181 / 285
九章 噂と理不尽
181. ソイヤァァァ
しおりを挟む
黄と緑にいたのが、ライアンとヴェリタスだとわかり、青の陣地にいた生徒達は茫然とした。
先程から魔法兵の攻撃を巧に躱し、砦を周回しているのが、消去法で家政科の女生徒レベッカだとわかったからだ。
魔獣が動かなくなった時点で、青月夜の狼は団旗の周囲に魔法兵を配置した。その甲斐あってか、桃スラの団員は攻撃を躱すものの攻撃してくることは無く、団旗を守る魔法兵の周囲を旋回するばかりだった。
レベッカは敵が茫然としている隙に、ウイングボードから飛び降りて、素早く青の団旗を奪った。そしてまたウイングボードに飛び乗る。
「あっ」
「ちょっと、卑怯だわ。降りていらっしゃいよ!!!」
相手が女生徒なら、男子生徒は手出ししにくいだろうと、騎士科と魔法科の女生徒が集まってくる。
彼女達は遠慮なくレベッカに攻撃していくが、レベッカはウイングボードを巧みに扱って攻撃を避ける。
そして、ライアンと同じように奪った団旗の棒の部分を使って、突きを与えつつ飾り布を絡めて掬い取っていった。
簡単そうに見えるが、なかなか難しく、ヴェリタスは早々に諦めたやり方だ。
近くの観戦席の窓から団扇が振られているのを見て、レベッカは団旗に絡んだ飾り布を自分の身体に掛けると、団旗をバトントワリングのように華麗に回わしてヘルメットを取る。
そして微笑んで手を振った。
可憐な美少女の姿に、一際大きな歓声が上がる。
「通信。3号機から本機へ」
「本機応答可能」
「青の団旗奪取とファンサ完了。これから一騎討ちに入りますわ」
「了解」
通信を受け取って、マグダリーナは深呼吸した。青の陣地付近から、一気に地形が複雑化する。正直、このまま進むのは面倒だった。
◇◇◇
ヘルメットを被り直して、レベッカはハイエルフの教えその一、――集団相手ではまず頭を潰す――を実践することにする。
「一騎討ちを申し込みますの。団長様はいらして?」
レベッカの言葉に、青狼団はざわついた。
中等部に上がったばかりの女生徒が、領地戦に慣れた高等部の団長と一騎討ちなど、身の程知らずにも程がある。特に青月夜の狼は、毎年一位争いに食い込む強豪団なのだ。
「すでに我が団の団旗と、団員の飾り布を奪っておきながら、何の為に一騎討ちを申し込むんだ」
立派な鎧を着込んだ、騎士科の男子生徒が現れる。周囲の団員達の様子からして、彼が団長なのだろう。
レベッカはもう一つのハイエルフの教えを実行した。
ウイングボードから降りて、小さな拳を砦の床に打ち付ける。
教えその二、――圧倒的な力の差を見せつける――だ。
石造りの床にぼこりと大きな穴が空く。
「私の目的は、徹底的な戦意喪失ですわ」
「そうか……」
青狼の団長は穴の空いた床を見て、目を瞑る。
「参りました」
団長はそのまま己の飾り布を差し出した。
(俺出番ないじゃん)
青の陣地に向かっていたヴェリタスは、苦笑いした。
◇◇◇
モモ・シャリオ号を走らせるマグダリーナの瞳に、とうとう団扇が目に入る。
「リーナ」「だいすき!!」
その二つの応援団扇を、エステラが満面の笑みで振っていた。
マグダリーナは覚悟を決めて叫んだ。
「ソイヤァァァ!!!!」
モモ・シャリオ号の前輪が、バウンドした後、勢いよく上がった。
ソイヤァ! ソイヤァ……ソイヤァ……ソイヤァッ!!……ソイヤ……ソイ
車内では、マグダリーナのソイヤに合わせて、ハイエルフ六人の男性の声でソイヤがこだまする。
艶のある大人の美声から始まり、年齢順にソイヤしていく。最後は無感情のソイで終わった。
(エステラ、なんでこんな機能つけたの?! あとルシンは真面目に最後まで言って!!)
まあでも、最後までソイヤされても困るのだが。
震える腹筋に力を入れて、マグダリーナは再度叫んだ。
「ソイヤァァァ!!!!」
ソイヤァ! ソイヤァ……ソイヤァ……ソイヤァッ!!……ソイヤ……ソイ
土壁が、赤熊の砦に向けて一直線に伸びる。
ウイリーしたモモ・シャリオ号は壁に接地して、壁面を一気に走り抜けた。
赤炎の熊の砦まで。
全ての視線が、壁面走行するモモ・シャリオ号に集まる。
緊張で震える手でハンドルを握り締め、マグダリーナは赤熊の砦前で土壁の魔法を消すと、モモ・シャリオ号をジャンプさせる。
ウインドウを開けて身を乗り出すと、赤の団旗を掴み、腕輪の魔導具を使って団旗を固定させている縄を切り裂き、抜き取った。
そのまま着地はしない。サイドに現れたパーツに団旗を固定して、マグダリーナは命令を指示すると、運転席にきちんと座り直す。
「コマンド/ウイング!」
モモ・シャリオ号の両脇から羽根が現れ、桜色の車体は飛翔した――
その時、マグダリーナは、何かが割れる音を聞いた。
パリン パリ パリン
空がひび割れ、透明なガラスのように溢れ落ちて、溶けて消えて行く。
魔導具の結界が壊れたのだ。
先程から魔法兵の攻撃を巧に躱し、砦を周回しているのが、消去法で家政科の女生徒レベッカだとわかったからだ。
魔獣が動かなくなった時点で、青月夜の狼は団旗の周囲に魔法兵を配置した。その甲斐あってか、桃スラの団員は攻撃を躱すものの攻撃してくることは無く、団旗を守る魔法兵の周囲を旋回するばかりだった。
レベッカは敵が茫然としている隙に、ウイングボードから飛び降りて、素早く青の団旗を奪った。そしてまたウイングボードに飛び乗る。
「あっ」
「ちょっと、卑怯だわ。降りていらっしゃいよ!!!」
相手が女生徒なら、男子生徒は手出ししにくいだろうと、騎士科と魔法科の女生徒が集まってくる。
彼女達は遠慮なくレベッカに攻撃していくが、レベッカはウイングボードを巧みに扱って攻撃を避ける。
そして、ライアンと同じように奪った団旗の棒の部分を使って、突きを与えつつ飾り布を絡めて掬い取っていった。
簡単そうに見えるが、なかなか難しく、ヴェリタスは早々に諦めたやり方だ。
近くの観戦席の窓から団扇が振られているのを見て、レベッカは団旗に絡んだ飾り布を自分の身体に掛けると、団旗をバトントワリングのように華麗に回わしてヘルメットを取る。
そして微笑んで手を振った。
可憐な美少女の姿に、一際大きな歓声が上がる。
「通信。3号機から本機へ」
「本機応答可能」
「青の団旗奪取とファンサ完了。これから一騎討ちに入りますわ」
「了解」
通信を受け取って、マグダリーナは深呼吸した。青の陣地付近から、一気に地形が複雑化する。正直、このまま進むのは面倒だった。
◇◇◇
ヘルメットを被り直して、レベッカはハイエルフの教えその一、――集団相手ではまず頭を潰す――を実践することにする。
「一騎討ちを申し込みますの。団長様はいらして?」
レベッカの言葉に、青狼団はざわついた。
中等部に上がったばかりの女生徒が、領地戦に慣れた高等部の団長と一騎討ちなど、身の程知らずにも程がある。特に青月夜の狼は、毎年一位争いに食い込む強豪団なのだ。
「すでに我が団の団旗と、団員の飾り布を奪っておきながら、何の為に一騎討ちを申し込むんだ」
立派な鎧を着込んだ、騎士科の男子生徒が現れる。周囲の団員達の様子からして、彼が団長なのだろう。
レベッカはもう一つのハイエルフの教えを実行した。
ウイングボードから降りて、小さな拳を砦の床に打ち付ける。
教えその二、――圧倒的な力の差を見せつける――だ。
石造りの床にぼこりと大きな穴が空く。
「私の目的は、徹底的な戦意喪失ですわ」
「そうか……」
青狼の団長は穴の空いた床を見て、目を瞑る。
「参りました」
団長はそのまま己の飾り布を差し出した。
(俺出番ないじゃん)
青の陣地に向かっていたヴェリタスは、苦笑いした。
◇◇◇
モモ・シャリオ号を走らせるマグダリーナの瞳に、とうとう団扇が目に入る。
「リーナ」「だいすき!!」
その二つの応援団扇を、エステラが満面の笑みで振っていた。
マグダリーナは覚悟を決めて叫んだ。
「ソイヤァァァ!!!!」
モモ・シャリオ号の前輪が、バウンドした後、勢いよく上がった。
ソイヤァ! ソイヤァ……ソイヤァ……ソイヤァッ!!……ソイヤ……ソイ
車内では、マグダリーナのソイヤに合わせて、ハイエルフ六人の男性の声でソイヤがこだまする。
艶のある大人の美声から始まり、年齢順にソイヤしていく。最後は無感情のソイで終わった。
(エステラ、なんでこんな機能つけたの?! あとルシンは真面目に最後まで言って!!)
まあでも、最後までソイヤされても困るのだが。
震える腹筋に力を入れて、マグダリーナは再度叫んだ。
「ソイヤァァァ!!!!」
ソイヤァ! ソイヤァ……ソイヤァ……ソイヤァッ!!……ソイヤ……ソイ
土壁が、赤熊の砦に向けて一直線に伸びる。
ウイリーしたモモ・シャリオ号は壁に接地して、壁面を一気に走り抜けた。
赤炎の熊の砦まで。
全ての視線が、壁面走行するモモ・シャリオ号に集まる。
緊張で震える手でハンドルを握り締め、マグダリーナは赤熊の砦前で土壁の魔法を消すと、モモ・シャリオ号をジャンプさせる。
ウインドウを開けて身を乗り出すと、赤の団旗を掴み、腕輪の魔導具を使って団旗を固定させている縄を切り裂き、抜き取った。
そのまま着地はしない。サイドに現れたパーツに団旗を固定して、マグダリーナは命令を指示すると、運転席にきちんと座り直す。
「コマンド/ウイング!」
モモ・シャリオ号の両脇から羽根が現れ、桜色の車体は飛翔した――
その時、マグダリーナは、何かが割れる音を聞いた。
パリン パリ パリン
空がひび割れ、透明なガラスのように溢れ落ちて、溶けて消えて行く。
魔導具の結界が壊れたのだ。
143
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる