あえない天使

ハルキ

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Day3

11.つかまえた

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    6限目が終わり、葵は部活のため「また明日」とあいさつを交わした。葵の歩いている先を見ると、そこにはルイがいた。
 「またね」
「うん、またね。ルイ君」
 ふたりは笑顔で手を振った。ルイは口角をあげながらこちらに向かってきた。
「今日も一緒に帰ろう」
「ああ」と俺は返事をした。
 朝のルイは少し表情がこわばっていたが、先ほどの休憩時間から表情は晴れやかになっている。この間にルイのなかで変化が起きたのだ。それを考えたとき、真っ先に思いついたのが昼休みの出来事だった。ルイは3日続けて同じ場所で独り言を話している。何を話しているのか分からないが会話が終わる直前にルイが顔をうつむかせたことに何か意味があるのだと思った。
 いつも通りルイを自転車に乗せ、二人乗りで学校を出た。ルイは俺の脇腹につかまりワ―、という声をあげた。俺は少しスピードをゆるめる。
 「なにかあったの?」
 ふたりきりになったのを確認してからルイに尋ねた。ルイは少し間を開けてから、
 「ううん、なにもないよ」
 と明るい声で返事をした。俺は「そっか」とつぶやいた。昼休みのことを聞こうとしたけれども、聞いてはいけない予感がしたためやめておいた。
 日が少しずつ沈んでいき、空が夕焼け空に変わっていく。だんだん昼の時間が短くなっていくのを感じる。
 家に着くと、鍵を開けてルイを入らした。ルイはこちらを見て、俺を警戒している。しかし、今日はルイをこのまま襲う気はなかった。昨日、正攻法では負けることを知った。だから、今日はひと手間を加える。
 俺はリビングに向かい、冷蔵庫を開けた。中段に置いてある銀色のビール缶を数本取り出した。椅子に座り、それを口に流した。残りをテーブルの上に置く。
 20歳未満は飲んではいけないことは知っている。俺は高3になったときから飲み始めたが、同級生で飲んでいる人も少なくはなかった。もし、親父が見たらひどく叱られるだろう。あの人はそういうところには厳しい。
 ビールを飲んでいると横目でルイを見つめた。予想通り、好奇心の目でこちらをのぞいていた。俺は一本を飲み切ると、口の周りの泡を拭いて、
 「いっしょに飲む?」
 と聞いた。ルイは「うん」と言いながら駆けよってきて、向かい合わせの椅子に座った。ルイはもしかしたらこれの存在を知らないと思った。
 プシュー、という音を立てて、缶を開けた。それをルイに手渡した。ルイはそれを両手に持ち、おそるおそる口に近づける。俺は別のビール缶を開けて、飲みながらルイを見る。
 俺もお酒が強いほうではない。せいぜい5本が限界だろう。その前にルイを酔わせなければいけない。もし、ビール缶を10本も飲むようならこの作戦は徒労になる。
 ルイはごくりと喉を鳴らし、ビール缶をテーブルの上に置いた。ルイは表情を見せなかった。俺はそれを見て、ハッと息をのんだ。
 ビールをうまいと思っている人もいるだろうが、逆にまずいと思う人もいる。もしかすると、ルイは後者なのかもしれない。そうなら「これ嫌い」と言ってもう飲んでくれないかもしれない、そう頭によぎったのだ。
 「味はどう?」
 俺はルイの顔色をうかがうように聞いた。しかし、返事はない。ルイは前後左右に体を揺らしていた。そして、ルイは椅子から転がり落ち、床の上にバタリと倒れてしまった。俺は慌てて椅子から飛び出す。
 「大丈夫か」
 返事はない。俺の額から汗がにじみ出てくる。
 ルイはお酒に弱かったのだ。いや、弱すぎだ。たった一口飲んだだけで倒れるなんて。
 俺は必死にルイの身体を揺らした。しかし、反応はない。
 どうすればいい?
 そう悩んでいると、水でアルコール濃度を薄められることを思い出した。俺は台所にあるコップに水道で水を汲み、ルイに飲ませる。少し口からこぼれたが、飲んでくれたようだ。
 「おい、大丈夫か」
 俺は再び必死にルイの身体を揺らした。それでもルイは起き上がらなかった。俺はポケットから携帯を取り出して、119に電話をかけようとした。しかし、ここで通報すれば20歳未満が飲酒をしていたことをばらすことになる。そうなれば学校から停学、最悪の場合、退学になるかもしれない。俺は二つ折りの携帯電話を開く。通報することを選んだのだ。しかし、最初の番号『1』を入力する手が震える。ピー、という無機質の音が鳴る。続けて同じ番号『1』を入力する。最後に『9』だが、右手だけではなく携帯を持つ左手も震えてきた。右手が『9』という番号の寸前で止まる。
 俺はここにきてどうしようかと悩んだ。しかし、考えている時間はない。今でもルイは・・・。
 ふとルイのほうに目をやった。すると、ルイは自分で起き上がった。俺は携帯を床に投げ捨て、片方の膝を床につき、ルイの肩に手を置いて「大丈夫なのか」と問いかけた。しかし、反応はない。
 「待ってろ、救急車、呼ぶから」
俺は床にある携帯を拾おうとした。しかし、俺の肩になにかが触れる。見るとルイの手が俺の肩に置かれていた。
「ルイ?」
ルイは黙っている。顔が隠れているため表情が読み取れない。ルイは俺の肩に力を加えていた。俺はそれを押し返そうとした。しかし、さっき携帯を取ろうとしたせいで体勢が斜めになってしまい、うまく力がつたわらなかった。俺はルイの攻めに耐えるしかなかった。少しの間、力戦を繰り広げているとルイは顔を接近させてきた。俺は思わず顔を遠ざけた。後ろへ後ろへと顔を倒していると背中が床についてしまった。体中から冷や汗が流れる。目の前にはニヤリと俺を見下ろすルイがいた。ルイは俺の顔に近づいてこう言った。
 「やっと、つかまえました」
 
 




























 

 
 
 
 
 
 














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