ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
59 / 285
三章 女神教

59. ハラとササミのおねだり

しおりを挟む


 ショウネシー邸のサロンに皆んなを集めて、マグダリーナとヴェリタスは今日のお昼にあったことを話した。

「そもそも女神教の布教が上手く行ってないのは、人員が足りないからなのよ。今までいた教会員の代わりを揃えて育てるのに時間がかかって、そこが教会やエルロンド国につけ込まれる隙になっていてよ」

 難しげにシャロンが言った。

 今日はニレルとエデンは居ない。エステラの杖作りの為に数日不在にしているそうだ。
 代わりにイラナとアーベルが居る。

 因みに領地と直接関係ないので、ハンフリーとグレイは通常業務をしてもらっているため、居ない。

 珍しくエステラはササミ(メス)を抱えて、ハンフリーのようにもちりながら座っていた。

 アンソニーが手を上げた。

「あの、僕もお姉さまも、エルロンド王国については、書物も少なく、他国と交流しないエルフ族の国としか知らないのですが、過去に何処かの国と戦争したとかあったんですか?」
「多分、私が生きてる間はありませんでしたね……」

 イラナが答える。彼はニレルの次に長生きだそうだ。

「じゃあなぜ今更……?」

 マグダリーナの呟きに、エステラが答える。

「エルロンド王国のエルフは女神教がすごく嫌いなのよ」
「できたばかりなのに、なんでそこまで?!」

「ウシュ帝国滅亡後、人々はそれぞれの国や集団で、それぞれのやり方でエルフェーラを女神として信仰して来ました。
それを統一したやり方で信仰を広めたのが聖エルフェーラ教ですが、その教皇は代々エルフなのですよ」

 イラナの言葉に、大人達は驚きをみせた。

「エルロンド王国が他国と交流なくても成り立っているのは、教国の資金が流れているからですね……でないとあのような国、とても維持できないでしょう」

 イラナが悲しげに睫毛を震わせる。

「教会の教えでは、エルフ族の乙女エルフェーラが、聖なる力に目覚め、女神となったとされています。エルフ族にとっては、ハイエルフはあってはならぬ存在なのです」
「あの、そしたら……」

 アンソニーが一旦言い淀む。

「エルフは魔力が強く魔法に長けてるのですよね、長距離の攻撃が可能な魔法で攻めてきたりはしないんでしょうか?」
「ないな」
 アーベルがキッパリ言った。

「ないですね」
 イラナも頷く。

「せいぜい隣の国を火の海にするくらいの、飛距離しか出せないわ」
 エステラも頷いた。

「えっと、じゃあ逆に皆さんがここからエルロンド王国に攻撃する事は可能ですか?」

「ここからは流石にやりたくないな、転移して直接攻める」
 アーベルが即答し、イラナが同意した。
「そうですね。転移しますね。ニレル様とエステラ様なら、ここからエルロンド王国を火の海にできるでしょうが」

 全員の視線がエステラに集まった。

「それだけ膨大な魔力と魔力制御力と神秘の力が必要になるということなのよ。それと転移魔法は原初魔法じゃないと使えないから、ウシュ時代の遺物にそういうのが有れば使ってくるかもね。でももし持ってたら、とっくに使ってどこの国にでも攻め入ってるわよ。だから戦争の心配はしなくていいかな」

「ええ、ですが、教会関係者には一刻もはやく、お帰りいただくのがいいでしょう。戦争はしなくても、この国の貴族女性を攫うくらいはするでしょうから」

 ヴェリタスの表情が険しくなった。
「どういう事だ?」

 エステラとイラナが視線を交わす。どちらが話すか迷ったようだが、イラナはエステラが話すのを良しとしなかった。

「彼らの国は貴族か奴隷しか居らず、耳の尖った純血しかエルフ族であると認められません。エルフかそれ以下か、を徹底しています。たまにそれが嫌で国を出るエルフも居ますが、一度出奔すると、二度と国に帰ることは許されません。そしてエルフ族は女性の出生率が低いのです。しかもエルフの女性は寿命も短い。ですので、エルフの女性は大切に扱われます。嫁ぎ先が決まるまで、嫁ぎ先に行っても、一歩も外に出さないよう、大事に大事に仕舞われます。ですが、それだけで種を繋いで行くのは難しい。そうなると、他国から混血が可能な人族の女性を攫ってきます。その中でも特に純血を産む可能性が高い女性を『エルフの花嫁』と呼ぶそうです。花嫁は子を孕むまで囚われ、孕んだ子がハーフで有れば、子は殺されるか流民か奴隷の三択。子を産んだ後の花嫁は、最終的には奴隷にされます」

 ヴェリタスは息を呑んだ。
「……っ、だったら王女は、」
「ええ、どうであれ縁談を受けたら最終的には奴隷とされるでしょう」

 ゾッとする話しだ。あの優美なドロシー王女が本当にエルロンド王国に輿入れすることになったら、マグダリーナは一生重いものを心に抱えてしまう気がした。


「セドさんも流石に頭を抱えてそうよね」

 エステラの呟きに、ダーモットがぴくりと肩を揺らす。

 ハラが珍しくエステラにおねだりした。

「ハラ、バーナード悲しませたくないの」
『うむ、我の弟子でもあるしな』

 ササミ(メス)もクチバシをエステラに擦り付ける。

 バーナードは意外と人望ならぬ魔獣望があったようだ。ハンフリータイプか?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...