あえない天使

ハルキ

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Day3

14.おやじ

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 俺はリビングの椅子に座っていた。隣にはルイが座り、テーブル越しに親父が座った。俺は親父にルイと酒を飲みあったことを話した。それで今、説教を受けているのだった。親父は腕を組み、こちらをギロリと見つめてくるのに対し、ルイはなぜか笑顔だった。この厳格な空気のなかで最初に話し出したのは親父だった。
 「お前が何をしたかわかっているか?」
 「ご、ごめん」
親父は俺の言葉を聞くなり机を叩きつける。
 「ごめん、で済む問題じゃない。未成年の飲酒は禁じられていると学校で習っただろう。実際に体験していない人間にはわからないかもしれないが、うちと親しくしていた会社に勤めていた社員がアルコール中毒で亡くなった。その責任をとって社長は辞任、会社も倒産してしまった。規則を守るためにお酒を飲んだらいけないのではない。自分の身を守るためにお酒は飲んだらいけないんだ」
 強風を受けているかのように思わず背筋をそらした。親父も久しぶりに大声で叫んだためか少し息を荒げている。すると、外で流れるチャイムが家の中にも聞こえてきた。親父はにっこりと笑うルイを見た。
 「君は家に帰ったらどうだ」
 「ルイと呼んでください、お父様」
 ルイはそう言ったが、親父は一蹴した。
 「君の両親も心配するだろう」
 「いえ、ボクはここに泊めてもらいます」
 「悪いが君を泊められる余裕はうちにはない」
 「昨日は泊めてもらいましたよ」
 親父は目を見開いた。しかし、すぐに目を細め俺を睨みつける。ここは説明するしかなさそうだ。
 「ルイは両親がいないみたいなんだ。だからうちで泊めることになったんだ」
 「それでも、私に連絡を寄越すべきではないのか」
 その通りだ、反論の余地もなく黙ってしまう。親父はあきれたようにため息をつき、立ち上がる。親父にしては少し弱く、寂しげな口調でつぶやいた。
 「お前も、恵美みたいになるのだな」
 恵美とは親父と喧嘩して別居中になっている俺の母だ。別居する前は「お母さん」と呼んでいたが、今は名前で呼んでいる。俺はその言葉を聞くとすぐに、
 「お母さんは関係ないだろ」
 とつぶやいた。
 親父は一瞬、立ち止まったが再び歩き出しこの部屋を出ようとした。しかし、
 「お母さんって、確か別居中なんですよね」
 とルイの言葉が親父の歩を止める。
「これはこの家の問題だ。君には関係ない」
 「この話は原くんから聞きました」
 「だからどうした?」
 ルイはひとつ間を置く。
 「これはさっき原くんから聞いた話なのですが、お父様、あなたはあるものを取りに来たとおっしゃった。それは寝室にあるのだとも」
 「私は寝室にあるとは言っていないはずだ」
 「いえ、2階には原くんの部屋と寝室しかありません。そして、ボクが原くんの部屋にいるとき、こんな声が聞こえてきました。『そういえば、お前の部屋、ちゃんと掃除しているのか?』と。原くんの部屋には探し物はなく、ついでなのだとわかります」
 俺はあの時、ルイを隠すので精一杯だった。そのため、親父の取りに来たものについてあまり考えなかった。ルイがまるでシャーロックホームズのように見えた。俺も助手のワトソンのようになりきって考えてみる。寝室にあるものとすれば・・・。
 ルイは続けて、
 「寝室にはほとんど家具はありません。お父様は物をあまり置きたがらない性格だと、これも原くんから聞きました。ボクはそのなかであるものを見つけました」
 親父は汗も流さず黙って聞いていた。俺もルイの話を集中して聞いていた。
 ルイは眼鏡の少年のようにゆっくりと手を挙げ、親父を指さす。
 「寝室にはお父様とお母様、そして原くんの過去がありました。三人で笑って幸せそうでした。あなたがさがしていたものは、写真ですよね」
 俺はごくりと喉を鳴らした。親父は顔色ひとつ変えずルイを見つめる。
 「わかったところで、私はそれを持ってここを出るだけだ」
 親父はそう言って部屋を出ようとする。しかし、ルイは、
 「本当はお母様に戻ってきてほしいのではないですか?」
 と言うと、再び親父の歩が止まる。
 「さっきも言ったはずだ。君には関係ないと」
 「ちょっと待ってくれ」
 思いがけず俺の口から言葉が出て、親父のもとへ詰め寄る。勢いよく立ち上がったため椅子が倒れてしまった。
 「お母さんに戻ってきてほしいのは本当なの?」
 親父は首を縦にも横にも振らず黙っていた。俺は親父の肩を掴んだ。
 「じゃあなんでお母さんをこの家から追い出したの?」
 目頭が熱くなっているのを感じる。お母さんが出ていった日のことはよく覚えている。日が暮れた後、お互いが言い争い、お母さんが「あなたとはもうやっていけない」という言葉を吐いて出ていったのだ。
 俺は親父の身体をゆさぶり「なんで?」と繰り返す。親父は顔をうつむかせながら、
 「すまない、一本だけ酒をくれないか?」
 とか弱くつぶやいた。親父も体から力がなくなり、うなだれていた。俺は少しの間、何も言えずに黙っていた。しかし、心の中に火がつくのを感じると親父の肩を強く握りしめた。
「なんで、お酒ダメって言ったのは親父だよね。他人には飲むなと言っておきながら自分は飲むの?」
「今、私に必要なものなんだ。だから持ってきてくれないか」
 親父は静かな口調でそう言った。目はこちらにまっすぐ向いている。だが、それは鋭い目つきではなく、覚悟を決めた、そのような目だった。俺はそれに言い返すことができず、「わかった」とだけつぶやいた。

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