お蛇蛇池 (おじゃじゃいけ)

ニャロック

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観光案内所

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「こんばんは。泊まるところを探しているんですけど」

 彼女がおばあさんに話しかけた。僕は言葉を喋るうさぎに気を失うのじゃないかと心配したが、それは無用だった。

「おやまぁー、うさぎさんが二人かね。
まぁー、珍しいこと」

 おばあさんは満面の笑みを浮かべて、二人を招き入れた。うさぎが喋ることに何も不思議を感じていないようだ。

「そんなところに立っていないで、中へお入り。外は寒いだろ、遠慮はいらないよ」

 僕達は中へ入って気付いた。猫はおばあさんのひざの上ばかりでなく、床の上にもたくさんいた。

 僕達は猫を踏まないように、足元を気をつけておばあさんに近づいた。

「よく寝ているのに悪いけど、ちょっと降りておくれ」

「ミャー」

 猫は返事するように泣くと、ひざから飛び降り、身体をプルプル振るわせて背伸びをした。

 おばあさんは二人のために椅子を用意し、座るように勧めた。

「寒かったでしょう。今お茶をいれるわ」

 僕達はどうやら、このおばあさんに受け入れられたようである。もし泊まるところがあったとして、宿の主人にも受け入れられると良いのだけど。

"うさぎお断り" なんて張り紙してあったらどうしよう。いつもの悲観主義に戻ってしまった。プラス思考、プラス思考、と僕は呪文のように、心の中で唱えていた。

 僕は物珍し気に部屋の中を見まわした。観光案内所の目玉として、壁には大きな地図が掲げてられている。

 大きなベニヤ板にペンキで手書きされた地図には、駅を中心に線路をはさんで上の方には大きな池、下には村長の家とか学校が描き込まれている。どこを観光すれば良いのだろうか?

 地図の下にはガラス張りの棚があり、名産品が置かれている。と言っても日本酒や蜂蜜の瓶くらいだ。

 僕は少し呆れ果てていたが、さすが我が女房、こんなところでも楽しく過ごすすべを知っていた。

「ねぇー、明日この池に釣りに行きましょう。何が釣れるかしら。楽しみだわ」

僕には彼女の思考回路がわからない。

「お待たせしました」

二人の前に熱いお茶が差し出された。

「今、村長へ連絡しますからね。あちらへ行ったら、美味しいものをたくさん用意してくれますよ。もうちょっと待ってて下さい」

 僕は宿を紹介してもらいたいだけで、村長に歓迎されるいわれはない。そう思って呼び止めたが、それは無駄だった。

 呼び止められたことに気付かなかったのか、気付かないふりをしてるのか、おばあさんはすでに村長に電話をしていた。

「今ね、うさぎさんが二人お見えになったのよ」

 おばあさんは耳が遠いのか、やけに
声が大きく、隣りの部屋で喋っている声が筒抜けだ、

「うさぎさんが二人ですよ、ふ、た、り。村長さんもびっくりでしょ。早く迎えに来て下さい。おもてなしもお願いしますよ」

 おばあさんの興奮した声が響いてくる。

「うさぎが喋れば、そりゃ珍しいだろうけど、まさかここの観光の目玉にされるんじゃないだろうな」

 僕としては素直な不安な気持ちを彼女にぶつけてみた。

「健太さんたら、面白いこと言うわね。笑えるわ。でも、それも良いわね。私達を目当てにたくさん観光客が来たら、私達はこの村の救世主よ。テレビにも取り上げられて有名人の仲間入り。それも良いわね」

 僕には彼女の目が笑っているので、冗談だと分かるけど、そのタフな精神には頭が下がるばかりだ。

「でも、健太さん。おばあさんの口ぶりからすると、どうも二人ともうさぎだったことが、大事なことのように聞こえるの」

「そうかな」

 僕には彼女の言うことがピンとこなかった。むしろ、歓迎するその裏に、何かがあるんじゃないか、そのことを心配していた。

 表で車が止まる音がした。バタン、どかどか、バーン。車のドアを閉め、慌てふためくような足音ともに、ドアが勢い良く開かれた。

 僕達はその音に、入口の方に顔を向けた。そこには燕尾服を着た、たぬきが立っていた。


 
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