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Day1
6.ぷんぷん
しおりを挟む「さっきはごめんね」
野獣くんはソファに隠れているボクのほうを向きながらそう言い、続けて、
「怒ってる?」
と反省の色なしの笑顔でそう言っていました。
「怒ってない」
と明らかに怒っている口調でボクは言い返しました。
さきほどボクが操られていたと思っていたあの行動は演技だと後に聞かされました。
心配して損しました。
その後、ボクは襲われて唇と唇を無理やり・・・、もう思い出したくありません。
しかし、今、顔がいつもよりあったかいのは怒っているせいでしょうか。頭に血が上って体温が高くなっているのでしょうか。
ソファの後ろに隠れているのは怒ってすねているだけではありません。なんだか顔を合わせるのが恥ずかしいだけです。何度かこちらから顔をのぞかせていると、野獣くん何か料理を作りながらこちらに笑顔を向けていました。本当にあの人は『反省』という言葉を知っているのでしょうか。
しばらくすると、「ご飯できたよ」と声が聞こえてきました。しかし、そこで「はーい」と言って出てくるほど子供ではありません。人間でいうと16歳ぐらいですが、生まれてから30年もたっています。
野獣くんが料理をテーブルの上に並べていると、「ご飯だよ」と声をかけますが、もちろんソファから出ようとしませんでした。食べている間にも、「ねえ、出てきてよ」とか「悪かったって」とどれもが笑顔で言うのですから返事もしてやりませんでした。
野獣くんがご飯を食べ終わり、食器を片付け、「ご飯、そこに置いてるから」とテーブルを指さし、部屋を出るのを確認すると、ようやくソファから出ることが出来ました。
テーブルに置いてあるのはオムライスでした。その上には丁寧にケチャップでハートが描かれています。
原くんの作ったオムライスは絶品でした。でも、ボクはそれを味わうことなく、飲み込んだらまた口に入れるというのを繰り返していました。頭では美味しいと感じていてもボクは表情ひとつ崩さずに食べ進みました。全部食べきると、ついでに皿も洗います。
なにもすることがなくなったのでとりあえずソファに寝ころびました。それは緑色のL字になっていてふかふかで思わず寝てしまいそうでした。ボクは大きなあくびを浮かべました。すると、野獣くんがこの部屋に入ってきました。
「あれ、皿も洗ってくれたんだ、ありがとう」
野獣くんはにっこりと笑顔でそう言いました。ボクは一度、それを見て、目を背けました。
「ちょっと、こっち来てくれる」
そうボクを手招きすると、渋々ながらもソファから立ち上がり、距離を開けてついていきました。
連れてこられたのは一つの部屋でした。目の前にはしっかり整理整頓された本棚があり、向かい側には同じベッドが二つ置かれていました。その間には小さなチェストがあり、その上には写真が置かれていました。そこにはちいさな少年と大柄な男性、そして、眼鏡をかけた女性が映っていました。おそらく家に来る前に教えてくれたお母さんとお父さんでしょう。三人の表情は別居したことを疑いたくなるほど満面の笑みでした。目立つのはそれだけで本当に家具があまり置いていないのだと思いました。
「ここ、好きに使っていいから」
野獣くんはそれだけ言うと、反対側の部屋に消えて行ってしましました。
ボクはベッドに寝ころびながら同じ模様が規則正しく並んだ天井を眺めていました。
お風呂に入ったあと、この部屋に帰ると、たくさんの種類の動物が描かれたパジャマがベッドの上に丁寧に置かれていました。その上にはひとつの紙があり、「着ていた服は部屋の前のかごに入れてね」と書かれていました。確かにこの部屋に入るとき、プラスチックのかごのようなものがあったことを思い出します。ボクは指示通りに今日着ていた服をかごの中に投げ入れました。
ボクはここで一週間やっていけるのでしょうか。
時計のカチっ、カチっ、と言う音で部屋の中の沈黙はさらにたまっていきます。まったく見通しが立たない未来への不安がボクの心をさらに圧迫していきました。人間界にひとりでやってきた孤独感、いくら人間たちと話そうとそれが消えることはありませんでした。
ボクが物心つく前から両親は亡くなったのか、逃げたのかわかりませんがいませんでした。そのため、血がつながっていない人たちにボクは育てられました。しかし、そこでは奴隷のように家事を丸ごとやらされ、睡眠の時間もろくに取れませんでした。ボクは任務をもらって自立するために一人前の天使になろうとしました。周りからさまざまな陰口を言われてきましたが、同じ年代で1番早く任務を任されるようになりました。それがわかるとすぐに元の家に別れを告げました。なので、ボクには天界にも人間界にも帰れる場所はありませんでした。
ボクは目を閉じ、現実から逃げようとしました。疲れからか身体の力が自然と抜けていくように感じます。ボクはますます夢の中へ引き込まれていきます。その中で野獣くんの明るい声が聞こえてきました。
「ルイ」
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