のいたずらだったのか。彼は魔法制御も完璧だったし不思議なものだと思っていたのだよ。ああ失礼、淑女の前で名乗り忘れるとは。私はコナン・ゲインズ侯爵。令嬢のことはアルバーン伯からよく聞いているよ。ショウネシーの子供達は我が領の熊を沢山討伐してくれていると」
「そ……それはここにいるアスティン子爵や兄弟達で、私は補助的な役割がほとんどなのです……」
「それでも令嬢があの熊の狩りの現場にいることは、なかなかできることではない。感謝しているよ」
求められた握手に応じながら、マグダリーナは笑顔が引き攣らぬよう、懸命に意識した。
(エステラ達やレピのことより、熊師匠のことを話題に出されるとか令嬢としてどうなの)
とうとうドロシー王女の婚約が発表され、さらにその場で、ドロシー王女とダーモットの婚姻約束の書類に署名する、婚約式が行われる。
ダーモット本人はいないのに。
不思議に思いつつも殆どの貴族達は、とうとうショウネシーが王家に首輪を付けられたと考えるのは自然なことだった。
その為にセドリック王は、先の毒熊事件で多くを救った功労者でもある第一王女すらも、歳の離れた伯爵の後妻にするのかと内心震え上がっている。実際はそのドロシー王女が力技で結婚を迫ったのだけれども。
「ではこれより、第一王女ドロシー・リーンとダーモット・ショウネシー伯爵の婚約式を行う。ドロシー第一王女、それからマグダリーナ・ショウネシー子爵は署名台へ!」
ここで多くの貴族達が「???」となった。
ダーモットは書面に近づけないので、マグダリーナが代理人となって署名を行なわなければならないのだ。なんでか。
(うちの正統な後継はアンソニーなんだから、アンソニーが代理人の方が良いんじゃないかしら……あー、でも、この高さだと、アンソニーなら台に乗って書かなきゃいけないわ……)
想像すると、可愛くて微笑ましいが、それはマグダリーナが身内であるからこその感想で、他の貴族達がどう思うか考えると、まだ王太子の部下扱いで見られているマグダリーナの方がマシだろう……。
マグダリーナが爪先立って代理署名を終えると、隣にいるドロシー王女が、花のような微笑みで、マグダリーナから羽根ペンを受け取った。
第一王女なのに、どこをどう見てもハズレの政略的結婚だが、どこをどう見てもドロシー王女は幸せそうだった。
(きっと、ご自分で切り開かれた道だからだわ……なんて、強くて美しいひと……)
王族の義務感でダーモットとの結婚を選ぶのではなく、もっとご自分を大事にしてほしい……マグダリーナはそう思っていたが、今日のドロシー王女の顔を見て、その考えを改めた。
そして貴族席に戻ろうとして、はた、と気づいた。
(あれ? はたから見るとショウネシー伯爵家、じゃなくてお父さま、かなり悪い男じゃない――――?!)
王様の恋人を奪い、貧乏で死なせた挙句、働きも社交もせず家門を没落寸前にさせ、成人前の娘を働かせつつ、厚かましく娘と歳の変わらぬような王女を後妻にする。しかも子供が四人いるのに!
この父の評判は、今後ドロシー王女の評判に傷をつける可能性が大いにあるのだ。
思わず振り返って、ドロシー王女を見た。本当にうちのこの父で良いんですか?! を、視線に込めて。
ドロシー王女は、とてもとても魅力的なウィンクを返してくれた。
王宮を後にするとき、マグダリーナは本気でヤバいなと焦った。
もしもこのまま何事もなく、そう、何事もなく、学園を卒業してしまったら、宣言通りレベッカがハンフリーと婚約してしまうかもしれない。そうなると、世間は皆こう思うだろう。
ショウネシー家門の男は、皆非常に若い女性を好む変態野郎だと!
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