あえない天使

ハルキ

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Day1

5.どうしたの

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 原くんがまるで獲物のようにボクのことを見つめていました。お互いが相手の動きをうかがっています。突然こんなことになるなんて思いもしませんでした。もしかしたら誰かに操られているのかもしれません。早く助けないと。
 「原くん、目を覚まして」
 ボクはそう呼びかけました。しかし、原くんの耳には届いていないのか全く反応はありません。目の前の原くんは今にでも襲ってきそうです。
 操られているのならまず冷静にさせること。ボクは先ほどと同じように声で呼びかけました。しかし、どれだけ叫んでも原くんを元に戻すことはできませんでした。
 こんなことってありえるのですか。原くんは何もしていません。なのになぜ、操られなければいけないのですか。
 目から涙が出るのをぐっと抑えました。
 声でダメなら行動で。
 ボクは原くんに近づくために足を踏み出しました。正気に戻るきっかけを探るためです。
しかし、原くんはボクが近づくと、靴も脱がずに勢いよく襲ってきました。
 原くんはボクを捕まえようとしましたが、ギリギリでこれを避け、左の部屋に逃げました。この部屋は正面の奥に大きい鏡があり、左にはソファ、右にはテーブルと椅子がありました。
 息を荒げながら、原くんがこの部屋に入ってくるのを待ちました。
 こうなったら動けなくするしかありません。
 原くんは勢いよく飛びついたせいかこの部屋の入口を越え、玄関の逆側から姿を現しました。そして、ボクのことを見つけると、再び猪突猛進で飛びつきに来ました。
 よし、これを利用して・・・。
 ボクは天界で習った護身術で原くんを転ばそう、そう考えていました。力が数段上の原くん相手で力がほとんどないボクでも技術があれば強い敵も倒せる。天界にいた時も技術だけでなんとかここまでやってきました。
 しかし、ボクは原くんを転ばそうとはせずに避けてしまいました。頭の中に笑顔の原くん、やさしい原くんの顔が浮かんできたからです。ボクの考えとは裏腹に傷つけたくない、操られているのにかわいそうだという感情がボクの頭に埋め尽くされました。
 ボクはひとつの方法を失ってしまいましたが、まだ策はあります。
 原くんは勢いのある体をうまく反転させ、窓ガラス寸前で止まりました。
 原くんは一歩ずつボクのほうへ歩み寄り、ボクは一歩ずつ後ろに下がっていきます。背中が壁につくと、原くんは勢いよく襲いかかりました。それに対しボクは小さい体を生かして、それをかわし、背中側に回ることが出来ました。
 原くんは壁にぶつかると思いきや両手で衝撃を和らげ、少しずつこちらを振り向こうとしました。ボクはその前に手から魔法を繰り出しました。
 天使はそれぞれひとつの魔法を持っており、心が読めるとか、天気を変えるとか、ビームを出すものとかです。僕の場合は相手を眠らせる魔法を持っています。相手を傷つけずに無力化することが出来る、今の状況にうってつけの魔法です。しかし、人間からすれば現実ではありえないことです。もし、魔法を出しているところを見られれば怪しまれるかもしれません。でも、見られる前に魔法をうつことで、天使であるということに気づかれず、勝手に眠ってしまったと思わせることが出来るはずです。
 ボクは長い息を吐きながら頭を狙いました。この魔法は皮膚に当たらなければ効果はなく、原くんは長袖の制服でつま先から首元まで覆われていました。魔法なので顔に当たっても痛くはないはずです。
 原くんがこちらを見る前に魔法を放ち、左の頬に直撃しました。すると、獣のような目は少しずつ弱々しくなり、膝から崩れ落ちうつぶせで眠ってしまいました。
 ボクは安堵のため息をつきました。襲われそうになったときはどうなるかと思いましたが、なんとか眠らせることが出来ました。
 本当に眠っているのか、その確認のため原くんのほうへ近づきました。体を大の字にして口を少し開けて呼吸をしていました。
 この魔法に当たれば、最低でも1時間は眠るはずです。その間に床で寝ていては風邪をひきそうなので布団を敷いてあげて、それから元に戻す手がかりを探すことにしましょう。もしかしたら、目を覚ますと元に戻るかもしれません。
 ボクは布団を探すためこの部屋を出ようとしました。しかし、脚にほのかに暖かい感触を感じます。見ると、眠っているはずの原くんの手がボクの足を掴んでいました。そして、先ほどと同じ、獣のような目でこちらをのぞいていました。
 目が覚めても治っていません。それどころか魔法を当てたのにも関わらず、すぐに起きてしまいました。
 頭の中で混乱が起こる中、どうにか掴まれた手を振りほどこうとしました。しかし、狙った獲物は逃さないといわんばかりの執念で離そうとしませんでした。
 「離して!」
 そう呼びかけても反応はありませんでした。もう一度あの魔法を当てれば、でも、効かないのではないか。そう考えを巡らせていると突然、原くんがつかんだ手でボクの足を思い切り引っ張りました。軽々としたボクの身体は簡単に空中に浮きました。視界がすべてスローモーションに映り、天井が少しずつ遠ざかっていきます。
 このままだと床に頭を打つ、ボクは目を閉じ落下の衝撃を受け入れようとしました。
 しかし、いつまでたってもその瞬間は訪れず、目をゆっくりと開けます。すると、目の前には原くんがいました。ボクの身体を原くんが暖かく包んでくれ、頭も守ってくれました。
 でも、目の前には獣がいて、そして、ボクはその獲物になりました。
 獲物は、この後・・・。
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