裸の王様は困っているのだ

ニャロック

文字の大きさ
1 / 1

裸の王様は困っているのだ

しおりを挟む
 とある王国のとある王様のお話

 ある日王様はお忍びで街へでかけました。王様と気づかれないように、庶民と同じ服を着ています。

 民の生活が潤っているのか、城の中からは、うかがい知れない庶民の生活をのぞいてみたい。そんな思いを抱いて街へ出かけました。

 街は活気に満ちあふれていました。市場の呼び込みの声、行き交う多くの人々、王様は疲れ果ててしまいました。

 よっこいしょと、王様は道端に座り込んでしまいました。

 「おじいさん、どうしたの具合がわるいの? 今、水を持ってくるからまっててね」

 貧しい服を着た少女は、おじいさんが王様と気づくはずもありません。

 「はい、お水」
 
 王様はこれほどおいしい水を飲んだことがありません。

 「歩ける? あの木陰にベンチがあるからそこで休みましょう」

 王様はその少女の肩を借りてベンチまで行きました。

 「ありがとう、助かったよ」

 「ここでしばらく休んだ方がいいわ」

 「そうすることにするよ」

 王様はこんな良い少女がいることに、感動を覚えました。そこに少女を呼ぶ父親の声が飛び込んできました。

 「エミリー、何をしているんだ。そのジジィは何だ。お金にならないなら、かかわるな」

 「おじいさん、ごめんなさい。行くわね」

 あんなこと言う男の娘なのに、何ていい子なのだろう。王様はうれしさいっぱいで城へ帰りました。


 来月は建国記念のお祭りです。パレードには王様も参加します。それで今日はパレードに着る衣装の打ち合わせです。

 祭りを取り仕切りのは、祭司長のシューケンです。チョビヒゲを生やして、ちょっと気取った男です。

 この国のお祝い事は、シューケンよってとり行われます。

 「王様 パレードで着るお召し物を
お作りいたします」

 招き入れられたのは、なんと街で会った少女の父親でした。

 男はきらびやかな衣装を並べてゆきます。最後に洋服を持っているような仕草をして、並べられた洋服の横へ、あたかもそこに洋服があるかのように置いたのです。

 「王様 最後のは最高級のお洋服です。ただし、これは頭の悪い人には見えません。王様にはお見えになられますよね。このきらびやかさがお分かり頂けると思います」

 王様は心の中で思いました。シューケンめ、あの男にお金を握らされたな。こんな、うさんくさい男を連れてくるなんて。

 王様は男を見ました。この男を詐欺師として、引っ捕えることも考えましたが、あの優しい少女の顔が浮かびました。

 王様をだました罪は死刑と決められています。それほど重い罪です。この男があの少女の親でなければ、何のためらいもなく、衛兵を呼んで引っ捕えたでしょう。

 しかし、あの少女の父親を処刑するのはためらわれます。

 「王様 最後のお洋服が一番素晴らしいと存じます」

 シューケンの言葉に、王様は怒りで頭がクラクラします。シューケンめ、この男と計りおって。この男とシューケン共々罰してやりたい。

 でも、あの少女の顔を思い浮かべると、自分がだまされる以外にない、としか考えつきません。王様は大きくためいきをつきました。

 「すべて、まかせる」

  そう言って王様は出て行きました。二人の目くばせし合うのに気づいたのですが、怒りをおさえるしかなかったのです。

 おふれが出ました。

 [ 王様が着ているお召し物は、頭が悪い人には見えません。もし王様が裸に見えたら、それはあなたの頭が悪いのです]

 盛大な祭りになりました。そして祭りはクライマックスとなり、王様のパレードになりました。パンツ一枚で歩く王様。

 「何て素敵なんでしょう」

 沿道に並ぶ人々は口々に王様の服を賛美しました。王様は笑顔で手を振ります。そうするしかなかったのです。

 しばらく進むと、一人の少女が王様の前に立ちはだかりました。護衛の兵士のやりが、いっせいに少女に向けられます。

 王様はちょっと驚きましたが、その顔を見るなり、あの優しい少女だと気づきました。

 王様はやりを引くように命じます。

 「私に何か用があるのか?」

 少女は緊張のあまり顔が真っ青になり、口はふるえています。そんな彼女に王様はにっこり笑い、少女をうながしました。

 少女のふるえるくちびるから、王様に向けて語り始めます。

 「王様のお召し物には、ほころびがございます。新しくご用意したこちらの服へお召し替え下さい」

 少女は父親の悪だくみに気づき、仕事場にある、最高級の服を持ち出していたのです。

 少女は王様の前にひれ伏し、新しい服を差し出しました。

 「そうか、ほころびがあるのか、それでは着替えないといけないな」

 王様は服を脱ぐふりをして、見えない服を兵士に渡し、少女の差し出した服に着替えます。

 王様は少女の機転と勇気ある行いに感動しました。少女の取った行動は一つ間違えば、兵士に殺されるかも知れなかったからです。

 そして、少女の行いは父親をいさしめ、王様の権威を取り戻したからです。

 裸の王様は、もう裸の王様ではありません。

 それから祭りは更に盛り上がり、夜には盛大に花火が上がり、祭りの終わりをつげました。


 その後 王様は少女の行く末を案じました。あの父親と一緒では少女に良くないと考えました。

 王様は祭りの後しばらくして、王宮に呼びました。王様は色々考えた末に、あることを決めました。

 王様の前に二人はひれ伏し、特に父親はガタガタとふるえていました。処刑されるに違いないと思ったからです。

 あのシューケンが、王宮から追い出されたことを聞いて、父親は王様が怒っていることに気づいたのです。

 「今回の勇気ある行いに、ほうびを取らせようと思う」

 王様の言葉に二人はとまどいました。
罰せられることがあっても、ほうびをいただくようなことは何もしていないからです。

 父親は処刑のことをほうびと、皮肉を込めて言っているのかとあやぶみました。

 しかし、それは取り越し苦労でした。

 「娘の勇気ある行いを高く評価し、
王宮の侍女して召し抱える。まだ幼いゆえ王宮内で学問も学ばせる」

 王様の言葉に二人はびっくりしました。

 「父親は王宮の雑用係として召し抱える。以上だ」

 王様はひれ伏す二人を残して退席しました。二人は驚きと感謝でからだを動かすこともできません。

 王様は娘を父親から引き離すことは、かわいそうでできませんでした。母親は少女が幼い頃に亡くなっていると聞いて行くたからです。

 もちろん、父親には厳しい監視がつきましたが、親子は一緒に暮らすことになりました。
 
 でも王様の心は複雑です。一人の少女を助けたからと言って、国の中には、こんな親子はたくさんいることでしょう。

 王様は宮殿から、しみじみと街を見おろしました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

夏休みの宿題@アリンコ

たまごかけキャンディー
児童書・童話
夏休みの宿題@アリンコ

魔女は小鳥を慈しむ

石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。 本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。 当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。 こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

はるたんぽ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
はるたんぽ ってなんだと思う? はるたんぽ は湯たんぽみたいなんですが、お湯を入れなくてもいいんです。 はるたんぽは……。

処理中です...