あえない天使

ハルキ

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Day1

4.いっしょに

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 今日の授業がすべて終わると、みんなが一斉に立ち上がりました。どうやら帰るようです。席が反対の方向にある原くんに昼休みのことを謝ろうとしました。しかし、女の子がボクに話しかけてくるのでなかなかそちらのほうへ行けませんでした。原くんに謝らなければという思いは頭から離れませんでした。
 ボクもみんなと同じように教科書をカバンになおそうとしました。すると、ある女の子がボクに話しかけてきました。
 「ねえ、ルイ君。これからみんなでカラオケ行くんだけど一緒に行く?」
 ボクは少し悩んでいると、教科書をカバンにしまっている原くんを見つけました。
 「ごめん、ボク、ちょっと用事があって・・・」
 「そっか、じゃあ、またね」
 女の子はニコッと笑いながら僕のもとから去っていきました。ボクはそれを見届けると原くんのもとへと向かいました。すぐにでも頭のモヤモヤを取り除きたかったのです。
 教室の話し声や笑い声などで気が付きませんでしたが、床がギィギィと音が鳴りました。その音に気がついたのか原くんはボクのほうを向きました。ボクは「ごめん」という3文字の言葉を口にしようとしました。しかし、喉に何かが詰まっているかのように言葉が出てきません。
 「ルイ、さっきはごめん」
 ボクが言いたかった言葉を原くんは先に言ってしまいました。でも、その言葉のおかげでようやく息が通るようになりました。
 「ううん、大丈夫。ボクのほうこそごめんね」
 ボクはえへへと笑顔で返しました。なんだか久しぶりに笑った気分です。原くんは立ち上がり、「じゃあ、またね」と手を挙げながら笑顔でそう言いました。ボクもそれに対し、「うん、またね」と言おうとしました。
 ・・・どこに帰りましょう。
 この任務の期間中は天界には帰れないので人間界にとどまらなくてはいけません。外で過ごしていたら警察の方に見つかり、保護されるかもしれません。そうなったら天使だとバレるかもしれません。ボクは頭の中でどうしたらいいか考えていると、目の前にいる原くんの顔が思い浮かびました。
 原くんは急に立ち止まって動かないボクを不思議そうに見ていました。
 「あ、あの!」
 ボクのいきなりの声量に原くんの身体がピクっと動きました。しかし、一番驚いていたのは自分でした。ボクは少し言いよどみながらも続けて、
 「今日、原くんの家に泊まってもいいですか?」
 正直、ダメもとでした。いきなり泊めてと言われても無理と帰ってくるのが自然です。せっかく神様から任務を与えられたのに。自分がまだ一人前の天使になれないのだと思うと目に涙があふれているのを感じました。しかし、それを原くんには顔をうつむかせて見えないようにしていました。やさしい原くんに悲しんでいる姿を見せてしまうとかわいそうと思われ、無理に泊めてくれると思ったからです。
 しかし、聞こえてきたのは意外な言葉でした。
「いいの?」
 思わず原くんの顔を見てしまいました。さらに原くんはボクの顔に詰め寄り、
「本当に俺の家に泊まってくれるの?」
 と目を輝かせていました。
 ボクは頭の整理が追い付いていませんでしたが、とりあえず「う、うん」と返事をしました。すると、原くんはこれまでにない笑顔で「ありがとう」とつぶやきました。頼んだのに感謝される不思議な光景に困惑してしまいましたが、その言葉はボクの心を温かく包みました。この世界にもボクを快く向かい入れてくれる人がいるということが任務という重圧を軽くしてくれました。
 
 学校へ向かう時と同じように自転車の後ろに乗って、原くんは運転をしてくれました。帰り道は少し上り坂になっていていました。しかし、自転車はスイスイとまるでなにかに引っ張られているかのように全く無駄な動きがないまま原くんの家に到着しました。
 原くんの家はまわりに他の家が立ち並ぶ場所にポツンと建っていて、白塗りの2階建てで他の家と同じような構造でした。これだけでは原くんが金持ちだということを疑ってしまいます。金持ちというのは帰り道で原くんの口から聞きました。
 
「俺って金持ちに見える?」
 「うーん、見えないかな」
 「まあ、そうだよね。俺の親父が庶民的っていうのかな、あまり贅沢をしないんだよ。それにミニマリストで家にはあまり家具はないんだ。でも、こう見えてすごい人で世界的にも有名なICT系の社長をしているんだ。でも、忙しいせいか家にはほとんど帰ってこない。お母さんは3年前に家を出て行ってしまって、今どこにいるのかわからない。連絡してもつながらないし、親父も『あんな奴ほっとけ』っていう始末」
 「大変なんだね」
 「そうでもないよ。ああ、でもお母さんが出ていってすぐは大変だったな。今までやってこなかった家事を全部引き受けることになって、いろいろ調べたりもしたなぁ。でも、いまはもう慣れた」
 
 原くんはポケットからキーホルダーがついていないカギを取り出し、玄関を開けてくれました。「お邪魔します」とおそるおそる家に入ると、真っ暗闇で廊下の奥にある窓から指す夕日の光だけが頼りでした。
 脱いだ靴をきれいにそろえ、壁をつたいながら進んでいきました。すると、途中で出っ張ったものに触れた感触がありました。それをよく見ると、緑の光が三つもありました。そこへ触れてみましたが、何も起きませんでした。次はもう少し強い力で押してみました。
 カチっ。
 横の部屋の電気が付きました。残りのスイッチも押してみます。すると、廊下と電気が付いた部屋の向かいの階段の電気が付きました。なんだか自分が魔法使いになったようです。
 人間界の目新しいものに胸を膨らませていると、玄関のカギがカチャと閉まりました。その音に反応したボクは少し体を飛び上がらせ、少しずつ後ろを振り返りました。
 カギを閉めたのは原くんでした。しかし、ボクが「原くん?」と声をかけても反応はなく、表情も見せずにそこに立ち止まっていました。ボクは原くんのもとへ歩み寄ります。近づいてわかったのですが、走ってもないのにハァー、と声を出していました。
 「原・・・くん?」
 ボクはもう一度名前を呼びました。もう握手ができる距離です。ボクの声が聞こえたのか原くんはゆっくりと顔をあげました。
 ヒィっー。
 ボクは小さな悲鳴を上げ、一歩、後ずさりをしました。まるで何日も食料にありつけなかった獣のように口を開け、よだれを垂らしていました。そして、獲物を狙うかのように他のことには考えず、ボクのことをただ見つめていました。







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