12 / 26
Day3
12.いいよね
しおりを挟むルイは完全に酔っていた。俺の身体を覆いかぶさるかのように四つん這いになり、頬を紅色のように染め、口元から唾液が出てきそうだ。
「じゃあ、最初に・・・」
ルイは今にも垂れてきそうな唾液を飲み込み、上唇を舌でなめた。
「奪われた唇を返してもらうとしましょう」
ルイの唇はゆっくりと、だが、確実に近づいていた。俺は顔を横にそむけようとしたが、ルイは逃がさないよと言わないばかりに顔をおさえつけられた。光り輝くサクラのような唇がもう目の前にせまっている。俺は必死に目をつむる。視界が真っ暗闇の中、柔らかな感触だけがつたわってきた。ルイが言っていたように奪われたものを取り返すように何かをルイに吸われているような感触だ。
俺は少しだけ目を開ける。ルイは目を閉じ、静かに食事をしていた。その光景に対し、俺はすべてを受け入れていた。吸われている何かは唾液でも唇の色でも、はたまた生気でもなんでもいい。ルイにならなんでも取られていいと思ったのだ。
どれくらい時間がわからない。しかし、ルイは濃く、長く唇をくっつけていた。そして、ゆっくりと顔を離し、吐息をもらした。そして、少しでも残さぬようにと唇をなめまわし、目を開ける。
「おいしかったです。うーん、少し取りすぎましたでしょうか。お返しします」
「え?」
答えに窮していた俺を見てルイはニコッと笑って「冗談です」と言った。
ルイはふー、とひとつ息をついて体を寄せてきた。ルイは潤んだ黒い瞳でこちらを見つめていた。思わず息をのむことを忘れてしまいそうなくらい少しずつだがルイの身体が近づいてくる。ルイの身体が俺に着陸してきたとき、ルイの鼓動がつたわってくるのを感じた。それは速く、かつ大きかった。ルイは俺の胸に顔をうずめる。ルイの身長は俺のちょうど胸のところしかなく、まるで子供が抱きついてきたかのようだった。
「原くんの身体、とっても、あったかいです」
ルイは顔をなすりつけながらそう言った。動かないよう両手で脇腹をつかみ、両足で二足歩行の移動するための主軸をがっしりと掴まれていた。しかし、俺はそれを受け入れ、ルイの背中に手をまわした。ルイは一瞬、目を見開いたが、再び笑みを浮かべた。
「原くん、大好き」
ルイは目に涙を浮かべながらそう言った。俺はそれを見てルイを強く抱きしめた。
「ああ、俺も」
まるでわが子の心を和ませる母親のようだ。正直、ルイがどうして泣いているのか、俺にはわからなかった。だが、ずっとこのままでいいのに、この世界の時間が止まればいいのにと考えた。しかし、それが不可能であることがわかるとルイを守ってやりたいという思いが強くなった。ルイは俺に抱きつきながら幸せそうに眠っていた。俺は手をルイの頭の上に置いてなでた。
俺は今、この幸せをできるだけ長く味わおうとした。一生に何度も味わうことのない高揚感を。しかし、それは長くは続かなかった。
ピンポーンー。
インターホンの音だった。それはこのリビングの入口から聞こえてくる。誰かがこの家にやってきたのだ。
「誰だよ」
当然のことでいら立ちが隠せなかった。俺はルイを起こそうとした。
「おい、ルイ起きろ」
俺は邪魔をされたいら立ちを隠し、優しい声をかける。ルイはうとうとしながらも目を開けた。
「どうしたのですか」
ルイはまだ頬が赤かった。まだ酒が抜けきっていないのだ。
「ごめん、誰か来たみたいだ、ちょっとどいてくれ」
ルイは寂しそうに「はーい」と答え、椅子の上に腰かけ再び眠りについた。俺は音の鳴るリビングの入口に向かった。この家に来る人はそんなにいない。たまに葵が遊びに来るくらいであとは配達業者である。
俺はインターホンが取り付けられている玄関の映像を見た。俺は目を見開き、声を失う。俺の親父だった。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる