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Day3
10.さそい
しおりを挟むルイを後部座席に乗せ、学校へ向かう。雲はあるが太陽が顔を出していたが、少し寒かった。家を出る前に天気予報を見たが、今日は最高18°しか上がらないらしい。
自転車が橋に差し掛かったとき、俺はふと後ろに目をやった。ルイは俺の背中を見つめていたが、見られていることに気が付くとすぐに目をそらした。最近、ルイは俺と目を合わせてくれなかった。「昨日、俺にけがを負わせたことを申し訳なく思ってるの?」と声をかけた。ルイは「それもある」と答えた。頭の中で「それも」という言葉が引っかかる。
「他の理由があるの?」
俺がそう言うとルイは黙り込んでしまった。これ以上、問い詰めるのも悪い気がしたので「やっぱいいや」とわざとらしい笑顔でそう言った。
教室に入るとルイは人気者だ。三日目だというのに人気は衰えず、学年関係なくこのクラスを訪れる。学校でのルイとの関係は同じクラスメイトという関係でしかなかった。家にいるときと比べ、ルイは俺と遠くにいる存在なのだと認識させられる。
俺はひとつため息をつくと、扉のほうから「やっほー」という能天気な声が聞こえてきた。
葵だった。
「遅かったな、また呼び出されたのか?」
「うん、そうなの」
剣道部の朝練は始業時刻に間に合うように早めに終わる。しかし、今日は始業時刻の3分前にやってきた。その理由は顧問の呼び出しだ。剣道部の顧問である中森は生徒指導の先生であり、生徒からは『鬼』というあだ名が定着している。その先生が葵に呼び出されるのはたびたびあり、校内放送で呼び出されるのも珍しくなかった。
昨日は俺と会話できるくらい時間の余裕があったので呼び出されていないはずだ。一昨日は・・・。
俺が腕を組みながら考えていると、
「ルイ君、今日も大盛況だね」
と葵が声をかけた。俺は「そうだな」と天井をみながら返事をする。
「明日さ、祝日じゃん。だからさ、みんなでボウリングに行こうよ」
俺は葵の顔を見る。葵は聞いただけなのになぜかもう行くことが決まったかのような顔をしている。しかし、ボウリングは得意なほうだ。何回か母に連れられた時があるが、最高スコアは223である。もしかしたら、葵に勝てるかもしれない。
「みんなって?」
俺がそう言うと、葵は目の前に右手を出した。
「私でしょ、あんたでしょ、あとルイ君でしょ・・・」
葵は人差し指、中指、薬指と順番にあげた。そして、最後に小指があがる。
「あと、恵」
俺は「え?」と驚いた。たいして面識もない恵くんがその候補に入っているとは思っていなかったからだ。
「なんで、恵くん?」
「だって、家にひとりで留守番なんてさみしいでしょ」
「まあ、それはそうだけど」
「じゃあ、なにも文句ないよね?」
葵はお決まりの怖い笑顔を見せてきた。特に予定もないし、断ったらなにをされるのかわからないし素直に首を縦にふった。
「よろしい、じゃあ、ルイ君にも言っておいてね」
葵はそれだけ言い残し、仲のいい女子グループに混ざって話をした。
「ボウリング・・・か」
俺はルイのことを見つめながら小さくつぶやいた。すると、ルイがこちらを見た。しかし、少し目が合っただけですぐに目をそらされてしまった。
昼休みにはルイはグループから外れ、あの中庭に向かう。それは今日も同じであった。俺はルイを追いかけ、見えないところで会話を盗み聞いていた。ルイはいつも通り空に向かって語りだした。昨日同様、笑顔も交えながら会話をする。俺は息を殺して聞いていた。すると、「よっか」という言葉が聞こえてきた。ルイはその言葉をつぶやくと同時に顔をうつむかせた。俺はなにがあったのだろうと小首を傾げた。すると、ルイは下を向いたままこちらに向かって歩いてきた。それを見た俺は慌てて、しかし、音を立てずに逃げた。
5限目はあまり授業に集中できなかった。なぜ、ルイがいきなり落胆したような表情をしたのか、誰と会話していたのか。どれだけ考えていても結論は出ない。終始、上の空だった俺は葵にペンでつつかれるまであてられていること に気づかず、当然答えることが出来なかったので先生から「授業をきくように」と注意された。
休み時間もそのことで悩んでいると、横から声をかけられた。
「ねぇ、明日のことルイ君には言った?」
「まだ」
「まぁ、帰ってからでもいいけどね」
と葵が前を見たとき、目が大きく開かれた。俺も葵につられて前を見る。そこにいたのはルイだった。ルイはいつの日にか見た満面の笑みを浮かばせていた。
この時間も女子たちと会話しているはずだが、と扉のほうを見た。そこには顔も知らない女子たちが口惜しそうにこちらを見つめていた。頭の理解が追い付かないでいると、
「ねぇ、明日、みんなでボウリング行くんだけど、ルイ君も行く?」
と葵は目を輝かせながらそう言った。
ルイは「うん」と気持ちのいい返事をした。
「じゃあ、決まりね」
葵がそう言うと、教室にチャイムの音が鳴り響いた。
「じゃあ、ルイ君、また明日ね」
「うん」
ルイは微笑みながら自分の席に帰っていった。俺はルイが元気になったことで安堵の気持ちを浮かべていたのと同時に、これまできまりが悪そうに目を合わすことが出来なかったルイの変わりように頭が混乱していた。
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