ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
205 / 285
十章 マグダリーナとエリック

205. ハイエルフの入場

しおりを挟む
 今回、ハイエルフ達の衣装は、エデンとイラナ以外は、新年の儀式のように白で統一され、帯だけが金彩が入っている。エデンだけが黒衣だった。
 そんな中、ヴェールを被った二人……イラナが新緑、シャロンがローズピンクの衣装で、婚礼衣装の様にも見えた。

 そして皆一様に、大きな……とても大きな卵型の真珠を連ねた首飾りをしている。

 目立つ。

 言うなれば民族衣装を纏った、暴力的に美しい存在を連れて入場しなければいけないのだ。マグダリーナの居た堪れなさを理解してくれるのは、僅かに頬を染めているシャロン伯母様だけだろう。

「マグダリーナ・ショウネシー子爵とハイエルフ、ルシン様ご入場」

 視線が一斉にマグダリーナとルシンに集まった。

 ルシンは緊張するマグダリーナの鼻を軽く摘んで、視線ではやく歩けと催促した。

(こ……っ、こんな大勢の人の前で、鼻を摘むなんて……!!)

 怒りのパワーで無事入場を果たし、ダーモット達と合流する。

 ふと周囲の空気がおかしいことに気づき、振り返ると、シャロン伯母様がイラナに横抱き……所謂お姫様抱っこをされながら、入場してきた。

 前代未聞である。

 美女が美女を抱いてやってきたとしか見えない風景に、王弟殿下の瞳が一際輝いてるのをマグダリーナは見てしまい、そっと目を逸らすと、逸らした視線の先ではオーズリー公爵が情熱の炎を滾らせて王弟殿下を見ていたので、マグダリーナは入り口に視線を戻した。

 安定のアーベルとデボラの美男美女カップルが入場してきてホッとする。
 戸惑うデボラを、アーベルがうまくエスコートしているようだ。

 だが、あの二人は付き合ってない。

 そして最後にエステラが、スンとした表情で両脇に男二人侍らせて入場して来た。

 ニレルとエデンだ。

 こちらも前代未聞で、三人の関係に皆興味津々なだけでなく、女神教の動画を見た者達から、ぽつりぽつりと「エデン様……」という単語が漏れてくる。

 エデンが王座に近づくと、他のハイエルフ達もそれに続く。マグダリーナも挨拶がまだだったので、便乗する。

「我らが善き隣人よ。ショウネシーより、よくぞ参ってくれた」
 セドリック王が笑顔で声をかける。
「ご招待感謝する。セドリック王よ。そして次代の王の成人を、心からお祝い申し上げる。女神の慈愛が降り注がんことを」

 エデンのこの一言は、エリック王子が世継ぎの王子であることの、何よりの保証となった。

 エリック王子もエデンに感謝を述べる。
「創世の女神と精霊エルフェーラ、そしてハイエルフたる貴方がたに感謝申し上げる。これからもこの国を見守ってくださると嬉しく思う」
「ええ、ショウネシーもこの国も住みやすい。しかも善き出会いもあった」
 エデンはイラナとシャロンを見る。
「これはささやかながら、祝いの品です」
 アーベルが銀の箱を差し出した。
「ありがとう、今日は大いに楽しんで行ってほしい」

 一通りの挨拶が済んだ所で、飲み物が配られる。
 乾杯し、とうとうダンスが始まる。

 エリック王子が、真っ直ぐマグダリーナの所に来た。
 その後をバーナード第二王子がやって来て、レベッカにダンスを申し込む。
 ライアンとヴェリタスも、それぞれ王女にダンスの申し込みに行った。

 エリック王子との二度目のダンスは、初めての時ほどときめかなかった。

 お互い化けの皮が剥がれて、相手を理解してきているからだと思いたい。
 エリック王子のダンスが上手いのは、きっとダンス好きのドロシー王女の相手をずっとさせられていたからだろう。そういう事がわかるくらいには理解が……そう、マグダリーナの肩の上で、一緒に楽しそうに踊っているタマの影響などはなかったのだと……

「タマ~」

 マグダリーナが回転した瞬間、浮かれたタマが肩から落ちた。
 スライムのか弱さを思い出し、ヒヤリとしたが、華麗に身を反らせたドロシー王女が嫋やかな手で受け止め、自然な動作でタマをマグダリーナの肩に戻していった。

 ドロシー王女とライアンのダンスは、さながら競技ダンスのようだった……

「凄いな彼、姉上が本気出して踊ってる……」
 エリック王子が感心して言った。

 ライアンもレベッカも体幹がしっかりしていて柔軟性がある。
 二人の育ての母親だったパイパーは、踊り子だったらしいので、その影響だろうか……

 そういえば、レベッカもライアンも、ショウネシーへ来てから、母親の事を話したことはなかった。
 パイパーはヘンリー・オーブリーを騙して、二人を捨てさせた原因なのだから、それもそうかと思い直して、マグダリーナは考えるのをやめた。

 意識すると、パイパーが二人を連れ去りに来そうな気になるからだ。

 ライアンもレベッカも、もうショウネシーの子なのだから、本人達が望んで選んだ道以外、どこにも行かせたくない。

 マグダリーナは、強く願った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...