お蛇蛇池 (おじゃじゃいけ)

ニャロック

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最終章

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「これは失礼、ちゃんとお話ししないといけませんね」

 僕達は緊張した面持ちで居住いを正した。

「そんなに硬くならなくてもいいですよ。良い匂いがしてきましたね。お昼の準備をされていたのでしょう。召し上がりながら聞いて下さい」

「村長さんも一緒に召し上がりませんか?」

 彼女の提案に、村長も嬉しそうにうなずいた。

「そうさせてもらうとしますか。ちょっと長い話しになりますから」

 僕達は案内所の広間にテーブルを用意すると、その上に料理を並べた。手際よく作られた料理は、食欲を誘う魅惑的な香りを漂わせている。

「美味しそうですな、遠慮なくいただきますよ。奥さんもなかなか料理が上手とみえる」

 村長が箸をつけると、僕達も料理に手を伸ばした。

「まず、あなた方がもうすでにこの世にいらっしゃらないことは確かですが、ここがいわゆるあの世と言う訳でもないんですよ。あの世にゆく前の修錬所みたいなところです」

 僕達は顔を見合わせた。村長はお茶をすすりながら、話しを進めてゆく。

「この線路はこの世からあの世へとつながっています。この世で成すことができなかったことを、成就しないとあの世には行けないのですよ。そのために駅がたくさんあるようです」

 村長にもこの駅以外のことは分からないようだった。

「この駅には夫婦の仲が悪い人達と、孤独の中で自殺した若者が降り立つようです。夫婦はよりを戻し仲良くならないとあの世に行けないし、自殺した人はその孤独な心がいやされないとあの世に行けないようです」

「ひょっとして、ここにいる猫達は自殺した若者なんですね」

 僕の問いかけにおばあさんは黙ってうなずいた。僕達がここに降りたということは、僕達は仲が悪いと言うことだろうか。そのことを尋ねた。

「そこなんですよ。あなた方は仲が悪くてここに来た訳じゃありません。むしろ仲が良いから来たんですよ。その前にお話ししないといけないことがあります」

 村長はお茶を飲み干すと話しを続けた。

「夫婦が仲良くなり、自殺した若者が
心を癒されるとみんな元の姿に戻ります。でもそれだけではダメなのですよ」

 村長が次に何を語り出すのか僕達は固唾かたずを飲んで見守った。

「これまでの話しは何となく納得ゆくと思うのですが、ただこの先の話に納得ゆく説明はありません。そうなっているから、そうするしかないのです」

 村長の歯切れの悪い言い回しに、僕達は再び顔を見合わせた。

「その人達だけではあの世に行けないのです。その人達を引率する人が必要なんです。それが村長なんです」

 村長は僕達の顔を見ながら話しを続けた。

「私達は後任が来ないとこの地を離れることができないのですが、やっと出発することができます。後任がこうしてやって来てくださったからです」

 村長は長らく沈黙した後再び口を開いた。

「あなた方にとっては災難としか言いようがない」

 僕は素朴な疑問を口にした。

「僕達は新婚なので、夫婦の仲なんて分からないですよ。今は仲良かったとしても、これからは分からないですよ」

 村長は以外な、あるいは、やっぱりといった返事が返ってきた。

「あなた方は過去からのつながりがあるんですよ。前世の仲が良い夫婦の生まれ変わりなのでしょうか。詳しいことは分かりません。ただ、お蛇蛇様が認められたことなので、間違いないということです」

 僕達は納得をしていたし、現状を受け入れていた。そのことを村長に伝えると、村長は嬉しそうに僕達の手を取り、力強く握りしめた。

「あなた方の仕事は、仲の悪い夫婦を仲良くする手立てを考えてやることです。そして後任が来るまでの間に、より多くの夫婦や子供を救うことです。大変難しく、そしてやりがいのある仕事です」

 僕達は村長の話しを聞きながら、身が引き締まり思いだった。

「僕達にそんなことできるでしょうか」

「大丈夫ですよ。お蛇蛇様がついてます。何かあればお蛇蛇様に、相談して下さい」

 村長は壁に掛かった古ぼけた時計に目をやった。

「そろそろ列車がやって来る時刻です。これでおいとまさせて頂きます。みんながやきもきしながら待っています。お見送りは無用です」

 村長は二人に深々と頭を下げて出て行った。僕達はとりあえず状況を把握することができた。彼女が大きく伸びをする。

「健太さん頑張りましょう」

 僕はうなずいた。

 窓の外には青く澄み渡った晩秋の空に、白いうろこ雲が広がっていた。






 
 
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