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Day4
17.なやみ
しおりを挟む「ルイさん、男らしくないと言われませんか?」
恵くんからの突然の質問にボクの歩が止まり、そちらに振り向きました。髪の隙間からこちらをまっすぐ見つめているのがわかります。
「おーい、何してるんだ」
あちらのほうから原くんの声が聞こえました。それに対しボクは「うん、今行くよ」と答えました。そして、恵くんに「一緒に行こ」とうながしました。恵くんは顔をうつむかせ、「うん」と力なく答えました。
さきにはしゃいで先に行ってしまった葵ちゃんとも合流し、四人でボウリング場へ向かいました。その間、葵ちゃんと原くんとでボウリング場について話しました。時々、葵ちゃんは恵くんに問いかけますが、恵くんは「うん」と力なく返事をするだけでした。
ボクは先ほどの恵くんの質問を思い返します。どうして、恵くんはそう言ったのか。ボクはかわいいとは女の子から言われますが、男らしくないと言われたことはありませんでした。
ボウリング場につくと、家族や学生などが多く、中にはひとりでしている人も見かけました。ピンがすべて倒れる気持ちのいい音も時折聞こえてきました。葵ちゃんと原くんは受付に行ってお金を払ってくれました。ボクと恵くんは受付の近くの壁に寄りかかっていました。恵くんはずっと顔をうつむかせていました。
ボクは先ほどのことを恵くんに聞いてみます。
「ねぇ、さっきの質問ってどういう意味?」
恵くんはこちらを見ませんでした。しかし、拳は強く握りしめられていることに気づきます。
「実は僕、よく言われるんです、男らしくないって。女子からも男子からも。僕、力がないし、足も速くないし、身長も男子で一番低いし。おまけに泣き虫で、僕が泣くとお姉さんが守ってくれました。ルイさんならもしかするとこの気持ちわかってくれるかと思いまして、さっき聞いたんです」
恵くんは再びこちらをまっすぐ見つめてきました。輝かせた目からは助けを求めているように思えます。ボクは少し笑みを浮かばせ、恵くんの肩に優しく手を置きました。
「そんなの気にしなくていいんだよ。周りからどう言われても自分は自分なんだから」
ボクは恵くんに笑いかけ励まそうとしました。もしかすると、原くんのお父さんもこのように励ましたのかなと思います。これで恵くんは前向きになってくれると思っていました。しかし、恵くんは顔をうつむかせ、「それじゃあ、だめなんです」と小さくつぶやきました。
ボクは恵くんの肩に乗せていた手をそっと離しました。
「だめ、なの?」
恵くんはうなずきます。
「じゃあ、どうしたいの?」
恵くんは首を横に振りました。おそらく『わからない』ということでしょう。ボクはどうしたらよいかわからず黙ってしまいました。すると、受付を終えた葵ちゃんと原くんが戻ってきました。
「あれ、二人ともどうしたの?」
不思議そうに葵ちゃんは聞いてきました。ボクは、「ううん、何でもないよ」と笑ってごまかしました。恵くんは顔をうつむかせたまま歩いていきます。恵くんの役に立てず、胸の内に暗いものを持ったまま静かに恵くんについていきました。
自分たちのレーンに行くと、モニターには四人の名前が記されていました。上から恵くん、ボク、原くん、葵ちゃんの順番です。レーンには自分の靴で入ってはいけないらしいので入ってもいい靴をもらいにいきました。恵くんとはほとんど同じサイズで近かったのですが、話をすることもなくお互い黙っていました。
次にボールを選びました。いろいろ試しに持ってみたのですが13と書かれたボールはどうしても持ち上げることができませんでした。でも、原くんはそれより重い14と書かれたボール、そして、葵ちゃんは15と書かれたボールを軽々と持っていました。葵ちゃんはボクのそのような様子を見て「ルイ君にはまだ早いよ」と微笑み、高い壁のような存在に思えました。しかし、近くにいた原くんは黙って葵ちゃんのほうを見ているだけでした。悩んだ末、ボクは少し重たいくらいの10と書かれたボールを選びました。3つ空いた穴をよく見ているとなんだか顔のようにも見え、恐ろしいものを見たかのように少し悲鳴を上げてしまいました。
自分のレーンに戻ってくると、ボク以外はボールを選び終わったようでした。みんなが待っている先にはボールが置いてある場所がありました。そこには合計3つのボールがあり、それぞれ14と15と6と書かれていました。おそらく6は恵くんでしょう。すると、恵くんは自分のボールを持ちました。そういえば最初は恵くんです。ボクは椅子に戻り、みんなで恵くんを見守りました。右手でボールを持ち、左手でそれを支えていました。ボールを引き、少しずつ歩いていきます。しかし、ボールを離す瞬間につまずいてしまい、恵くんは転び、ボールはレーンの溝に落ちて行ってしまいました。
葵ちゃんはそれを見るとすぐに駆け寄り、「大丈夫?」と声をかけました。ボクも恵くんのもとへ駆け寄りました。周囲の人もこちらに視線を集めます。しかし、恵くんは何事もなかったように立ち上がり、ボールが置かれている前にまで歩きました。そして、出てきたボールを持ち、もう一度右手でそれを投げました。今度はつまずかなかったのですが、またもボールは溝にゴトンと落ちていきました。恵くんはボールが向こう側で落ちる前に椅子に戻りました。葵ちゃんは少し悲しそうな顔をしながら席に戻りました。
モニターを見ると恵くんのところにGと記され、次は自分の番になっていました。ボクは先ほどの恵くんの行動が気になっていました。それを考えながら自分のボールを持ちました。ボウリングは多くのピンを倒すこと。溝に落ちたら0点。手前の黒い線を越えないこと。ボクはボールをまっすぐに投げました。しかし、途中で左に曲がってしまい溝に落ちてしまいました。どうやら変な回転を加えてしまっていたようです。
よし、次こそは。
ボクはさきほどよりまっすぐな回転をかけようとしました。しかし、またしても途中で左に曲がってしまい溝には落ちませんでしたが1つしか倒れませんでした。
次の原くんはボクとは違い、ボールはきれいにまっすぐ投げられました。結果は2回目ですべてのピンが倒れました。次の葵ちゃんは原くんよりもボールが速く、一回目ですべてのピンが倒れました。葵ちゃんは満足げな顔でこちらに帰ってきます。
「やるじゃん」
原くんがそう言うと、葵ちゃんはさらに得意げな顔になります。次は恵くんの番ですが、
「なぁ、葵。さっきの恵くんのことなんだけど」
原くんは小さな声で言いました。すると、葵ちゃんは珍しく真剣な表情になりました。
「最近、あたしに頼らなくなってるんだよね。小学5年生だから思春期に入りかけてるのかなって思ってるんだけど」
「もしかしたら、男らしくなろうとしているのかもしれない」
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