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七章 腹黒妖精熊事件
147. アルミラージは求愛して即失恋した
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最後の材料だったアルミラージの角は、確かにやってきた。
アルミラージ本体と、罪人と、くたくたになった第二王子を連れてだ。
ぶっぶ ぶっぶー
「ぶ?」
聞き慣れない音に、近くの木に登って周囲を警戒していたライアンが、音の方角を見る。
黒い角を持った大型の黄金色の兎のような魔獣が、跳ぶように駆けてきた。
その角に必死にしがみついてるバーナードに気付き、同じく下から見張り役をしているヴェリタスに合図する。
既にバーナードが連れたマゴーから、こちらにアルミラージがやってくることは連絡を受けていた。
アルミラージと正面切って戦うのは、同じ竜種であるコッコカトリスのササミ(メス)の役目だ。
ハイドラゴンであるゼラだと、力の差が大きすぎて、大事な角まで消滅させる危険がある。
有事の際に世界を終わらせる使命を持つハイドラゴンの力は、基本、破壊特化型であるので。
ヴェリタスとライアンの役目は、ササミ(メス)の援護だった。
『ふっ、来るがいい。アルミラージかなんか知らんが、このディンギルコッコカトリスの我の敵ではな……なんじゃあいつら、熊より凶暴な御面相ではないか!!!』
エステラの元で可愛いかったり美しかったりするものに見慣れたササミ(メス)は、面食らった。
アルミラージ達は顔こそは兎だったが、その窄まっお口をかぱっと開くと、表面の皮より前に、鋭い牙が細かく並んだ歯と歯茎をご立派に剥き出してきた。
もしエステラが見ていたら、ミツクリザメのようだと喜んでいたところだ。
「オス形態になった方がいいんじゃね?」
ササミ(メス)の後ろでヴェリタスが言う。体格で差があるのは不利だし。
『我らは環境に気を配れる、貴重且つ素晴らしい種族故、これ以上の森林破壊は望まぬ』
ばっきばっさと硬い鱗のある尾っぽで、樹木を薙ぎ倒しながら進んでくるアルミラージを、ササミ(メス)は完全に見下していた。
油断して蹴り飛ばされてくれるなよとヴェリタスは思う。
脳内にぴよーんと飛ばされていく、まんまるボディのササミ(メス)の映像が見えた気がした。
ギリギリまでアルミラージが近づいたところで、樹上のライアンが素早く弓を射て、二匹のアルミラージを足止めした。
ライアンはそのままバーナードに声をかけようとして、やめた。意識があるのかどうか……もしあっても到底素早く動ける状態ではないと判断したからだ。
ライアンはバーナードにしがみついてるマゴーに指示した。
「マゴー! バーナード王子を連れて、リーナ達のところまで転移だ!!」
指示通りマゴーはバーナードを連れて転移した。
もう一匹のアルミラージに乗っていたドミニクは放置された。
「おいっ、待ってくれよ」
転移魔法の使えないドミニクは、風魔法を使って素早くヴェリタスのところまで移動した。
「叔父上……」
苦虫を噛み潰したような表情のヴェリタスに、ドミニクはキヒヒと笑いかけた。
◇◇◇
元はハイエルフの金の神殿だった、ディオンヌ商会の「金と星の魔法工房」の一室。
そこで眠っているエステラを、じっと見つめるものがいた。
金の光に包まれたそれ、は、やがてエステラの額にそっと触れる。
側にいたスラゴー達は、時が止まったように動かない。お添い寝役のモモもだ。
ヒラだけが、モゾモゾと夏用の掛け布から顔を出した。
そして、可愛いらしいお目々でキュッとそれを睨んだ。
それ、が以前、エステラの身体をハイエルフに造り変え、高熱で苦しませたことを思い出して。
「タラをぉ、苦しませちゃダメぇぇ!!」
ヒラはエステラに触れている、それの腕に体当たりしようとした。
しかし、ヒラのぷるっとスライムボディは、すかっとその腕を通り抜けた。
金の光は承知していると言いたげに頷き、ヒラを拾い上げると、ヒラに癒しの魔法を施しながら、その中に直接言葉を送りこんだ。
――小サキものヨ 女神ノ加護ガアルトハイエ、無茶ヲシテハイケナイ――
ニレルの捨てた、大いなる力……ニレルの半身。
それはニレルがこの金の神殿で、己の力と向き合うようになると、形の無い力の渦のような状態から徐々に人型のような光となって、言葉を操りはじめていた。
今ここに居るのは、その半身の更に一雫だけ……そっと封印の間を抜け出してきたものだった。
――ちからノ加減ヲ覚エタ。心配イラナイ――
エステラの顔色がみるみる良くなり、ヒラは安堵した。
◇◇◇
コッコェェェ!!!!
ササミ(メス)は悲鳴を上げた。
ぶっぶ――――
ぶっぶぶー
ぶっぶっ
ぶっぶっ
二匹のアルミラージは、後ろ足だけで立ち上がって前足をゆらゆらぶらぶら振ったり、方向を変えたりしながら、ササミ(メス)の周りをぐるぐる周りはじめる。
「こいつぁ、求愛のダンスじゃねぇか」
驚くドミニクの言葉に、ヴェリタスも動揺する。
「はぁ?? コッコカトリスとアルミラージってありなのか?」
「さてなぁ、前例は無かったはずだぜ。だが目の前の現実は受け止めよう」
『我は受け止めぬぞォォォォ!!!』
ササミ(メス)の周りを周りながら、アルミラージのダンスは振っていた前足を広げ、腰振りへと盛り上がっていく。
横にふりふりした後に左右交互に円を描き、また横に振ると、今度は前後の動きに変わってササミ(メス)への距離をじりじり詰めてくる。
『やめろ!丸出しにしたまま寄って来るでなぁぁい!!!!』
ぶっぶー
ぶっぶっー
ぶっぶっー
アルミラージ達はいつでも交尾の準備が整ってますよとばかりに、普段は引っ込んでいる、股間のご立派様な生殖器官を露わにしていた。
アルミラージの下半身は竜の鱗に覆われているのに、腹部だけはふかふかの毛のままだ。
「ああして弱点である鱗のない腹部を晒すんで、アルミラージの求愛は命がけなんだ。オスが気に入らなかったメスは、角であの腹を一突きだからな」
一応この中で一番アルミラージの生態に詳しいドミニクが説明する。
「で、コッコカトリス的にはどうなん?」
キヒヒと笑いながら、ドミニクはササミ(メス)に聞く。
『却下である!!!!』
コッフ――――!!!とササミ(メス)は、森林破壊しないと言った手前、上空に向かって怒りのブレスをぶちまけた。
火焔の螺旋を纏ったレーザー砲のような、ササミ(メス)のドラゴンブレスは、細く長く空に伸び、消えてゆく。
攻撃を受ければ、即死間違いないだろう。
運悪く射程範囲内にいた飛行型魔獣が、時間差で落下してきた。
一片のくすみも無い、純度の高い真紅の魔力を纏うササミ(メス)に、アルミラージ達は、ぶっ! と鳴いて軽く跳ねた。
アルミラージ達は愛くるしい見た目の求愛相手が、とんでもない相手だったと気づいたようで、さっと身体を丸め腹を隠し、ぶぶぶぶと鼻息も急加速し、ぷるぷると震えながら、ササミ(メス)に向かって頭を垂れた。
そしてその黒い角が、ポロリと抜け落ちる。
「失恋のショックで角が抜けたな」
ドミニクが呟くと、ライアンは樹上から飛び降りて、素早くドミニクに回し蹴りをお見舞いした。
丁度いいところに入って倒れ、ドミニクが意識を手放したのを確認すると、ライアンは呆然としているヴェリタスに声をかける。
「ヴェリタス、角を早く収納に仕舞って、先に行け!」
「お……おう……」
ヴェリタスがチャーと転移魔法で去ったのを確認すると、ライアンは腰のベルトにつけてある収納鞄から、ドラゴンが引っ張っても千切れない縄を取り出して、逃げられないよう丁寧にドミニクを縛りあげた。
マゴーから伝授された、捕縄術を使って。
「ササミ、このアルミラージ達はどうする?」
『うむ、とりあえず連れて帰るか。ハラとヒラが来るまでは新鮮な状態にしておきたいのだ。我に縄を寄越すが良い』
つまり解体の匠たる二匹のスライム、ヒラとハラに味を落とさぬよう解体して貰うことができるまで生かしておくと言うことだ。
ライアンが収納から予備の縄を出してササミ(メス)に渡すと、ササミ(メス)は器用にアルミラージ達を縛り上げていった。
アルミラージ本体と、罪人と、くたくたになった第二王子を連れてだ。
ぶっぶ ぶっぶー
「ぶ?」
聞き慣れない音に、近くの木に登って周囲を警戒していたライアンが、音の方角を見る。
黒い角を持った大型の黄金色の兎のような魔獣が、跳ぶように駆けてきた。
その角に必死にしがみついてるバーナードに気付き、同じく下から見張り役をしているヴェリタスに合図する。
既にバーナードが連れたマゴーから、こちらにアルミラージがやってくることは連絡を受けていた。
アルミラージと正面切って戦うのは、同じ竜種であるコッコカトリスのササミ(メス)の役目だ。
ハイドラゴンであるゼラだと、力の差が大きすぎて、大事な角まで消滅させる危険がある。
有事の際に世界を終わらせる使命を持つハイドラゴンの力は、基本、破壊特化型であるので。
ヴェリタスとライアンの役目は、ササミ(メス)の援護だった。
『ふっ、来るがいい。アルミラージかなんか知らんが、このディンギルコッコカトリスの我の敵ではな……なんじゃあいつら、熊より凶暴な御面相ではないか!!!』
エステラの元で可愛いかったり美しかったりするものに見慣れたササミ(メス)は、面食らった。
アルミラージ達は顔こそは兎だったが、その窄まっお口をかぱっと開くと、表面の皮より前に、鋭い牙が細かく並んだ歯と歯茎をご立派に剥き出してきた。
もしエステラが見ていたら、ミツクリザメのようだと喜んでいたところだ。
「オス形態になった方がいいんじゃね?」
ササミ(メス)の後ろでヴェリタスが言う。体格で差があるのは不利だし。
『我らは環境に気を配れる、貴重且つ素晴らしい種族故、これ以上の森林破壊は望まぬ』
ばっきばっさと硬い鱗のある尾っぽで、樹木を薙ぎ倒しながら進んでくるアルミラージを、ササミ(メス)は完全に見下していた。
油断して蹴り飛ばされてくれるなよとヴェリタスは思う。
脳内にぴよーんと飛ばされていく、まんまるボディのササミ(メス)の映像が見えた気がした。
ギリギリまでアルミラージが近づいたところで、樹上のライアンが素早く弓を射て、二匹のアルミラージを足止めした。
ライアンはそのままバーナードに声をかけようとして、やめた。意識があるのかどうか……もしあっても到底素早く動ける状態ではないと判断したからだ。
ライアンはバーナードにしがみついてるマゴーに指示した。
「マゴー! バーナード王子を連れて、リーナ達のところまで転移だ!!」
指示通りマゴーはバーナードを連れて転移した。
もう一匹のアルミラージに乗っていたドミニクは放置された。
「おいっ、待ってくれよ」
転移魔法の使えないドミニクは、風魔法を使って素早くヴェリタスのところまで移動した。
「叔父上……」
苦虫を噛み潰したような表情のヴェリタスに、ドミニクはキヒヒと笑いかけた。
◇◇◇
元はハイエルフの金の神殿だった、ディオンヌ商会の「金と星の魔法工房」の一室。
そこで眠っているエステラを、じっと見つめるものがいた。
金の光に包まれたそれ、は、やがてエステラの額にそっと触れる。
側にいたスラゴー達は、時が止まったように動かない。お添い寝役のモモもだ。
ヒラだけが、モゾモゾと夏用の掛け布から顔を出した。
そして、可愛いらしいお目々でキュッとそれを睨んだ。
それ、が以前、エステラの身体をハイエルフに造り変え、高熱で苦しませたことを思い出して。
「タラをぉ、苦しませちゃダメぇぇ!!」
ヒラはエステラに触れている、それの腕に体当たりしようとした。
しかし、ヒラのぷるっとスライムボディは、すかっとその腕を通り抜けた。
金の光は承知していると言いたげに頷き、ヒラを拾い上げると、ヒラに癒しの魔法を施しながら、その中に直接言葉を送りこんだ。
――小サキものヨ 女神ノ加護ガアルトハイエ、無茶ヲシテハイケナイ――
ニレルの捨てた、大いなる力……ニレルの半身。
それはニレルがこの金の神殿で、己の力と向き合うようになると、形の無い力の渦のような状態から徐々に人型のような光となって、言葉を操りはじめていた。
今ここに居るのは、その半身の更に一雫だけ……そっと封印の間を抜け出してきたものだった。
――ちからノ加減ヲ覚エタ。心配イラナイ――
エステラの顔色がみるみる良くなり、ヒラは安堵した。
◇◇◇
コッコェェェ!!!!
ササミ(メス)は悲鳴を上げた。
ぶっぶ――――
ぶっぶぶー
ぶっぶっ
ぶっぶっ
二匹のアルミラージは、後ろ足だけで立ち上がって前足をゆらゆらぶらぶら振ったり、方向を変えたりしながら、ササミ(メス)の周りをぐるぐる周りはじめる。
「こいつぁ、求愛のダンスじゃねぇか」
驚くドミニクの言葉に、ヴェリタスも動揺する。
「はぁ?? コッコカトリスとアルミラージってありなのか?」
「さてなぁ、前例は無かったはずだぜ。だが目の前の現実は受け止めよう」
『我は受け止めぬぞォォォォ!!!』
ササミ(メス)の周りを周りながら、アルミラージのダンスは振っていた前足を広げ、腰振りへと盛り上がっていく。
横にふりふりした後に左右交互に円を描き、また横に振ると、今度は前後の動きに変わってササミ(メス)への距離をじりじり詰めてくる。
『やめろ!丸出しにしたまま寄って来るでなぁぁい!!!!』
ぶっぶー
ぶっぶっー
ぶっぶっー
アルミラージ達はいつでも交尾の準備が整ってますよとばかりに、普段は引っ込んでいる、股間のご立派様な生殖器官を露わにしていた。
アルミラージの下半身は竜の鱗に覆われているのに、腹部だけはふかふかの毛のままだ。
「ああして弱点である鱗のない腹部を晒すんで、アルミラージの求愛は命がけなんだ。オスが気に入らなかったメスは、角であの腹を一突きだからな」
一応この中で一番アルミラージの生態に詳しいドミニクが説明する。
「で、コッコカトリス的にはどうなん?」
キヒヒと笑いながら、ドミニクはササミ(メス)に聞く。
『却下である!!!!』
コッフ――――!!!とササミ(メス)は、森林破壊しないと言った手前、上空に向かって怒りのブレスをぶちまけた。
火焔の螺旋を纏ったレーザー砲のような、ササミ(メス)のドラゴンブレスは、細く長く空に伸び、消えてゆく。
攻撃を受ければ、即死間違いないだろう。
運悪く射程範囲内にいた飛行型魔獣が、時間差で落下してきた。
一片のくすみも無い、純度の高い真紅の魔力を纏うササミ(メス)に、アルミラージ達は、ぶっ! と鳴いて軽く跳ねた。
アルミラージ達は愛くるしい見た目の求愛相手が、とんでもない相手だったと気づいたようで、さっと身体を丸め腹を隠し、ぶぶぶぶと鼻息も急加速し、ぷるぷると震えながら、ササミ(メス)に向かって頭を垂れた。
そしてその黒い角が、ポロリと抜け落ちる。
「失恋のショックで角が抜けたな」
ドミニクが呟くと、ライアンは樹上から飛び降りて、素早くドミニクに回し蹴りをお見舞いした。
丁度いいところに入って倒れ、ドミニクが意識を手放したのを確認すると、ライアンは呆然としているヴェリタスに声をかける。
「ヴェリタス、角を早く収納に仕舞って、先に行け!」
「お……おう……」
ヴェリタスがチャーと転移魔法で去ったのを確認すると、ライアンは腰のベルトにつけてある収納鞄から、ドラゴンが引っ張っても千切れない縄を取り出して、逃げられないよう丁寧にドミニクを縛りあげた。
マゴーから伝授された、捕縄術を使って。
「ササミ、このアルミラージ達はどうする?」
『うむ、とりあえず連れて帰るか。ハラとヒラが来るまでは新鮮な状態にしておきたいのだ。我に縄を寄越すが良い』
つまり解体の匠たる二匹のスライム、ヒラとハラに味を落とさぬよう解体して貰うことができるまで生かしておくと言うことだ。
ライアンが収納から予備の縄を出してササミ(メス)に渡すと、ササミ(メス)は器用にアルミラージ達を縛り上げていった。
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