ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
113 / 285
六章 金の神殿

113. 王宮でのダンス

しおりを挟む
 女神の奇跡の花の採取が終わると、マグダリーナ達は王宮に向かった。

 アンソニーが採取したうちの一瓶はグレイ一家と居残り組のシャロンの使用人で分けて、もう一瓶はケーレブに持たせた。
 そしてもう一瓶は、マゴーに王都のカルバン達に渡して貰い、残った一瓶は素材として使う。

 マグダリーナの四瓶は全て王家に献上する分だ。
 セドリック王が、後は何とかするだろう。

 そして小瓶に少量取り分けたものを、アンソニーはライアンに「ライアン兄さんのパートナーの方に」と持たせた。
 流石出来た弟である。



◇◇◇



くまぁっ くまぁっ

「ごめんね、ナード。パーティーにはスライムより大きい従魔は連れていけないの。それに人が沢山いるから、迷子になったら困るでしょう? ケーレブやマゴー達の言う事をよく聞いて、良い子で待っててね」

 レベッカは置いてかれたくないナードを、抱っこしてあやしながら、その額にキスをする。
 ナードは渋々納得して、ケーレブのズボンの裾を握って、レベッカを見送った。


「すっかり甘えん坊ね」
「いいの、そこが可愛いんですもの」

 マグダリーナとレベッカはおしゃべりしながら、コッコ車を降りる。
 二人がお互いに服装チェックしている間に、ライアンはパートナーのミネットを待たせているので、一足先に会場に向かい、入場していた。

 ダーモットがマグダリーナを、ハンフリーがレベッカをエスコートして、ショウネシー家は会場へ向かった。


 既に宴もたけなわで、ダンスや談笑に忙しく、遅れてやって来たもの達に特別な注意を払うものは居ない。気楽に入場する。
 ライアンとも合流して王に挨拶へ。

 ミネットは先に家族と合流して、王に挨拶を済ませていた。


「ダーモット・ショウネシー伯爵、今年もすっぽかさずに来てくれて、嬉しく思うぞ」
 セドリック王は開口一番、そう言って、ニヤリと笑った。

「新たな年も、王族の皆様に女神の加護がありますように」

 家長であるダーモットの言葉に、家族揃って一礼をする。

「娘も学園に通い、家族も増えましたので、真面目に家長の義務を果たさないとと思いましてね」

 顔を上げたダーモットは、そう言ってさっさと下がろうとするので、マグダリーナは慌てて王の御付きの人に、「我が領の縁起物です」と女神の奇跡の花を入れた瓶が入った籠を渡す。

「マグダリーナ、大義であった。楽しんで行くが良い」

 セドリックに声をかけられて、マグダリーナは綺麗な淑女の礼をして、御前を退出した。


 会場で飲み物を手にして一息つくと、早速ダーモットが見事な壁の空気になった。

 ハンフリーもそれに習って空気になろうとするのを、マグダリーナとレベッカがそれぞれの手を取って捕獲した。

「だめよ、ハンフリーさん、ちゃんとお嫁さん探さなきゃ」
「私が学園を卒業するまで、待って下さっても勿論構いませんわ。でも多少場馴れする必要はあると思いますの」
「いや、しかし……」

「マグダリーナ、レベッカ、楽しんでいて?」

 ふいにアグネス第二王女から声がかかり、マグダリーナはしまったと思った。
 流石に身内とは言え、男性一人に少女が両脇を押さえている姿はよろしくなくて、やんわり教育的指導が入ったと思ったのだ。

 しかしマグダリーナもレベッカも、ハンフリーの腕を取ったまま、揃ってアグネス王女に挨拶した。

「「新たな年もアグネス第二王女様に、女神の祝福がありますように」」

「ふふ、ありがとう。そちらの男性はショウネシー伯爵の従兄弟のハンフリー・ショウネシー男爵ね。お会いできて光栄だわ」

 流石にマグダリーナもレベッカもハンフリーから手を離した。そのままだとハンフリーがアグネスに礼をできないからだ。

「私も花のようなアグネス第二王女にお目にかかれて光栄です。女神の祝福の多からんことを」
「ハンフリー卿、よろしければ、私の姉上をダンスに誘ってくださらない? お姉様もマグダリーナのお身内の方でしたら構いませんでしょう?」
「ええ……そうね……」

 アグネス王女の後ろにドロシー王女も居たのだが、気配が薄くて気が付かなかったことに、驚いた。

「色々あって、お姉様はこの数日元気がないのよ。ハンフリー卿でしたらショウネシー領の事ばかり考えていらっしゃるから、お姉様も気が楽にダンスが出来ると思うのよ」

 美しく気品に溢れた第一王女だったが、確かに元気がない。

「少しでも、お心の慰めになるのなら……」

 ハンフリーは跪き、ドロシー王女にダンスを申し込んだ。


 マグダリーナもレベッカも練習に付き合って貰っているので知っている。ハンフリーはダンスが上手かった。

 身体を動かして血色の良い肌色を取り戻し、微笑んでドロシー王女はダンスの楽しさを堪能している。

「良かった。楽しそうだわお姉様」
「アグネス様は踊りませんの?」
「私はお姉様が浮かない顔をして、大人しかった分も、ダンスに誘われて踊ったの。もう休憩よ」

 ドロシー王女に何があったのか、聞いて良いものか悩んでいると、マグダリーナに声をかけるものがいた。


「マグダリーナ・ショウネシー子爵、私と一曲踊っていただけませんか」
「エリック王太子殿下!」

 王妃様によく似た美しい顔立ちの、桃色髪の王子がマグダリーナに手を差し出した。

 これは断れないやつだわ……覚悟を決めて、マグダリーナはエリックの手を取った。


 ハンフリーとドロシーの隣で、マグダリーナとエリックも踊る。

 ショウネシー家から二人も王族と踊っているので、自然と注目を集めてしまう。


 エリックのリードは優しく、そしてとても踊りやすかった。

「ダンスがとてもお上手なんですね」
「それは貴女も同じだ、マグダリーナ嬢。可憐で儚げなのに、こうやって踊っていると、とてもしなやかで強いのがわかるよ」

 その時、宮廷魔法師が風の魔法を使って、マグダリーナが持参した女神の奇跡の花を、会場中に振り撒いた。

 美しいく淡く輝く花の舞う中のダンスは、マグダリーナを夢心地にさせた。
 曲が終わり、エリックと離れた途端に、寂しさを感じるくらいには……



◇◇◇



 その頃のショウネシー領では、ハンフリーの代わりにアンソニーが新年の挨拶をして、焼肉バーベキューパーティーが始まっていた。

 ゼラが上機嫌で各バーベキューコンロに火を灯し、どの肉も去年より美味しく焼けた。

 食べて談笑し、ビンゴで手土産を持った領民達は、新年の初日を楽しんで帰った。

 その中でもサトウマンドラゴラを育てていた農夫達は、彼らが出荷されるサトウマンドラゴラにそうされたように、世話役のマゴー達に労いの言葉をかけて帰って行く。


 そして夜、ショウネシー領のある家で、ハンカチに集めた女神の奇跡の花を見つめている者がいた。

 ブレア・バークレーだ。

 彼はそっと虫籠の中に花を入れてみたが、カエルはカエルのままだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...