ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
148 / 285
七章 腹黒妖精熊事件

148. 精霊の襲撃

しおりを挟む
 エステラは元気を取り戻して、ヒラとモモ、そして何故かエステラを気に入って髪や腕に巻き付いている女神の闇花達と一緒に、マグダリーナ達と合流した。

 丁度その頃には、女神の神力の受け渡しが終わり、受け手を担っていたドロシー王女と騎士団長も、エデンの用意した机にうつ伏せになって、意識を失っていた。

「ドロシー姉上……」
 同じく合流を果たしたバーナードは、近くにあったクッションをそっとドロシーの顔の下に忍ばせる。

 バーナードも精魂尽き果てたような顔をしていた。レベッカは、三人に回復魔法をかけ、バーナードに飲み物を渡した。

 マグダリーナは毒で苦しむ討伐隊が、解毒は無理でも少しでも楽なようにと、ととのえるの魔法を数十分ごとにかけていた。
 女神の奇跡が降り立つようになってから、少しだけだが、ととのえるの魔法なら患者に負担なく効き目があるようになったのだ。少しでも彼らの苦痛が和らぐよう、マグダリーナは願った。

 ふとマグダリーナは、視線を感じて振り返る。周囲は各々やるべきことを行なっていて、視線の主らしき者はいない。

 エデンとエステラ、レベッカは解毒剤作りに必要な簡易調薬場……
 うん、どう見ても台所を設置しているし、ニレルは念入りに素材の最終確認をしている。

 ヨナスはドロシーと騎士団長を寝かせる為の新たな緑の結界を二つ作っていた。
 二人を同じ場所に寝かせるわけに行かないので。

 バーナードは休憩用のテーブルで水分補給中で、ゼラとモモはその近くで行李に詰められた妖精熊達を拾った枝でつついている。

 それでもなんだか息苦しくなるような視線を感じる気がして、マグダリーナは微かに身震いした。

「リーナ疲れた? 休憩する?」

 マグダリーナの異変に気づいたエステラが、声を掛ける。

「……そうするわ。思ってるより疲れてるのかも」

 エステラはマグダリーナの肩で寝ている、マグダリーナの腕輪の魔導具に付けた人工精霊……青い小さな小鳥の姿をしたエアの首をちょこちょこ掻いた。

「やっぱりエアも元気ないし、多分リーナかなり疲労してると思う。こっちも準備は終わったし、ササミ達がアルミラージの角を持ってくるまで、休憩しましょ」

 エステラはマグダリーナの手を取って、バーナードが休んでいるテーブルに向かった。その手の温もりは、マグダリーナをとても安心させた。


 ヴェリタスとチャーが戻って、とうとう最後の素材、アルミラージの角二本が揃った。

「はい、これ」
 エステラは、ニレルに自身の杖を渡した。

「ニィの杖はまだ素材を厳選してるところだからね! 今回はこれを使って」

 ニレルは、ふ、と微笑んでエステラから杖を受け取った。
「この杖を使うなら、万が一にも失敗はないだろう」

 解毒剤の素材を浄化し、細かく切ったりすりつぶしたりと、各々手分けして作業を始める。

 難しい素材はニレルとエステラが錬金術を使って処理しはじめた。

 マグダリーナは錬金術を使う所を初めて見る。

 エステラとニレルの目の前に、薄い膜で隔てられた空間があった。あの空間が《錬成空間》とエステラ達が呼んでいる、不思議な魔法の作業場なのだろう。

 エステラの錬成空間は、素材量に合わせてとにかく大きく、更に内部が部屋のように仕切りで分けられていた。

 そこで大量の妖精キノコと数種類の薬香草が、それぞれの部屋で細かく刻まれたり蒸気で蒸されたりしている。
 そうして取り出されたエキスが、一番下の空間で数滴ずつゆっくり加えられながら撹拌されていた。

 ニレルの錬成空間では女神の光花と闇花が光りながらぐるぐる回っている。
 その空間と管で繋いだもう一つの空間では、風霊の緑柱玉が息をするように瞬きを放っていた。

 アルミラージの角をはじめとする硬い素材は、ゼラが粉末にしてから、ヒラとモモが混ざらないように素材別の容器に入れていく。

 お馴染みのサトウマンドラゴラの葉を煮詰めるのはレベッカの役目だ。
 ただし、それに使う火は浄化の炎でなくてはいけなく、マグダリーナは浄火魔法でレベッカのかき混ぜる鍋を熱していた。

 ――マグダリーナはまた視線を感じた。

 なんだか嫌な予感がする……そう思った瞬間、マグダリーナの手の先の浄化の炎が消えた。

 その時、エステラが慌てた声を上げた。

「ヒラ! こっちを代わってちょうだい!!」
「わかったぁ」

 急いでヒラはエステラの錬成空間を引き継いだ。

 ざわ、ざわ、と、空気が騒めいているのを感じた。

「エデン、ヨナス、精霊が協力してくれない! 気をつけて!」

 エステラの掛け声に、エデンも何か感じとったのか、咄嗟にヴェリタスとバーナードを緑の結界を強化しているヨナスの所に転移させる。

 エデンはチッと舌打ちをした。

「上位精霊を操っているイケナイヤツがいるな」
「それは……」

 そんな事ができるのは、ハイエルフくらいなのでは、とマグダリーナは思いつつも言葉を飲みこんだ。
 いつでもショウネシーの為に協力してくれるハイエルフ達の中に、こんな事をする人が居るとは思えない。

 調薬場を結界で包んでいたエステラが、何かに気づいたように、咄嗟に上空を見上げた。

「タラ!!」
 同じ何かに気づいたエデンは、エステラの仮の名を叫んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

処理中です...