ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
279 / 285
十四章 契約と誓約

279. 検証

しおりを挟む
 女神の塔に着くと、やる気に溢れた辺境伯騎士団の騎士が四名、ピシリと並んで待っていた。
 そしてマグダリーナ達が近づくと、一斉に頭を下げた。

 「わざわざ辺境伯領からここまで、ご苦労だった」
 アルバート王弟殿下が、騎士達を労う。

 「我々の力が及ばず、多大なご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
 「いい、ここまで一般国民に被害も出さず、気を配って来てくれたことに感謝する。あと少し、バーナードがこのダンジョンの三階まで行くのに付き合ってもらえるか?」
 「はっ!」

 マグダリーナも騎士達に挨拶して、声をかける。

 「疲れているのにご協力ありがとうございます。お怪我をされた方は大丈夫ですか?」
 「ええ、イラナ様とデボラ様の治療を受けて、すっかり目の保養……いえ、元気になりました!」

 うん、大丈夫そうでなによりだわ。

 そう思ったのも束の間。彼の鎧には銃弾が貫通した跡があった。胸の位置からはズレている。心臓に当たらなかったから、治療が間に合ったのだ。

 「……生きててよかった……。この検証が終わったら、宿屋でゆっくり休んで下さい。それから、もしよければアーベルから防御魔法を習っていって下さい。防御魔法なら迷宮武器の攻撃も防げるそうですから」

 騎士達は感謝を込めて礼をした。



◇◇◇



 エリック王太子は、王宮の豪奢な廊下を早足で歩いていた。
 今日は気温が高く、夏用の薄地の服を着ているとはいえ、不快な汗がわいてくる。
 だがそんな熱気をも、ものともしない事案が発生しているのだ。ショウネシー領で。

 「父上!!」
 エリックは父王セドリックの執務室のドアを思い切りよく開けた。

 「ノックくらいせぬか、粗忽者」
 「それは私の言葉です。なんですかその農夫のような格好は!」

 セドリック王は薄地の長袖シャツとズボンを着てはいるものの、その上は五分丈の半袖半ズボン姿で、見たことのない背面の高い凸凹したソファに座ってる。

 「このような素晴らしい刺繍を身に纏う農夫がおるか。ディオンヌシルクと麻のシャツと股引きに、麻布の甚平だそうだ。動き易くて涼しいぞ。この王明具椅子も腰に負担がなく実に快適だ」

 甚平には、王の威厳を損なわぬよう唐獅子牡丹の鮮やかな刺繍が。ゲーミングチェアならぬ王明具椅子(オーミングチェア)には王宮風に豪華な装飾が施されていた。王の生誕祭に出席しなかった代わりに、ディオンヌ商会から贈られたものだ。

 「そんな事より、またマグダリーナ嬢です!」
 「うむ、呆れるほど引きの良いむすめだな。やっぱり嫁にせんか?」
 「絶対に、嫌です!! あの渦中で、胃痛を患う未来しか見えませんからね」
 「繊細なやつめ……。しかし今頃、ガルフのやつは胃に穴を開けておるやも知れぬな」

 セドリックはアッシが展開する魔法画面を眺め、悪くない関係の隣国の王を思った。
 生配信は丁度、バーナード王子達が三階層に辿りついて、女神の恩寵の検証が始まっている。

 「バーナードも一歩間違えれば、ゼハト王子のようなやらかしをしておったかも知れぬ……なにせ勝手に罪人を釈放する行動力はあるからな。だがハイエルフやマグダリーナ達のおかげで、己の身の丈は理解することはできておるはずだ」

 バーナードが大人しく、三階層の検証に参加するだけの様子を見て、エリックも頷いた。



◇◇◇



 《女神の恩寵》の検証は、戦闘行為をしなかった場合も含めて行うこととし、辺境伯騎士団の怪我をした騎士二名と冒険者ギルド本部長レイモットは、非戦闘員として、三階まで一緒に登るだけに徹してもらった。

 検証結果は、予想通りの差が出た。
 非戦闘員のレイモットが手ぶら。怪我をした騎士団員が自己鑑定スキル取得のみ。

 そしてバーナード王子と騎士達は、それぞれの戦果に応じた以上のドロップ品や宝箱を得て、ザハト王子と冒険者パーティは、それぞれの戦果に応じたドロップ品や宝箱だ。
 ついでにザハト王子達の得たものは、全部回収して、怪我をさせられた騎士達にお見舞い品として渡した。尚、現金の宝箱は無し。
 もちろんザハト王子は文句を言ったが、無視を決め込んだ。

 不思議だったのは、ザハト王子が魔法を使わなかったことだ。王子なのだから、教会の金貨一枚鑑定を受けているはず……マグダリーナは気になって、アルバート王弟殿下に聞いてみた。

 「ああ、教会が魔力鑑定を行うのは、この国とエルロンド王国だけでだったんだ。その他の国の民はあまり魔力が高くないからね」
 「そうだったんですね……」


 そうして二十階に向かう前に、ダーモットをニレルの結界で包み、誓約の書を確認しながら、再度誓約(うけい)にかけられたものについて、細かく取り決めをする。例えば、人は持ち物にあたらないとかだ。案の定、向こうは人も所有物であるとか言いだしてきた。

 「いいえ、我が国には奴隷制度はないので、我が領民は誰の所有物でもありません。例えショウネシー領の所有者が代わったとしても、彼らは自由であり、貴方に従わせる権利はありません」

 マグダリーナとゼハト王子が言い合う横を、お手洗いから帰ってきたエステラが、とことこと通り過ぎた。
 ゼハト王子の視線が、エステラを追いかける。

 「あの女も貰う!!!!」
 「だからっ、人は、物では、ありませんっ!!!!」

 「皆んなも今のうちに、お手洗い行っておいた方がいいわよ~」
 エステラの気の抜けた声が響く。
 そして皆、素直にお手洗いに向かいだす。

 「おい、お前!」
 ゼハト王子の呼びかけに、エステラは自分を指差して、こてんと首を傾げた。ゼハト王子は心臓を押さえた。

 「俺が勝ったら、お前は俺のモノだ!」
 「え? なんで?」

 エステラは素で、こいつ何言ってんのって顔をしたが、これ以上ゴネて話が長引いてもねと溜め息をついた。

 「まあいいわよ。一分だけならね」
 「一分……だと……」
 「一分でも多いわ。あなた犯罪者なんだから。それから、ここまで騒ぎを大きくしたんだから、それなりの覚悟があるんでしょうね。貴方達が負けたら『不毛の刑』では済まさないわ」

 「エステラ……」
 温厚なエステラがちょっぴり怒っている。気持ちがわかるだけに、マグダリーナは申し訳ない気がした。
 だがエステラは、その瞳でマグダリーナに何も心配いらないと語りかけてくる。

 「本当に毛の一本も生えない、つるっつるの身体にしてやるから、震えて待ちなさい!!」

 その瞬間、誓約(うけい)の詳細を記した誓約の書が輝いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...