あえない天使

ハルキ

文字の大きさ
3 / 26
Day1

3.よろしく

しおりを挟む

 ルイ

 危ないところでした。人間との会話は目新しいものばかりでつい入り浸っていたのです。はじめての人間界だったので緊張していましたが、みんな優しく声をかけてくれました。
 昼ごはんを食べてみんなと話しているときに、ふと時計を見ると、12時55分になっていました。ボクはあわてて「ちょっと、トイレに行ってくる」と言えば、誰もついてこなくなりました。男子トイレにまで入ってくる女の子なんかいないですもんね。
 ボクが急いでいると、たまたま会った先生から「廊下を走るなぁ!」と言われても、走りながら「ごめんなさい」と逃げるように立ち去りました。         
 すいません、今回ばかりは許してください。
 校舎の外に出ると、人目につかない場所を探すと、雑草が生い茂る場所を見つけました。ここなら誰も来ないでしょう。念のため、あたりに人間の姿がないか確認し、祈るように空を見上げました。
 「おう、ルイ、遅かったな」
 「す、すいません」
 声の主は神様です。この時間帯に一日の途中経過の報告をしなければいけません。これがボクに与えられた人間界での任務です。ボクはそのことを忘れていたためにぎりぎりの報告になってしまいました。
 「まぁよい、明日からは時間に余裕を持つように」
 「はい」
 一日目なので人間界の様子とかは特に伝える必要はなく、試しに使っての確認のようなものです。
 
 


 神様との通信も終わり、そっと胸に手をなでおろし、校舎のほうへ戻っていきました。人間界の調査を完璧に行おうと意気込みを胸に抱きながら僕は一度、大きく深呼吸をした。
 「よし、がんばり・・・」
 ボクはまるでこの世の時間が止まったかのように体が動かせなくなりました。茂みから人影がこちらをのぞいているからです。人間に見られてしまったという焦りから頭に思考がとまることなくたまっていきました。
 神様からの声はボクにしか聞こえません。ということは、ボクの言葉しか聞こえていないはずです。神様との交信のなかでボクが『天使』ということがばれる発言はしていないと思います。ただ、空に向かって独り言をつぶやいている姿からは変人と言われざるを得ませんね。
 ボクは人影に声をかけました。
 「誰ですか?出てきてください」
 人影さんは縮ませていた体を起き上がらせ、茂みから出てきました。正直、ついてきたのが女の人だと思っていたので人影さんの長身ぶりを見ると思わず、えっ、という言葉をもらしてしまいました。人影さんがボクに顔を見せると、えーという驚愕の言葉を出してしまいました。その人影さんは朝、ボクをこの学校に連れてきてくれた人だったからです。
 「ねえ、何してたの?」
 恩人さんは目をまっすぐボクに向けていました。しかし、「神様と交信してました」なんて言えっこないので、
 「え、えーと。この学校を、探検してたの」
 「まぁ、この学校、広いし初めてだもんなぁ。じゃあ、俺が案内してあげるよ」
 「ありがとう」
 どうやら勘付かれずに済んだようです。優しい恩人さんにこの学校を案内してもらって、人気ひとけがない場所を交信場所にしましょう。
 「そういえば、俺のこと、覚えてる?」
 「覚えているよ。君はボクの命の恩人です」
 「い、命の恩人!?俺はそこまでのことはしてないよ」
 心配そうに聞いてくれた恩人さんがなんだか照れくさそうに顔を赤くして、目が横にいきました。
 恩人さんは恥ずかしがり屋ですね。
 恩人さんの太陽に照らされた黒髪が風に揺られました。
 「ねぇ、名前、何?」
 「あぁ、原だよ。原俊樹」
 「ボクはルイ。原くん、よろしくね」
 ボクはできるだけ明るい声で答えました。両手を後ろで組み、体をくの字にしました。しかし、原くんからの返事はなく、ボクの顔をぼんやりと眺めていました。原くんの頬がなぜか赤くなっていきます。すると、原くんはいままで意識を失っていたかのように目を大きく見開きました。そして、頬を両手で挟むように叩き、パチンという気持ちのいい音が鳴り響きました。
 「ど、どうしたの?」
 慌てて原くんのほうへ近づきました。叩いたところがさらに赤くなっています。しかし、原くんは笑顔で「なんでもないよ」とボクに声を掛けました。
 原くんは手を差し出しました。ボクの手よりもひと回りやふた回り大きいなどでは言い表すことが出来ないような、細長く大きな手が目の前に映し出されました。ボクはおそるおそる手を出しました。
 原くんの手は少し硬く、今の気温のようにほんのりと温かったです。原くんはボクの手を優しく握ると、「よろしく」と笑顔でつぶやきました。ボクもそれに負けないように思い切りの笑みを浮かべました。
 その時、キーンコーンカーンコーンという授業の開始と終了の時にも鳴っていた音が聞こえました。外にいるからか教室にいるときよりも小さかったです。それにも関わらず、原くんは特に焦った様子を見せませんでした。ボクは心配して、「授業、始まるよ」と少し慌てた口調で言いました。しかし、原くんは落ち着いた様子を見せながら、
 「大丈夫、まだ予鈴のチャイムだから」
 と説明してくれました。しかし、ボクには『よれい』という言葉の意味が分かりませんでした。だから、原くんに聞いてみることにしました。
 「よれいって何?」
 ボクはやさしく原くんは説明してくれるのだと思いました。しかし実際は、半開きの目をさらに細めて、ボクの顔をじっと見つめていました。
 原くんは「ルイ」とボクの名前を呼ぶと、思わず背筋を伸ばし、「はい」と答えてしまいました。
 「予鈴知らないってどこから来たの?自己紹介の時も自分がどこから来たのか言ってなかったし」
 ボクは原くんの表情は何を考えてくれているのかわかりませんでした。ボクは「天界から来た」なんて言えず、黙ってしまいました。原くんは少しずつ顔を近づかせます。
 ボクの頬になにか動くものを感じました。虫かと思い、手で払いのけようとしました。しかし、触れたのは液体でした。ボクの涙でした。ボクはなぜ、自分が涙を流しているのかわかりませんでした。原くんの顔を見ていると自然と涙が流れ、朝起きたばかりのようにぼやけて見えます。ただ、原くんの表情を見ることはできました。とても心配している顔です。原くんはポケットからハンカチを取り出し、「大丈夫」とボクの涙を拭おうとしました。しかし、ボクは原くんに触れられる前に無意識にその場を逃げ出してしまいました。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...