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十章 マグダリーナとエリック
206. オーズリーの舞踊
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ひとまずファーストダンスの役目を終えて、マグダリーナ達は安心してダーモット達の元に戻る。
「ライアン兄さんすごい汗よ。何か飲んで水分補給したほうがいいわ」
マグダリーナはアルコールと間違えないよう、しっかり鑑定して果実水を選び、ライアンに渡して、ととのえるの魔法をかける。
「ありがとうリーナ。まさかドロシー王女があんなに激しく踊る人だとは思わなかった……ついてくだけで精一杯だったよ」
「そうなの? エリック王子も感心してたわよ。ドロシー王女を本気で踊らせてるって」
ライアンは果実水を一気に飲み干す。
ふとマグダリーナは、その顎から喉の輪郭を意識して、そういえば男の子が声変わりするのはいつ頃からだろうかと考えた。
その頃になるときっと、マグダリーナやレベッカといるより、ヴェリタスや友人との付き合いが増えて来るだろう。
うかうかしてたら、確実に社交面ではライアンとレベッカには敵わない気がして来た。
うっかり考え込んでる所に、オーズリー公爵の声が飛び込んでくる。
「立って! 立ちなさいよ、ダーモット・ショウネシー伯爵、アタクシのダンスの相手をさせてあげてよ」
「そういうのは、男性の私から申し込むものなのですよ、普通」
「何言ってるの? 君申し込みに来ないじゃあないの。だからアタクシが命じてあげててよ」
ガツンとダーモットが座っている椅子の足に、踵の高いお靴を履いたおみ足で蹴りを入れ、公爵は言った。
社交界出禁だっただけあって、初めて見るオーズリー公爵は強烈な方だった。
因みに今回は、ショウネシー伯爵家と同盟を結んだので、ダーモットと一緒ならと特例で参加を認められたのだ。
紫の髪をベリーショートカットにしているのに、女性らしさと色気、そして迫力のある美女だ。揺れる大きな耳飾りが良くお似合いだ。
砂時計のような美しいボディラインを強調する紫のドレスは、背中が大胆に開いていて、そこには鬼人が宿っている……そう、キレッキレの筋肉をお持ちだった。
そして金と星の工房で一緒にお風呂に入ったからマグダリーナは知っているが、公爵のお尻の上には綺麗なえくぼが出来ている。
とてもカッコいい美女であるが、しかしながら王弟殿下の好みは、フリルが品良く似合う伝統的な清楚系なのだ。
残念ながらマッチングしない。
今も王弟殿下はそういうご令嬢に囲まれながら、珍獣でも見るような目でこちらを見ている。
「……娘達とも、まだ踊ってないのに」
ダーモットがため息をついてそういうと、公爵は艶やかな大輪の花のように微笑んだ。
「なんだ、そういうことですの。クレメンティーンとしか踊らないなんてぬかしやがったら、何がなんでも踊らせてやるところでしたわ」
公爵はくるりとダーモットに背を向けると、淑女……ではなく、猫のような優雅さで、一際目立つ集団の所へ行った。
「踊れるんでしょ?」
挑戦的な目で、公爵はその集団の長を見た。
「くっははは、オーズリーの伝統舞踏か? ならコイツは邪魔だなぁ」
エデンは立ち上がって、ローブを脱ぎ捨てると、細身のズボンと襟合わせの単衣の姿になった。
エデンの脱ぎ捨てたローブは、アーベルが拾う。
エステラが公爵に近づいた。
「この子達なら、ヴィオラさんの動きについて行けるわ」
エステラが公爵の右手に触れると、エステラの腕に巻きついていた女神の闇花が、スルスルと公爵の腕に移動する。
闇花達は、エステラをそうしているように、公爵も己達の茎葉、そして花で飾りたてた。
「おそろいね、ありがとう」
公爵はエステラの頬に口づけた。
曲が終わるとエデンが片腕を広げ手を差し出し、同じように公爵も手を重ねて、ダンスホールの中心に向かう。
贅沢な空間の使い方をしてやって来る二人に、並んで踊ろうという猛者は居なかった。
「マゴー、演奏を代わってくれ」
エデンが指を鳴らしてマゴーに命令すると、瞬時にマゴー達が楽器を持って並ぶ。
マゴー達は様々な琴に鈴に笛、そして打楽器を装備していた。
エデンが、その艶のある声で説明する。
「これから俺たちが踊るのは、オーズリー領に伝わる精霊の森と金鉱の精霊に捧げる舞踊だ。俺は創世の女神の為に捧げよう。ナカナカお目にかかることの出来ない、生命の喜びと、精霊と世界に繋がることの官能を表した聖なる舞踊だ」
エデンとオーズリー公爵は、お互いに背中合わせになると、エデンは片手を腰に当て、もう片手は真っ直ぐ前に。公爵は片手を胸に、反対の手は横にすっと、親指と中指を付けて構える。
ドドドドと太鼓の音が鳴り始め、二人は踊り出した。
マグダリーナも会場の人達も、目が釘付けになる。
なるほど、エデンがわざわざローブを脱いだわけだ。踊りはとんでもない難易度のステップから始まった。
ドロシー王女とライアンが競技ダンスだったなら、こちらはプロダンサーのショウだ。
ステップの合間に、太ももを動かして骨盤を細かく揺らしたりしている。そして何気に上半身の動きも難易度が高そうだった。
気がつけば背中合わせだった二人は向かいあい、骨盤を揺らしながら、近づいたり離れたりしている。
エステラが興奮した顔で、小走りに近づいて来た。
「リーナ、あれは魔法だわ!」
「え? 魔法?」
「そう、身体を使った魔法よ! もうすぐ生まれるわ!」
「何が?!」
「小精霊ですよ」
答えてくれたのは、公爵代理だった。
「あの踊りは、決してパートナー同士が触れ合ってはいけないのです。ああして男女の二人が身体を揺らすことで、お互いの間に魔力の《場》を作り、精霊様と感応するのです。精霊様がお応えになると、あのように小精霊が生まれます」
踊るエデンと公爵の周りは、すでに小精霊が舞い、幻想的な様子を見せていた。
「我が領では、この踊りが踊れないと、まず恋愛の舞台に立つことはできません。残念ながら、うちの娘は……」
ヴィヴィアンが「ひどいですわぁぁ」とぼやく。
「まあ、じゃあ他の領地の相手選べばいいじゃん……職人としての腕は良いんだから」
ヴェリタスがちょっと慰める。
「普通のおダンスも、上手く行かないのですわぁぁぁ」
(……あ――――)
以前ライアンにいい位置に蹴られたラムちゃんを、ヴィヴィアンが受け止められなかった記憶が、マグダリーナの中に蘇った。
気がつけば会場に、美しい花々も舞っている。
これは女神様が捧げものに返しくれる祝福の花だ。
踊りが終わると、公爵は倒れ込むように、床に伏した。
公爵の背後には、高位精霊が姿を顕していたのだ。
『リィンの民よ。じきに時が至り、迷宮に神の御座位が現れる。我らが王、精霊王が座し、新たな神となり、創世の女神と並び立つ時が。油断せずに備えよ。その為に、我は新たな鉱脈を与えよう……金、銀、そして銅……』
高位精霊の言葉は最後には途切れ、姿は霧のようにかき消えた。
「大丈夫か? 魔力をゴッソリ持っていかれたぞ」
高位精霊は顕現するのに、公爵の魔力を使用していたのだ。
エデンは公爵を支え、立ち上がらせる。
「平気よ。オーズリーの女は、このくらい慣れててよ……それより、今の預言は……」
エデンは公爵の唇に指をあてた。
「ここではしゃべるなってことね」
エデンとオーズリー公爵の周囲一面には、親指の爪程の金塊が床を埋め尽くすように散らばっている。
ヴィオラ・オーズリー公爵は顔を上げ、高らかに宣言した。
「これがオーズリーの金ですわ! そして公爵家からの祝いの品でしてよ」
セドリック王は満足気に頷く。
「素晴らしい舞踊と素晴らしい奇跡を見せてくれた。礼を言おう、オーズリー公爵」
そして従者に金塊の回収を命じる。
エリック王子も頷いた。
「私からも礼を言う。そしてこの度のショウネシー伯爵家との同盟、めでたく思う。これからも、王国の発展に協力して欲しい」
王と王子の言葉に、拍手と喝采が鳴り響いた。
「ライアン兄さんすごい汗よ。何か飲んで水分補給したほうがいいわ」
マグダリーナはアルコールと間違えないよう、しっかり鑑定して果実水を選び、ライアンに渡して、ととのえるの魔法をかける。
「ありがとうリーナ。まさかドロシー王女があんなに激しく踊る人だとは思わなかった……ついてくだけで精一杯だったよ」
「そうなの? エリック王子も感心してたわよ。ドロシー王女を本気で踊らせてるって」
ライアンは果実水を一気に飲み干す。
ふとマグダリーナは、その顎から喉の輪郭を意識して、そういえば男の子が声変わりするのはいつ頃からだろうかと考えた。
その頃になるときっと、マグダリーナやレベッカといるより、ヴェリタスや友人との付き合いが増えて来るだろう。
うかうかしてたら、確実に社交面ではライアンとレベッカには敵わない気がして来た。
うっかり考え込んでる所に、オーズリー公爵の声が飛び込んでくる。
「立って! 立ちなさいよ、ダーモット・ショウネシー伯爵、アタクシのダンスの相手をさせてあげてよ」
「そういうのは、男性の私から申し込むものなのですよ、普通」
「何言ってるの? 君申し込みに来ないじゃあないの。だからアタクシが命じてあげててよ」
ガツンとダーモットが座っている椅子の足に、踵の高いお靴を履いたおみ足で蹴りを入れ、公爵は言った。
社交界出禁だっただけあって、初めて見るオーズリー公爵は強烈な方だった。
因みに今回は、ショウネシー伯爵家と同盟を結んだので、ダーモットと一緒ならと特例で参加を認められたのだ。
紫の髪をベリーショートカットにしているのに、女性らしさと色気、そして迫力のある美女だ。揺れる大きな耳飾りが良くお似合いだ。
砂時計のような美しいボディラインを強調する紫のドレスは、背中が大胆に開いていて、そこには鬼人が宿っている……そう、キレッキレの筋肉をお持ちだった。
そして金と星の工房で一緒にお風呂に入ったからマグダリーナは知っているが、公爵のお尻の上には綺麗なえくぼが出来ている。
とてもカッコいい美女であるが、しかしながら王弟殿下の好みは、フリルが品良く似合う伝統的な清楚系なのだ。
残念ながらマッチングしない。
今も王弟殿下はそういうご令嬢に囲まれながら、珍獣でも見るような目でこちらを見ている。
「……娘達とも、まだ踊ってないのに」
ダーモットがため息をついてそういうと、公爵は艶やかな大輪の花のように微笑んだ。
「なんだ、そういうことですの。クレメンティーンとしか踊らないなんてぬかしやがったら、何がなんでも踊らせてやるところでしたわ」
公爵はくるりとダーモットに背を向けると、淑女……ではなく、猫のような優雅さで、一際目立つ集団の所へ行った。
「踊れるんでしょ?」
挑戦的な目で、公爵はその集団の長を見た。
「くっははは、オーズリーの伝統舞踏か? ならコイツは邪魔だなぁ」
エデンは立ち上がって、ローブを脱ぎ捨てると、細身のズボンと襟合わせの単衣の姿になった。
エデンの脱ぎ捨てたローブは、アーベルが拾う。
エステラが公爵に近づいた。
「この子達なら、ヴィオラさんの動きについて行けるわ」
エステラが公爵の右手に触れると、エステラの腕に巻きついていた女神の闇花が、スルスルと公爵の腕に移動する。
闇花達は、エステラをそうしているように、公爵も己達の茎葉、そして花で飾りたてた。
「おそろいね、ありがとう」
公爵はエステラの頬に口づけた。
曲が終わるとエデンが片腕を広げ手を差し出し、同じように公爵も手を重ねて、ダンスホールの中心に向かう。
贅沢な空間の使い方をしてやって来る二人に、並んで踊ろうという猛者は居なかった。
「マゴー、演奏を代わってくれ」
エデンが指を鳴らしてマゴーに命令すると、瞬時にマゴー達が楽器を持って並ぶ。
マゴー達は様々な琴に鈴に笛、そして打楽器を装備していた。
エデンが、その艶のある声で説明する。
「これから俺たちが踊るのは、オーズリー領に伝わる精霊の森と金鉱の精霊に捧げる舞踊だ。俺は創世の女神の為に捧げよう。ナカナカお目にかかることの出来ない、生命の喜びと、精霊と世界に繋がることの官能を表した聖なる舞踊だ」
エデンとオーズリー公爵は、お互いに背中合わせになると、エデンは片手を腰に当て、もう片手は真っ直ぐ前に。公爵は片手を胸に、反対の手は横にすっと、親指と中指を付けて構える。
ドドドドと太鼓の音が鳴り始め、二人は踊り出した。
マグダリーナも会場の人達も、目が釘付けになる。
なるほど、エデンがわざわざローブを脱いだわけだ。踊りはとんでもない難易度のステップから始まった。
ドロシー王女とライアンが競技ダンスだったなら、こちらはプロダンサーのショウだ。
ステップの合間に、太ももを動かして骨盤を細かく揺らしたりしている。そして何気に上半身の動きも難易度が高そうだった。
気がつけば背中合わせだった二人は向かいあい、骨盤を揺らしながら、近づいたり離れたりしている。
エステラが興奮した顔で、小走りに近づいて来た。
「リーナ、あれは魔法だわ!」
「え? 魔法?」
「そう、身体を使った魔法よ! もうすぐ生まれるわ!」
「何が?!」
「小精霊ですよ」
答えてくれたのは、公爵代理だった。
「あの踊りは、決してパートナー同士が触れ合ってはいけないのです。ああして男女の二人が身体を揺らすことで、お互いの間に魔力の《場》を作り、精霊様と感応するのです。精霊様がお応えになると、あのように小精霊が生まれます」
踊るエデンと公爵の周りは、すでに小精霊が舞い、幻想的な様子を見せていた。
「我が領では、この踊りが踊れないと、まず恋愛の舞台に立つことはできません。残念ながら、うちの娘は……」
ヴィヴィアンが「ひどいですわぁぁ」とぼやく。
「まあ、じゃあ他の領地の相手選べばいいじゃん……職人としての腕は良いんだから」
ヴェリタスがちょっと慰める。
「普通のおダンスも、上手く行かないのですわぁぁぁ」
(……あ――――)
以前ライアンにいい位置に蹴られたラムちゃんを、ヴィヴィアンが受け止められなかった記憶が、マグダリーナの中に蘇った。
気がつけば会場に、美しい花々も舞っている。
これは女神様が捧げものに返しくれる祝福の花だ。
踊りが終わると、公爵は倒れ込むように、床に伏した。
公爵の背後には、高位精霊が姿を顕していたのだ。
『リィンの民よ。じきに時が至り、迷宮に神の御座位が現れる。我らが王、精霊王が座し、新たな神となり、創世の女神と並び立つ時が。油断せずに備えよ。その為に、我は新たな鉱脈を与えよう……金、銀、そして銅……』
高位精霊の言葉は最後には途切れ、姿は霧のようにかき消えた。
「大丈夫か? 魔力をゴッソリ持っていかれたぞ」
高位精霊は顕現するのに、公爵の魔力を使用していたのだ。
エデンは公爵を支え、立ち上がらせる。
「平気よ。オーズリーの女は、このくらい慣れててよ……それより、今の預言は……」
エデンは公爵の唇に指をあてた。
「ここではしゃべるなってことね」
エデンとオーズリー公爵の周囲一面には、親指の爪程の金塊が床を埋め尽くすように散らばっている。
ヴィオラ・オーズリー公爵は顔を上げ、高らかに宣言した。
「これがオーズリーの金ですわ! そして公爵家からの祝いの品でしてよ」
セドリック王は満足気に頷く。
「素晴らしい舞踊と素晴らしい奇跡を見せてくれた。礼を言おう、オーズリー公爵」
そして従者に金塊の回収を命じる。
エリック王子も頷いた。
「私からも礼を言う。そしてこの度のショウネシー伯爵家との同盟、めでたく思う。これからも、王国の発展に協力して欲しい」
王と王子の言葉に、拍手と喝采が鳴り響いた。
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