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三章 女神教
58. オーブリーの兄妹
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「バーナード王子、本日はサロンにいらっしゃったのですね。ご一緒させていただいてよろしいでしょうか?」
衝立の隙間からライアンが声を掛けてきた。
王女様達も一旦この話しは終了と目配せし合う。
「何だ、ライアン達はこれからお昼なのか。他の友人も一緒に居るが、それでも良ければ、同席するがいい」
バーナードの許しが出て、ライアンとレベッカが入ってくる。
マグダリーナとヴェリタスは席をずらして、彼らの場所をあける。
ヴェリタスの姿を見つけて、さっとライアンの顔色が変わった。
「ヴェリタス……」
「よっ、随分久しぶり」
気軽に挨拶するヴェリタスに、ライアンは片眉をあげる。
「相変わらず、元侯爵家の子息とは思えぬ言葉遣いだな……ああ、今も一応侯爵夫人の子息だったか。お前が夫人と出ていって、父上もとても残念がっていたぞ」
「そっか。でも俺母上について行った事は後悔してないんだ。毎日楽しいし。俺たちのことは心配要らないって言っといて」
(ヴェリタス、つよい……)
父上も(ヴェリタスを処分できず)とても残念がってたと言われても、顔色ひとつ変えずに、いつも通り朗らかに対応している。
その心の強さにマグダリーナは感心するしかなかった。
「お兄様、其方の綺麗な方はお知り合いですの?」
レベッカはヴェリタスと初対面らしい。
シャロンに似たヴェリタスの美人顔に見惚れていた。
「どうぞ、お嬢さん」
ヴェリタスはレベッカの椅子を引いてあげる。
「まあ、ありがとう」
レベッカは上機嫌だ。ライアンはヴェリタスの引いた椅子に座ろうとするレベッカを止めた。
「レベッカ、お前の席はこちらだ。王子の隣へ」
「別にわざわざ俺の隣に座らせなくてもいいんだぞ。レベッカの好きなところに座ればいい」
バーナードは呆れた顔をして言った。
二人の王女は、オーブリー侯爵がバーナード王子の婚約者の座を狙っていることにピンと来て、様子を見ている。
「すみません、私がヴェリタスの側にレベッカを座らせたくなかったのです。レベッカが傷つくかと思いまして」
レベッカがはっとしてヴェリタスを見た。
「ヴェリタスって、まさかお父様とお母様の仲を引き裂いてた前夫人の……」
ヴェリタスはすかさずツッコミを入れた。
「いや、仲引き裂いてたの爺さんだから。うちの母上も被害者だよ。侯爵家の命令で逆えずに結婚させられたんだから」
「まあ……お父様、なんてお可哀想……愛のない結婚をさせられてたのね……でもあなた、お父様に全然似ていないわ……髪の色も瞳の色も……本当にお父様と血が繋がっているの?」
マグダリーナはついヴェリタスを見た。ヴェリタスの青い髪と瞳はオーブリー家の血筋の証だ。レベッカはどうやら何も知らないらしい。ヴェリタスも気づいて、軽く肩を竦める。
「俺も女神が奇跡を起こして、母上一人で身籠ったんなら、楽だったのにと思うよ」
「あら、きっとそうなのよ。ヴェリタスはオーブリー家に生まれたのに魔法が使えないって、お父様言ってたもの」
それを聞いてバーナードは首を傾げた。
「何を言ってる? ヴェリタスは上手に魔法を使うぞ。四つ手熊も一人で三体倒しておったし」
「え」
「うそ」
ライアンとレベッカが呟く。
アグネス王女も頷いた。
「ヴェリタスはもう魔法科の修了証を貰っているわよ」
ライアンは呆然とヴェリタスを見ていた。
「そうだレベッカ、この際だから言っておくが、俺は神官になるからお前だけは絶対婚約者にはなれぬ。俺は諦めて、兄上の婚約者を目指せ。ただしかなり道は険しいぞ」
「どういうことですか、王子!!」
ライアンが狼狽える。
「どうもこうも、俺と一緒でまだまだ勉強が足りんということだ」
「それは……ですが、レベッカはまだ十歳です」
「そうだ、これからだ。だが王族に連なりたければ、そんな甘いことは言ってられない」
「バーナード……っ」
ドロシー王女が弟の成長ぶりに感動している。
「しかし、神官になるなど」
「俺は王族なのだから、新たな国教を支えるためにも、率先して神官を目指すのはおかしくないだろう? レベッカ、聖属性魔法を持つお前が、教会に属するなら、リーン国民ではなく教国の民となる。今後教会はこの国から無くなっていく。そうなるとこの国を出ることにもなる。そういうことを、わかるようにならなくてはいけない……」
レベッカは大きく目を見開いて、くちびるを震わせている。
「わからないわ! そんなこと! だって教会がなくなるわけないもの!! 教会がなくなったら誰が回復魔法や浄化魔法をするの? どうやって魔法を使えるようになるの? そもそもなんで今更、過去の古臭い神を信仰しなきゃいけないのよ!」
「それよ! すごいわレベッカ、結構女神教について理解してるのね」
マグダリーナは思わず声を上げた。
「リーナ?」
ヴェリタスがぽかんとマグダリーナを見つめる。
「レベッカが今言ったことは、いまの国民のほとんどが思ってることだと思うの。まずそこを、早急に解決しなくちゃいけないのよ!」
さらさらとメモを取っていくマグダリーナを、ライアンとレベッカが不思議そうに見ている。
「あっ大変、午後の授業が始まっちゃう。ヴェリタス、今日はすぐに領に帰りましょう」
「わかった」
マグダリーナとヴェリタスは、王女達に挨拶すると、コッコ車を待たずにチャーの転移で帰った。
衝立の隙間からライアンが声を掛けてきた。
王女様達も一旦この話しは終了と目配せし合う。
「何だ、ライアン達はこれからお昼なのか。他の友人も一緒に居るが、それでも良ければ、同席するがいい」
バーナードの許しが出て、ライアンとレベッカが入ってくる。
マグダリーナとヴェリタスは席をずらして、彼らの場所をあける。
ヴェリタスの姿を見つけて、さっとライアンの顔色が変わった。
「ヴェリタス……」
「よっ、随分久しぶり」
気軽に挨拶するヴェリタスに、ライアンは片眉をあげる。
「相変わらず、元侯爵家の子息とは思えぬ言葉遣いだな……ああ、今も一応侯爵夫人の子息だったか。お前が夫人と出ていって、父上もとても残念がっていたぞ」
「そっか。でも俺母上について行った事は後悔してないんだ。毎日楽しいし。俺たちのことは心配要らないって言っといて」
(ヴェリタス、つよい……)
父上も(ヴェリタスを処分できず)とても残念がってたと言われても、顔色ひとつ変えずに、いつも通り朗らかに対応している。
その心の強さにマグダリーナは感心するしかなかった。
「お兄様、其方の綺麗な方はお知り合いですの?」
レベッカはヴェリタスと初対面らしい。
シャロンに似たヴェリタスの美人顔に見惚れていた。
「どうぞ、お嬢さん」
ヴェリタスはレベッカの椅子を引いてあげる。
「まあ、ありがとう」
レベッカは上機嫌だ。ライアンはヴェリタスの引いた椅子に座ろうとするレベッカを止めた。
「レベッカ、お前の席はこちらだ。王子の隣へ」
「別にわざわざ俺の隣に座らせなくてもいいんだぞ。レベッカの好きなところに座ればいい」
バーナードは呆れた顔をして言った。
二人の王女は、オーブリー侯爵がバーナード王子の婚約者の座を狙っていることにピンと来て、様子を見ている。
「すみません、私がヴェリタスの側にレベッカを座らせたくなかったのです。レベッカが傷つくかと思いまして」
レベッカがはっとしてヴェリタスを見た。
「ヴェリタスって、まさかお父様とお母様の仲を引き裂いてた前夫人の……」
ヴェリタスはすかさずツッコミを入れた。
「いや、仲引き裂いてたの爺さんだから。うちの母上も被害者だよ。侯爵家の命令で逆えずに結婚させられたんだから」
「まあ……お父様、なんてお可哀想……愛のない結婚をさせられてたのね……でもあなた、お父様に全然似ていないわ……髪の色も瞳の色も……本当にお父様と血が繋がっているの?」
マグダリーナはついヴェリタスを見た。ヴェリタスの青い髪と瞳はオーブリー家の血筋の証だ。レベッカはどうやら何も知らないらしい。ヴェリタスも気づいて、軽く肩を竦める。
「俺も女神が奇跡を起こして、母上一人で身籠ったんなら、楽だったのにと思うよ」
「あら、きっとそうなのよ。ヴェリタスはオーブリー家に生まれたのに魔法が使えないって、お父様言ってたもの」
それを聞いてバーナードは首を傾げた。
「何を言ってる? ヴェリタスは上手に魔法を使うぞ。四つ手熊も一人で三体倒しておったし」
「え」
「うそ」
ライアンとレベッカが呟く。
アグネス王女も頷いた。
「ヴェリタスはもう魔法科の修了証を貰っているわよ」
ライアンは呆然とヴェリタスを見ていた。
「そうだレベッカ、この際だから言っておくが、俺は神官になるからお前だけは絶対婚約者にはなれぬ。俺は諦めて、兄上の婚約者を目指せ。ただしかなり道は険しいぞ」
「どういうことですか、王子!!」
ライアンが狼狽える。
「どうもこうも、俺と一緒でまだまだ勉強が足りんということだ」
「それは……ですが、レベッカはまだ十歳です」
「そうだ、これからだ。だが王族に連なりたければ、そんな甘いことは言ってられない」
「バーナード……っ」
ドロシー王女が弟の成長ぶりに感動している。
「しかし、神官になるなど」
「俺は王族なのだから、新たな国教を支えるためにも、率先して神官を目指すのはおかしくないだろう? レベッカ、聖属性魔法を持つお前が、教会に属するなら、リーン国民ではなく教国の民となる。今後教会はこの国から無くなっていく。そうなるとこの国を出ることにもなる。そういうことを、わかるようにならなくてはいけない……」
レベッカは大きく目を見開いて、くちびるを震わせている。
「わからないわ! そんなこと! だって教会がなくなるわけないもの!! 教会がなくなったら誰が回復魔法や浄化魔法をするの? どうやって魔法を使えるようになるの? そもそもなんで今更、過去の古臭い神を信仰しなきゃいけないのよ!」
「それよ! すごいわレベッカ、結構女神教について理解してるのね」
マグダリーナは思わず声を上げた。
「リーナ?」
ヴェリタスがぽかんとマグダリーナを見つめる。
「レベッカが今言ったことは、いまの国民のほとんどが思ってることだと思うの。まずそこを、早急に解決しなくちゃいけないのよ!」
さらさらとメモを取っていくマグダリーナを、ライアンとレベッカが不思議そうに見ている。
「あっ大変、午後の授業が始まっちゃう。ヴェリタス、今日はすぐに領に帰りましょう」
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