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Day4
16.めぐみ
しおりを挟むルイ
うーん。
ボクは体を伸ばしてベッドから起き上がりました。なんだか少し頭がズキンと痛みます。それに昨日のことをよく思い出せませんでした。記憶にあるのは家に帰るまでの出来事でそれ以降は全く思い出すことが出来ませんでした。
見渡すと相変わらず物が少ない部屋です。あるものは本棚とベッドと棚とその上にある写真ぐらいです。ボクはベッドの上をきれいにし、1階に下りました。
階段を下りていると、なんだかおいしそうな匂いが漂ってきました。リビングに入ると、そこにはエプロン姿の原くんがいて、料理を作っていました。入口のすぐ真上にある時計は7時を指していました。
原くんはボクに気がつくと、すぐに「おはよう」と笑顔であいさつをしました。ボクも「おはよう」と笑顔であいさつをします。しかし、それはどこか無理矢理な笑顔のようなものです。ボクがこの人間界にいられる時間はあと4日、つまり原くんと一緒にいられる時間もあと4日ということです。もし、このことを言ってしまうと原くんはどんな気持ちになるのかわかりません。ボクは原くんや葵ちゃん、そして、学校のみんなともいつもどおりに過ごしたいのです。だから、ボクがいなくなる日のことはできるだけ直前にしたいのです。でも、原くんの顔を見ていると、タイムリミットのことを考えてしまいます。そのため、ボクは心の底から笑うことができなくなりました。原くんに気づかれていないかと思うとドクン、ドクンという心臓の音がつたわってくるようでした。
ボクは昨日のことをよく覚えていなかったので聞いてみました。
「ねぇ、ボクさ、昨日のことよく覚えてないんだけど」
「覚えてないの?」
「うん」
ボクはそう言うと原くんはなぜかにっこりと笑いました。
「昨日、親父が来て、お母さんに謝ったんだ。そしたらお母さん、日曜日にこの家に来てくれるらしいんだ」
「よかったね」
日曜日、ボクが天界に帰る日です。それを考えると胸が痛みますが、笑ってごまかしました。
「それもね、ルイのおかげなんだよ」
「ボクのおかげ?」
ボクは目を丸くしました。
「ルイ、君が親父を励ましたんだよ」
「そ、そうなんだ」
そのことを覚えていないので返答に困りました。ボクは誰かを励ましたりしたことはなく、そういう自分が想像できませんでした。だから、原くんの話は作り話なのかと疑いました。しかし、原くんが嘘をつくような人には思えませんでした。
原くんはボクのもとへ歩み寄り、ボクの肩に手を置いて「ありがとう」とつぶやきました。そして、原くんはソファに座ってテレビをつけます。
ボクの覚えていないことを褒められるのはなんだか不思議になります。それでも嫌な気持ちにはなりませんでした。
ボクは椅子に座り、テーブルに置かれた料理を見ました。オムレツでした。そのまわりにはベーコンやニンジン、じゃがいもがあり違う皿にはごはんとみそ汁が置かれていました。オムレツの表面を割いてみると中から黄金のようなとろとろとしたものがあふれ出てきました。
よだれが垂れてきそうです。
ボクはスプーンでそれをすくい、おそるおそる口に近づけていきます。まるでプリンのようにふるえています。口の中へは運ぶとまるでシチューのようにとろけて流れ込んできました。ほっぺが落ちそうです。ボクはそれを一口ずつ味わっていきます。口の中に入れるたび幸せな気持ちになります。
ふと斜めから原くんがソファに座って見ているテレビの画面を見ると、若い女性が映っていました。そこには太陽や雲、傘のマークがありました。どうやら天気を伝えようとしています。その人は、今日は一日中晴れ間が続くが、明日の午後から中途半端な天気が続き、明後日の夕方ごろから雨になると言います。ボクが天界に帰る日も雨だったら嫌だなと心の中でつぶやきます。
朝食を食べ終わり、食器を洗おうとしました。すると、原くんはテレビの電源を消し、ソファから立ち上がりました。
「あれ、どこ行くの?」
今日は祝日なので学校への準備はしなくていいはずです。それなのに部屋から出ようとしていました。
「今日は葵たちとボウリングだろ。それも覚えてないの?」
ボクは昨日のことを思い出しました。確かにボクは葵ちゃんに誘われて今日遊ぶ約束をしていました。ボクはそれすらも忘れようとしていました。
「あっ、そうだったね。急いで準備するよ」
ボクは急いで皿を洗い終え、着替えをしました。いつもなら制服に着替えるはずなのにと思うと違和感があります。原くんが用意してくれた服は白の無地の下着に灰色のパーカーに黒のズボンでした。原くんは珍しく地味な服を用意してくれました。おそらく人の目を気にしない服を選んでくれたのでしょう。でも、ボクは動物がはいっているかわいらしい服でもいいのですが。
ボクはハンカチやティシュなどをショルダーバッグに入れ、原くんと一緒に家を出ました。家の前にはすでに葵ちゃんが待ってくれていました。
「おはよう」
葵ちゃんはいつものように笑顔で挨拶をします。
「おはよう、葵ちゃん」
ボクは手を挙げて葵ちゃんのもとへ走り寄りました。葵ちゃんは青のスウェットにジーンズを着こなしていました。しかし、葵ちゃんの後ろで誰かが隠れているのを見つけます。目のあたりまで髪を伸ばした男の子?でした。その子は少し顔を出したけれど、ボクと目が合うとすぐに葵ちゃんの後ろに隠れてしまいました。身長はボクの鼻あたりほどしかなく、ここに来てから初めてボクより身長が低い人を見た気がします。
「あっ、紹介するね。あたしの弟の恵ね」
葵ちゃんは隠れていた恵くんの背中を押し、前に出させました。恵くんはボクとは目を合わせずに、
「よ、よろしくお願いします」
と小声で言い、初対面で緊張しているようでした。ボクにはそれがなんだかかわいく見えます。すると、そこへ原くんもやってきました。
「恵くん、久しぶり」
「お、お久しぶりです」
恵くんは小声で原くんに挨拶しました。葵ちゃんとは家が近いので原くんは恵くんと何度か会うのでしょう。
「じゃあ、バス停までのんびり歩きましょうか」
葵ちゃんの提案にみんなはうなずき、会話をしながらバス停まで歩きました。
「今日は部活、休みなんだな」
「そうなの、久しぶりの休日の休みだから遊ばないと損だよね」
「そんなに休みないの?」
「うん、あの厳しい先生だからね」
ボクたちはそのような会話をしていても恵くんは一言も話しませんでした。だから、ボクから話しかけてみることにします。
「ねぇ、恵くん」
恵くんは体を飛び上がらせ、「は、はい」と驚きました。
「今、いくつ?」
「じゅ、10歳です」
「じゃあ、今、小学4年生?」
「い、いえ、5年生です」
「そっか、学校、どう?」
ボクがそう言うと、恵くんは黙ってしまいました。恵くんは着ていた黒のジーンズをギュッと握りしめます。ボクは「大丈夫?」と声をかけると、恵くんは一回だけ首を縦に振りました。
気が付くとバス停に到着していました。そのまわりは同じような住宅が並んでいる場所でした。しばらく会話しながら待っていると、バスがやってきました。青と白のシンプルなバスでした。バスの中に入ると休日のためか、家族連れがたくさんいました。ボクらはいちばん後ろの席に座りました。右から葵ちゃん、原くん、ボク、恵くんの順番で座りました。ボクらが席に座るのを確認すると、入ってきた扉が閉まり、バスは出発しました。
バスはゆっくりと進み、景色をじっくりと眺めることができました。少しずつ、住宅が少なくなり、お店の数が増えてきました。
「そういえば、明後日は葵の誕生日だな」
バス内が話し声であふれる中、原くんが言い出しました。
「覚えてくれていたんだ。うれしいな」
「前、忘れた時、ボコられたからな」
「そういえば、ルイ君って誕生日、いつ?」
「今週の日曜日」
あいにくボクの誕生日が天界に帰る日と一緒だった。ボクにとってはうれしくもあり、悲しい日でもある。原くんたちはボクがいなくなると知ったら悲しんでくれるのかな。ボクが顔をうつむかせていると隣の恵くんも顔をうつむかせていました。
しばらくすると、目的地である場所にバスが止まり、原くんがバスのお金をくれました。立っている人らをかきわけながら先頭の原くんについていきます。原くんと同じようにお金をいれると白い帽子をかぶったおじいさんが「ありがとね」と明るく声をかけてくれました。ボクも「こちらこそ、ありがとうございました」と一礼をしました。
外に出ると見たこともない景色が広がっていました。高い建物がいくつもあり、車が速い速度で通っていきます。一番後ろの葵ちゃんは出るたびに「やっほー」と子供のように飛び跳ね少し離れた場所まで行ってしまいました。原くんはハァー、とため息をつき、葵ちゃんのほうへ歩き始めました。ボクもそちらへ歩こうとしたとき、誰かに腕を握られました。驚いて後ろを見ると、そこには恵くんがいました。
「あ、あの、ルイさん。男らしくないと、言われませんか?」
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