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Day6
23.じぶんのために
しおりを挟むすると、工場の入り口から歩いてくる人影を見つけた。
「なんだ、警戒して損した」
出てきたのは背が俺と同じくらいのやつだった。覆面をしており、表情がわからない。覆面の男は恵くんを見たが、鼻でフッと笑うだけだった。
「入れ」
覆面の男が工場の中に消えていくと、俺たちもその中へ足を踏み入れた。
中は薄暗く、ほこりが散っていた。それに燃料の匂いもかすかにした。まわりには木材や金属類などが無造作に置かれていた。
少し先には覆面の男が立っており、さらに奥のほうを見つめていた。
「連れてきたぜ」
覆面の男がそう呼びかけると、奥の暗闇から誰かが出てきた。それはもうひとり覆面をかぶった男だった。しかし、その男はもうひとりの服の襟を掴み、強引に連れてきていた。
それはルイだった。
ルイの身体はひどくボロボロになっており、顔に殴られた後であろうあざが何か所もあった。俺があげた服も汚れており、力なく連れられている男の思うように動かされていた。
「し、師匠!」
恵くんは涙目になりながらそう叫んだ。あおの声が聞こえたのかルイはゆっくりと顔をあげた。
「めぐみ・・・くん?」
ルイは弱々しい黒い瞳で恵くんを見つめた。まぶしいほど輝いた瞳は失われていた。
俺の胸の中がメラメラと燃えていることを感じた。それはすぐに体中に伝わり、湯気が出そうになっていた。
「警戒して損した」
後ろから声が聞こえてきた。俺と恵くんはとっさに振り返った。もう一人の覆面の男だった。いったいどこに隠れていたのだろうか。
俺らをここに入れた男が言う。
「サツはいなかったか?」
「あぁ、ほんとにこいつら、サツに連絡なしで来やがった」
今、ここに入ってきた男が面白おかしく笑った。それにつられて覆面の男が笑いだす。すると、いっせいにかぶっていた覆面を脱ぎ捨てた。穴が三か所に開いた布が宙を舞い、ルイを誘拐した犯人の顔があらわになった。
俺はその三人の顔に見覚えがあった。
「やっぱり、お前らだったか」
それは二日前、俺らがボウリングに遊びに行った際、ルイに倒された三人組だった。ヤンキーがほとんどを占める学校の生徒だ。
「あぁ、俺らはこいつに復讐したかったんだよ」
ルイを連れている男がルイの頬をつつきながら怒った口調でそう言った。しかし、前のもうひとりの男がそれを制止させる。
「まぁ、まぁ。それはもう済んだ話だ。それより約束を果たそうじゃないか」
そう言いながらこちらに向かってきた。すると、後ろのほうからボゥっ、という音が鳴った。そして、煙がここまで運ばれてきた。おそらく後ろの男がもう終わりそうだからとタバコを吸っているのだろう。
そう思っていると目の前まで男が迫っていた。
「さぁ、持っているアタッシュケースを渡せ」
その男は他のふたりとは違い整った顔をしていた。なぜこんなやつがヤンキー学校に通っているのか不思議なくらいだった。しかし、こいつの目を見ればそれは明らかだった。こいつの目の奥には深い憎悪が含まれていた。顔と目のギャップがこいつをより恐ろしい存在にしているのだろうと思った。
「あぁ、その前に・・・」
俺はそう言うと、後ろのやつに目をやった。俺の予想通り、そいつはタバコを吸っていた。
「そのタバコをくれ」
後ろの男は驚いたようにこちらを見た。
「いいだろう。おい、渡してやれ」
前の男が手を腰に当て、後ろの男に命令した。この三人のなかではこいつがリーダーなのだろうと思う。
後ろの男は納得のいかない顔のまま俺にタバコとライターを手渡した。俺は口にタバコをくわえ、ライターで先に火をつける。初めて吸うタバコだった。
「さて、金を渡してもらおうか」
前の男が手を差し出す。俺は持っていたアタッシュケースを両手で持ち、中を開けた。そこには隙間なくお金が積み込まれている。
前の男がそれを見てニヤッと笑うと、手を伸ばしてきているのが見えた。俺はこの時、こいつらと交わした約束を思い返した。
金を、渡せば、ルイは、元気な状態で、返してくれるのか?
その言葉が脳裏をよぎると、持っていたアタッシュケースを横に投げ捨てた。いくつかの札束が飛び出し、地面に 転がっている。
「なにすんだ、お前!」
前の男はそう言いながら俺の襟を掴もうとしてきた。しかし、その前に俺はライターに火をつけ、投げ捨てたアタッシュケースの中へ投げ入れた。
ヴォー
炎は一瞬にして札束に燃え移る。1000万が無価値に変わる瞬間だった。金持ちの俺でもこんな光景は見たことがなかった。
炎は俺の気持ちを代弁しているかのようにけたたましく音を立てながら燃え広がる。薄暗いこの場所も炎のおかげで明るくなった。
俺以外の人間は呆然と燃えるお金を見ることしかできなかったようだった。
ごめんな、ルイ。
俺はお前を助けるより、こいつらを倒したいと思ってしまった。
俺って自分勝手だよな。
お前がここから去らなければいけないってわかったら、お前の気持ちも考えずひとりで勝手に落ち込んでさ。
ほんとバカだよな。
俺は前の男に少しずつ近寄った。その男の横顔を睨みつけ、頬に拳をふるった。
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