8 / 26
Day2
8.すごいでしょう
しおりを挟む原 俊樹
はぁ、はぁ。
俺は息を荒げてこの学校にやってきた。というのも朝からルイの姿が見えなかったのだ。
ルイが寝ているはずの部屋に入っても、一階に下りてみてもそこには誰もいない沈黙が漂っていた。俺は急いで学校への準備をした。いつもなら朝ごはんは自分が作った料理を食べるのだが、そんな流暢なことをしている場合ではなかった。ふと残っていた食パンを思い出し、冷蔵庫の扉を開ける。そして、食パンが入っている袋を取り出した。
あれ、減ってないか?
俺は5枚入りの食パンの袋をみて首をかしげた。俺の記憶では最後にこれを見た時は3枚残っていた。しかし、この袋の中には2枚しか残っていなかった。疑問に思いつつ、それに何もつけず、くわえながら家を出た。普段なら遅刻ギリギリに来る俺だが、この日は15分早かった。ペダルをできるだけ強く踏み込み自転車を進ませた。夏が終わり、気温が加工しているというのに汗がにじみでてくる。俺はそんなことは気にせず、学校に向かった。
そんなわけで俺は息を切らしながら廊下を走っていた。すると、そこには葵がこちらに向かって手を振っているのが見えた。その後ろには誰かが隠れている。横からルイの顔が現れたとき、ほっと胸をなでおろした。
ゆっくりと減速をして、葵の前に立ち止まる。そして、膝に手をつき、息を整えた。
「やっほー」
葵は元気でそう言ったが、俺にはそんなことさえ言える気力はなく、息を吐きながら「あぁ」とつぶやいた。体がこれまでになく酸素を求めている。
「なんで走ってきたの?あっ、わかった。ルイ君が心配で来たんでしょう」
相変わらず勘が鋭い。いや、たぶん俺に対してだけだろう。
「ああ、そう、なんだよ」
相変わらずルイは葵の身体をぎゅっと抱きしめていた。半分だけ顔を出し、怖がるような目で俺を見つめていた。やはり昨日のことが原因か。
「なにかあったの?」
興味津々そうな葵に俺は昨日のことを説明した。ルイをいきなり襲ったこと、キスをしたこと。俺の話が終わると、葵はやれやれといったようなポーズで「そりゃ、こうなるよ」と呆れて言った。後ろのルイも今度は顔を出していなかった。
葵は後ろのルイの様子を確認し、再びこちらに焦点を合わせた。
「いい?ルイくん」
葵は真剣な顔でこちらに歩み寄り、俺の腕を思い切りつかみ引っ張った。気がつけば、俺は葵の背中に乗っていた。足をばたつかせても地面には当たらない。俺には柔道の経験がないため受け身の仕方がわからない。俺は目をつむった。
俺の身体は地面に思い切りぶつけられた。しかし、悲鳴を上げるほどではなくそっと地面に置かれた感じだった。周りが騒然と見守る中、葵は俺のことは見ず、にっこりとルイを見つめていた。
「こいつはこうやってこらしめればいいの」
ルイは感心したように「おー」と口を広げていた。
「なにかされたら私に言ってね」
「うん、ありがとう」
ふたりがそんな会話をしている間、俺はゆっくりと立ち上がった。葵はそれを見て笑顔で「次は容赦しないから」とつぶやいた。
ルイのほうを見ると、先ほどよりも口角がつり上がっている気がした。自分を守ってくれる人がいるからだろう。葵はボディガードの仕事につける。
「困ったら、葵姉ちゃんに頼んでね」
「うん、わかった」
葵は少し腰を下ろして微笑み、ルイもニコッと笑っていた。
「ルイくん、かわいいね。私の弟にしたいくらい」
葵は屈託のない笑顔でそう言った。ルイは「え?」と少し困惑しているようだった。冗談で言っているか本気で言っているのかはわからない。冗談だとしても少しはそう思っているということだろう。
「お前には弟がひとりいるだろう」
俺は横から口を出した。
葵には小学生の弟がいる。ほとんど会ったことがないが、恥ずかしがり屋でいつも葵にくっついているイメージがある。名前は、恵くん、だったかな。名前を聞いたのも葵の口からだったと思う。俺の記憶では「よろしく」としか言葉を交わしていない。もしかしたら、葵は、俺が小さな男の子好きというのをばらしているのかもしれない。だとしたら恵くんが俺に対して口を利かないのも納得できる。
葵はゆっくりとこちらをのぞいた。
「弟がふたりいるともっと楽しくなるよ」
まるで悦楽に浸っているような顔をしていた。おそらく恵くんとルイと一緒に暮らしている様子を想像しているのだろう。ルイはどうしたらよいのかわからず俺と葵を交互に見ていた。葵は一度、咳払いをして現実に戻ってきた。
「ルイくん、私の弟になろう」
ルイの両肩に手を置き、真剣なまなざしで見つめていた。ルイは「えっ、え?」と視線が落ち着かなかった。葵は少しずつ顔を近づけるとともに笑顔になっていく。しかし、先ほどまでの笑顔ではなかった。内に秘められている欲望が隠しきれず、表情にあふれていた。
「ヒィッ」
ルイはそのような声を上げると、葵の手をほどき教室の中に逃げていった。
「あらら、逃げられちゃった」
葵はひとうため息をつくと、アハハと苦笑いを浮かべていた。あんな顔で近づかれたら恐怖でしかない。
「さっきの怖い笑顔やめたら?」
「これのこと?」
葵は先ほどルイにしたような怖い笑顔で近づいてきた。
「それそれ、ほんとに怖いから」
正直、俺でもすこし怖い。初対面の人からすると腰がひけるだろう。
「これね、直したいんだけどね、直せないの。心の中で思っていることが漏れてしまうの。ねえ、どうしたらいい?」
珍しく真顔で聞く葵に「知らん」と一蹴した。葵はあきらめたかのように「そっか」と答える。
怖い笑顔が直るのはまだまだ先か、あるいはもう直らないかもしれない。そうなると、それは葵のアイデンティティになるのだろう。
俺は一度、葵の顔を見ると、静かに教室の中に入った。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる