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十二章 悪女
241. クレメンティーンの役目
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パイパーの瞳の中で、戸惑いの色が揺れていた。どう答えれば良いか、考えている顔だった。
やがてパイパーはアンソニーのそばに寄って、跪いた。視線をアンソニーの高さに合わせる。
「いいえ、クレメンティーンは悪いことは出来なかった。貴方達のお父様……旦那様が、それを防いで下さったのです」
「お父さま、が」
「はい。どのようにそれが成されたのか、何故ショウネシーが滅んでいないのか、理由は私もわかりません。おそらくケーレブ様がご存じでしょう。クレメンティーンがこの国にいた理由を知りたいですか?」
アンソニーは戸惑った。
「パイパーさんは、それを話すことで、お父さまに叱られたりしませんか……?」
パイパーは頷いた。
「ダーモット様には、お子様達がお知りになりたい場合は、私の知っている事を話して良いと許可をいただいております。私はアンソニー様もマグダリーナ様も、真実を受け止める強さが充分おありだと判断いたしました」
マグダリーナとアンソニーは、視線を交わして頷き合った。そして、そっと広間から立ち去ろうとするライアンをアンソニーが、レベッカをマグダリーナが、手を握って引き止める。マグダリーナは、双子にも一緒にいて欲しいと頼んだ。
「オリガには、大精霊からいただいた他人と繋がり操る能力の他に、『呪い』『魅了』という能力がありました。おそらくその能力があるために、大精霊に重用されていたのでしょう」
子供達が心の準備ができたのを見計らって、パイパーは話始めた。
「クレメンティーンの父親であるスタンレー伯爵は、賢女と名高い夫人を深く愛していたそうです。ですが、彼はオリガの『魅了』の魔法で一夜の過ちを犯した。そうして産まれたのがクレメンティーンです」
スタンレー伯爵家はクレメンティーンと、その異母姉であるシャロンの実家だ。賢女と呼ばれた夫人も、夫の浮気が許せず、そして伯爵も夫人の機嫌を損ねたくないがため、孤児院から引き取ったもののクレメンティーンへの対応は冷たかった……マグダリーナもアンソニーも、そう聞いていた。
「身重になったオリガは、お腹の子に丁寧に『呪い』の魔法をかけ続けました。決して解けない呪いの魔法を。この子が《絶世の美貌を持つ女の子》であること。そして、《婚姻を結んだ相手の家門を、必ず滅ぼす》こと。《王となるものと婚姻する》こと。それから、産まれた女の子に幼いうちから、男を手玉に取る方法を、徹底的に教え込み、五歳になったクレメンティーンを、リーン王国の父親の治める町の孤児院に捨てたのです。スタンレー伯爵の血筋である証拠の品を持たせて。やがてこの国を滅ぼすために」
「え?! じゃあうちが貧乏になったのって、お母さまの所為だったの?!」
「確実にそうですね。もし出産等でクレメンティーンが死んでも、滅びの運命は消えない……そういう呪いだと、オリガは言っていました。しかし、実際にはリーン王国の王家は無事で、クレメンティーンの嫁ぎ先は没落寸前ながらも生きながらえている……おそらく私がライアン様を出産した際に、クレメンティーンに連れて行かれた大魔法使いのお陰かと思います……大精霊とオリガは、クレメンティーンが『使えない』と分かった時点で、私を潜りこませていたオーブリー家を利用する計画に変更しました……これが、私の知っている全てです」
マグダリーナは頭がくらくらした。
オリガはパイパーを操って、許しがたい行為を行っていたのみならず、我が子さえも道具として扱い、更に今、死んだエヴァの亡骸すらも利用している。許せない……だがそれ以上に、気になるのは、父のダーモットのことだ。
「話てくれて、ありがとうパイパー」
マグダリーナは礼を述べ、アンソニーはパイパーに、喉を潤す飲み物を渡した。パイパーは遠慮するが、アンソニーが双子にも飲み物を渡して、休憩を促す。
「それにしても、お母さまの呪いには『王となるものとの婚姻』もあるのに、どうやってお父さまと結婚できたのかしら?」
「ディオンヌ様が、その呪いは解いて下さったのではないかしら?」
マグダリーナの呟きを、レベッカが拾った。
「そうかも。後でエステラとハラに聞いてみましょう。お父さまが何をしたのかは……多分お父さまは話してくれない気がするわ。ケーレブから話を聞くしかないかしら」
「では、呼んで来ますねー」
マゴー3号が素早く広間を出ていった。
やがてパイパーはアンソニーのそばに寄って、跪いた。視線をアンソニーの高さに合わせる。
「いいえ、クレメンティーンは悪いことは出来なかった。貴方達のお父様……旦那様が、それを防いで下さったのです」
「お父さま、が」
「はい。どのようにそれが成されたのか、何故ショウネシーが滅んでいないのか、理由は私もわかりません。おそらくケーレブ様がご存じでしょう。クレメンティーンがこの国にいた理由を知りたいですか?」
アンソニーは戸惑った。
「パイパーさんは、それを話すことで、お父さまに叱られたりしませんか……?」
パイパーは頷いた。
「ダーモット様には、お子様達がお知りになりたい場合は、私の知っている事を話して良いと許可をいただいております。私はアンソニー様もマグダリーナ様も、真実を受け止める強さが充分おありだと判断いたしました」
マグダリーナとアンソニーは、視線を交わして頷き合った。そして、そっと広間から立ち去ろうとするライアンをアンソニーが、レベッカをマグダリーナが、手を握って引き止める。マグダリーナは、双子にも一緒にいて欲しいと頼んだ。
「オリガには、大精霊からいただいた他人と繋がり操る能力の他に、『呪い』『魅了』という能力がありました。おそらくその能力があるために、大精霊に重用されていたのでしょう」
子供達が心の準備ができたのを見計らって、パイパーは話始めた。
「クレメンティーンの父親であるスタンレー伯爵は、賢女と名高い夫人を深く愛していたそうです。ですが、彼はオリガの『魅了』の魔法で一夜の過ちを犯した。そうして産まれたのがクレメンティーンです」
スタンレー伯爵家はクレメンティーンと、その異母姉であるシャロンの実家だ。賢女と呼ばれた夫人も、夫の浮気が許せず、そして伯爵も夫人の機嫌を損ねたくないがため、孤児院から引き取ったもののクレメンティーンへの対応は冷たかった……マグダリーナもアンソニーも、そう聞いていた。
「身重になったオリガは、お腹の子に丁寧に『呪い』の魔法をかけ続けました。決して解けない呪いの魔法を。この子が《絶世の美貌を持つ女の子》であること。そして、《婚姻を結んだ相手の家門を、必ず滅ぼす》こと。《王となるものと婚姻する》こと。それから、産まれた女の子に幼いうちから、男を手玉に取る方法を、徹底的に教え込み、五歳になったクレメンティーンを、リーン王国の父親の治める町の孤児院に捨てたのです。スタンレー伯爵の血筋である証拠の品を持たせて。やがてこの国を滅ぼすために」
「え?! じゃあうちが貧乏になったのって、お母さまの所為だったの?!」
「確実にそうですね。もし出産等でクレメンティーンが死んでも、滅びの運命は消えない……そういう呪いだと、オリガは言っていました。しかし、実際にはリーン王国の王家は無事で、クレメンティーンの嫁ぎ先は没落寸前ながらも生きながらえている……おそらく私がライアン様を出産した際に、クレメンティーンに連れて行かれた大魔法使いのお陰かと思います……大精霊とオリガは、クレメンティーンが『使えない』と分かった時点で、私を潜りこませていたオーブリー家を利用する計画に変更しました……これが、私の知っている全てです」
マグダリーナは頭がくらくらした。
オリガはパイパーを操って、許しがたい行為を行っていたのみならず、我が子さえも道具として扱い、更に今、死んだエヴァの亡骸すらも利用している。許せない……だがそれ以上に、気になるのは、父のダーモットのことだ。
「話てくれて、ありがとうパイパー」
マグダリーナは礼を述べ、アンソニーはパイパーに、喉を潤す飲み物を渡した。パイパーは遠慮するが、アンソニーが双子にも飲み物を渡して、休憩を促す。
「それにしても、お母さまの呪いには『王となるものとの婚姻』もあるのに、どうやってお父さまと結婚できたのかしら?」
「ディオンヌ様が、その呪いは解いて下さったのではないかしら?」
マグダリーナの呟きを、レベッカが拾った。
「そうかも。後でエステラとハラに聞いてみましょう。お父さまが何をしたのかは……多分お父さまは話してくれない気がするわ。ケーレブから話を聞くしかないかしら」
「では、呼んで来ますねー」
マゴー3号が素早く広間を出ていった。
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