ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十四章 契約と誓約

278. 誓約(うけい)

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 「お前が妖しい魔法を使うという、ハイエルフか。弱そうだな」

 ザハト王子は、ニレルから視線を外さず……否、外せなくなりながらも、そう言った。

 「そうだね。僕は弱いよ。求められるレベルには未だ遠く、冒険者ランクはDだ。だが僕が増える分、君達の迷宮武器を返そう」

 ゼハト王子はニヤリと笑った。
 「それだけでは足りぬ! 俺達は神に誓約して戦うのだ! 勝った暁には、当然お前の持ち物を全て貰う!!」

 ゼハト王子は、マグダリーナを指差した。

 「私?! 私の持ってるものなんて大したことないわよ? そもそもこの町も私のものではないし」
 「は?! 町長なんだろう?」
 「町長だけど、ショウネシー領は父の領地で私のものではないわ」
 「は! 女のくせに偉そうにしているが、大したことなかったな。では、お前の親の持ち物を全て貰う!!」

 (あれ? 罪人のくせに随分と図々しくない?!)

 言い返そうとしたマグダリーナの口を、ニレルがそっと塞いだ。

 「それでは公平ではないね。ショウネシーが勝った場合、君も同じものを差し出して貰おう。すなわち、君の親の持ち物全てだよ」

 は?

 「良いだろう! 女神に誓う!」

 良いの?!

 ……だってそれって。ゼハト王子の親の持ち物全てって……。

 ニレルの手が離れた後も、マグダリーナは開いた口が塞がらなかった。

 「ではこれは、誓約(うけい)の印だ」

 ニレルが掲げた左手が輝くと、それぞれの条件が記され魔法契約が施された誓約の書が現れた。それを秘書マゴーが恭しく受け取る。

 「さあ、始めよう。マンドラゴン、彼らを女神の塔まで連れていってくれ」

 ニレルの表情は、いつもと違い完全に無表情だった。あまりにも整い過ぎるその横顔は、命を刈り取る死神のようにも見える。
 女神様を侮辱され、すごく……ものすごく怒っているんだわ……。
 その横顔を見て、マグダリーナはそう感じた。






 タマ・シャリオ号の中で、バーナード以外の王族二人は、テーブルに膝をついて俯いていた。

 「ギルギス国王の子なら、もう少し賢明だと思っていたのに……」

 アルバート王弟殿下の目が死んでいる。

 「叔父様、第三王子とお会いしたことは?」
 「なかったよ。母親である第二王妃がかなり野心家で傲慢な方だとは聞いていたけど」
 「なんでそんな女を妃にしたのかしら……」
 「脚が綺麗なひとらしいんだよ。ギルギス国王は、兄上と違って脚派なんだ」

 こんな時に他国の王様の性癖など聞きたくなかった。マグダリーナは眉間に皺を寄せ、タマ・シャリオ号を走らせた。

 エステラは、せっせと全員のポーチに大量の回復薬を詰め込んでいる。パーティメンバーに入れなかったことに、拗ね拗ねしながら。
 それから、タマとシン、ナードとヴヴのマントに、たんまりと魔法を付与してくれて、そのポケットに何か入れている。

 「二十階の熊達は、つよつよのこわこわだから、絶対無理しちゃダメよ。主の足手纏いになりそうだったら、この簡易安全結界の中から、このスリングで攻撃してね」
 「わかったにょ!」
 「がんばるねー」
 くまっ くまぷー
 ぶっぶっ

 「皆んなも、迷宮武器の攻撃は防御魔法で防げるわ。絶対攻撃してくるから、落ち着いてまず防御よ。それからカエンアシュラベアに進化しても、急所は変わらないから、炎の攻撃に気をつけつつ、いつも通りの討伐方法よ。カエン師匠になったら、レベッカは身体強化に防御魔法を重ねてね」

 エステラはアドバイスをしつつ、女神の塔の宝箱から出て来た剣を幾つか出して、アンソニーとライアンに持たせた。

 的確なダンジョン攻略をアドバイスするエステラをチラリと眺め、助手席のライアンが困った顔をして聞いた。

 「リーナ、ギルギス国王になるの?」
 「なりたく、ナイっっ!!! 後でセドリック王に献上すれば良いのよね?」

 それしかナイと思っていたマグダリーナに、アルバート王弟殿下の無情な言葉が響く。

 「多分受け取らないと思うよ……。この人手不足に、そこまで手を広げるのは兄上もしないはずだ。ギルギス王国のすぐ隣は、厄介なデナード商業国だしね。対応すべきことが多すぎる」

 「そんなっ……、国なんか貰っても困るわ! 受け取らない選択肢もあるんでしょう、ニレル」
 「神への誓約(うけい)だよ。対象であるリーナは、必ず受け取らなくては創世の女神の名に傷がつく」
 「受け取った後の対応策は?!」
 「女神の塔は一種の神域だ。塔の中で、ギルギス王国を女神に捧げると誓約するんだ。そうすると……」
 「そうすると……?」

 誓約(うけい)……また、誓約(うけい)なのか……。女神に誓うなど軽々に行ってはいけない……。マグダリーナは心に刻む。

 「ニレル?」
 なかなか返事がなくて、ハンドルを切りながらマグダリーナは急かした。

 「……女神も国を貰っても活用できないから、地上の誰かに渡す。多分、二分の一の確率でエステラか……」

 珍しく歯切れの悪い返答が返って来た。

 「二分の一って、もう一人はニレルなの?」
 「いいや、僕じゃない」

 「確率二分の一って、ドキドキするわね」
 エステラは、大げさに胸を押さえる。

 「エステラお姉様、ギルギス国王になっても良いんですの?」
 レベッカも困った顔をして聞いた。

 「え? 王様はそのままギルギス国王にして貰えばいいんじゃない? 私は国を貸し出せば良いのよ」

 「国を……貸す????」

 レベッカだけでなく、皆、首を傾げた。

 「ダメ? 賃貸料もらって不労所得ウハウハは、やっぱりダメ? でも前例がないなら作ればいいし、やったもん勝ちよね!」

 「まあ、そういうやり方なら、リーナがそのまま所有していてもいいと思うよ」
 「絶対、女神様に捧げるわ!」

 ニレルの暢気な言葉に、マグダリーナは断言した。

 「ギルギス国王の泣き顔が、目に浮かぶよ……」

 アルバート王弟殿下は、俯いたまま呟いた。
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