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Day2
7.はじめまして
しおりを挟むボクは学校に入り、下駄箱に履いてきた靴と学校で履く靴とを入れ替えました。
教室は一階にあるので階段を登る必要はありません。1年生は4階まで行かなければいけないので大変ですね。
この時間ということもあり、廊下にはほとんど人はいませんでした。ボクが家を出たのは7時で、野獣くんもまだ起きていませんでした。冷蔵庫を開けるとそこには銀色の缶が10本ほどありました。そこにはローマ字で「ASAHI」、漢字で「生」と書かれていました。しかし、ボクが探していたのは食べ物なのでそれらを無視して食パンとバターを取り出して食べました。
学校への道は昨日の帰りと同じ道を通りました。途中にあった橋の下には綺麗な川があり、思わず乗り越えてしまいそうでした。
学校に着いたのは8時20分で、先生が言っていた集合時刻の20分前でした。
早く学校に来たのは野獣くんと一緒に行きたくないからです。もう怒ってはいませんが、なんだか・・・、恥ずかしいのです。
野獣くんの顔を思い出したボクは教室の前で顔をうつむかせ、立ち止まりました。すると、
「あ、ルイくーん」
という女の子の声が聞こえてきました。たぶん、野獣くんなら逃げていました。
その女の子は笑顔でこちらに歩いてきました。
黒と青の間くらいの長い髪で、まつ毛が濃く、頬がふっくらしていました。そして、スリムな女の子が多いこの学校には珍しい、少しぽっちゃりとした体格をしていました。
ボクはあっ、と声をあげました。この女の子に見覚えがあったのです。
「昨日、怖い先生に怒られてた人」
転校の挨拶として職員室というところに来ていたとき、短髪のあごひげをつけた若い男の先生に怒鳴りつけていた人がしました。それがこの女の子だったのです。ボクが廊下を走って怒っていた先生でもあります。
「あれねー、本当に意味わかんなかったんだよね。なんで休憩中におかし、食べたらいけないのかなぁ。あっ、このことはみんなには内緒ね」
その女の子は笑顔を崩さずに口の前に人差し指を立てました。ボクはそれにうなづきました。女の子は続けて、
「あ、そういえば自己紹介、まだだったね。私、堀田葵ね。よろしく」
と言って手を振っていました。ボクも笑顔で「ボクはルイ」と言いました。女の子は「うん、知ってるよ」と言いました。
葵ちゃんは嬉しそうに、
「ねえねえ、昨日さ、俊樹の家に泊まったって聞いたんだけど、なにかあった?」
とボクに聞きました。
ボクはビクッと体を飛び上がらせてしまいました。昨日の出来事、野獣くんに襲われた記憶がよみがえります。ボクはその前に顔を思い切り横に振り、それを思い出させないようにしました。
「ねえ、なにかあったんだしょう」
葵ちゃんはにやにやしながらボクに顔を近づかせました。
「な、なにもなかったよ」
思いがけないことに声が裏返ってしまいました。
「どうしたの?顔赤いよ」
ボクはからかうように言う葵ちゃんの顔を見ることはできませんでした。なんだか彼女の顔を見るだけで昨日のことが思い出されそうになるからです。
すると、葵ちゃんは近づかせていた顔を遠ざけ、満足げに「まぁ、いっか」とつぶやきました。ボクはゆっくりと彼女の顔をのぞきました。
「ふたりはどういう関係なの?」
「私と俊樹のこと?」
「うん」
葵ちゃんは少し上を見上げて考えた後に、「ただの幼馴染だよ」と言いました。なんだかボクは納得いったような気持ちになりました。葵ちゃんと会話をしているとそこに野獣くんがいるような気がしたのです。でも、彼女は野獣くんのようにボクを襲うことはしてこないでしょう。
幼馴染なら、お互いのことを知り尽くしているでしょう。野獣くんのことを聞くことが出来る絶好の機会です。
「ねえ、原くんってどんな子?」
ボクはあえて野獣くんとは呼ばないようにしました。
すると、葵ちゃんはひとつため息をつき、腕を組みました。
「あいつね、小さな男の子が好きなのよ」
「え?」
「あいつはね、女子とかにはあまり興味なくて、小さな男の子を恋愛対象として見てるのよ。小学6年生の時なんて下級生に写真とか撮って怖がられてたっけ。ルイ君もたぶん恋愛対象として見られてるんじゃない?いや、たぶんじゃなくて絶対だね。私は一回だけあいつに告ったことあるんだけど『ごめん』って即答されちゃった」
葵ちゃんはそう言うと、苦笑いを浮かべていました。
ボクは頭の中で辻褄が合いました。確かに出会った時に写真を撮られ、家に行くと襲われました。そして、今、ボクが無意識にあの人を避けようとしているのも、もしかして・・・。
ボクは両手で顔をおさえました。なんだか先ほどより頬が赤くなっているような気がしたのです。
ボクは指の隙間から葵ちゃんの様子を見ました。しかし、彼女はボクとは反対側に体を向かせ、「おーい」と手を振っていました。どうやら誰かを呼んでいるようです。
おさえていた手を顔から離し、大きい葵ちゃんの横から顔を出しました。ボクはこちらに向かって走ってくるシルエットに思いがけず声を出してしまいました。
それは野獣くんでした。ボクはそれを認識すると、葵ちゃんの大きな体の後ろに隠れました。
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