終わりなき理想郷

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空高く、天を仰ぐ

第40話 誰かにとって不要なもの

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2017年07月20日(木)12時23分 =萌葱山もえぎやま山頂=

「遅かったね、二人とも。それと...、君たちは...なるほど、二人が世話になったみたいだね。」
 私たちは文野ふみの先輩に言われ、萌葱山もえぎやまの山頂まで来ました。もし、警察の方と一緒だったらとも考えましたがとりあえず会うだけ会ってみようというひのきさんの助言で会うことにしました。
 文野ふみの先輩は一人で待っていたようだったので一安心、といったところでしょう。
 私たちはひかりちゃんを波留はるさんの後ろに隠し、いつの間にか起きた遼太郎りょうたろうさんに護衛を任せながら周囲に神経を張り巡らせています。
「...そんなに警戒しないでくれたまえ。別に私以外ここには居ないし、追われているわけでもない。それに、別にその子をどうこうする気もない。その子がね。」
「さすがに気づいちゃいますか...。」
「ああ。気づくも何も、君たちはソレから流れ出ているものに気が付かないのかい?」
 その言葉が指し示すものが気になり、ちらりとひかりちゃんを覗き見る。しかし、特に何か変なところはない。
「気づくって...何をですか?」
「...いや、なんでもない。最近忙しかったからね、良くないものが見えていたみたいだ。それで、どうだいこの街は。相変わらず何もないところだが、いいところだろう?そう思わないかい、桐藤きりふじ波留はるちゃん?」
「ひゃいっ!」
 名前を呼ばれて恐怖と驚きの入り混じった悲鳴のような返事が聞こえる。
「最近、うちの研究所に顔を出さないと思ったらこんなところに住んでいたとは。ひどいじゃないか、またいつでも研究所に来てちょーだいよ。いつものようにお茶でもしようじゃないか。」
「あの...、先輩って波留はるさんとお知り合いなんですか?」
 ふと疑問に思い浮かんだので先輩に聞いてみる。
「ああ、桃花ももかちゃんは知らないんだっけ。こいつ桐藤 波留は私の同級生兼マスゴミ。毎回研究のたびに邪魔をしてきては大事件を起こしてあたかも私がやらかしたかのようにスクープとして記事を書いては逃げるを繰り返す大親友憎むべき相手だよ。」
 やばい、この人先輩の言葉の裏に恨み辛みが見え隠れというか大々的に表情に出てる...。
「まあいいや。呼んだ理由としては明日中にこの街を去るってことを伝えるのと、二人を見てくれた方々を一目見ようと思っていたからなんだけれど、予定が変わってね。」
「予定が変わった?そりゃまたいったいどんな風の吹き回しなんだ?」
 腕を組んで話を静かに聞いていたレイちゃんが口を開いた。
「君たち、その子のことについてどれだけ知っているんだ?」
 先輩が指をさす先にはひかりちゃんが居た。なんと言おうか一瞬迷っていると波留はるさんが喋る。
ひかりちゃんだよ。よくわからない団体の奴らから追われていたのを保護していたの。」
「そっか。...ちなみに、赤髪の男性に何か心当たりはある?」
「...あるよ。どうせ嘘言ってもすぐに見破れるだろうから断言しておく。」
「なるほどな。であれば、そのひかりとやらは...本物ガチか...。」
「その言い方だと偽物でもいるのかい?」
 ずっと無言を貫き通していたひのきさんもついに耐えきれないと口をはさむ。
「ああ。まあ、偽物にせものというのもちょっと違うんだけどね。波留はる、しばらくそのひかりとやらの耳をふさいでおいてくれ。何かあったときに今すぐには対処できない。」
「えっ、うん。」
 急激な空気の変化に驚きつつも波留はるさんは言われた通りひかりちゃんの耳をふさぐ。そして、それを確認した先輩はわざとらしく咳払いをして私たちの方を見定めるような視線で見つめる。
「今から話すのは、6年前にこの地で起こった聖夜前災せいやぜんさいの事後処理の話だ。」


2011年12月24日(土)01時22分 =聖夜前災せいやぜんさい爆心地=

坂下さかした、本当に私たちだけで調べるの?」
 事件の翌日、真夜中に私と青木あおきくんの二人は坂下さかしたに呼び出されていた。
「ああ。こがらし君は奈穂なほについてもらっている。和泉いずみ君はアレ以降眠ってしまっているから今すぐ呼び出せるのがお前らしかいなかったってわけだ。」
「そうですか。それで、この穴の中に入ればいいんですか?」
 例の化け物が出てきた地点には大きな穴ができており、かなり奥まで続いているようで、ライトで照らしても真っ暗闇に包まれてよく見えなかった。
 日が出てきてからでもいいんじゃないか、とも提案をしてみたが日が射せば逃げた住民たちが戻ってくるということでこんな真夜中眠い目をこすりながら大穴に降りることとなってしまったというわけだ。
「それで、ドローンで降りれそうか?」
「可能ではある。ただ、かなり狭いから一人ずつね。」
「わかった。それじゃあ一番最初は俺が行こう。最下層に着いたら次の奴が入るという形式でいいな?」
「うーい。じゃ、さっさと行ってきて。」
 まあ、そんな感じで順々に私たちは地中に潜っていったわけ。そして、私が一番最後に入ることになった。
 最下層に着いたとき、一番最初に感じたのはという言葉だった。
「そこら中に切り傷やガラス片、この服みたいなものって...。」
「ああ。...人間の死体だな。大方、爆発に巻き込まれた研究員なのだろうな。」
 珍しく青木あおき君が狼狽うろたえており、実を言うと私も多少気分が悪かった。
 どうやら爆発の発生源はこののようだった。つまり、あの怪物もここでに作られたのだろう。まったくと言って気分の悪い話だ。
「カプセルのようなものもあるが、全部カラだな。資料系もほとんどないか、そうなると別の部屋にある可能性が高いな。」
 坂下さかしたはこのような状況の中でも平然と考察をしている。彼の職場というものはそれほど環境が劣悪なところが多いのだろうかと疑問を呈するほどにはその環境での彼の行動は異質だった。

 それから約2時間、みっちりと漁り尽くして分かったことは大いにあった。
 この化け物を生み出すプロジェクトは通称『ひかりプロジェクト』と呼称していたようだ。このプロジェクトはなんと忌々しいことにひかりと呼ばれる少女の死体を素材として用いて神を制御しようとするものだった。後から知ることになったが、そのような存在を『ホムンクルス』と彼らは呼称していたらしい。
 しかし、何とも解せないのはそのひかりという少女は鈴埜宮すずのみや烏丸からすまという名家のサラブレッドであるのに対してその両家から疎ましくされていたらしく、死後、実の祖父である鈴埜宮すずのみや家当主の鈴埜宮すずのみやさかえが主導して開発をしていたらしい。さらに烏丸からすまじんひかりの実の父を介して烏丸からすまの一部組織から融資を受けていたという証拠もいくつか押さえることができた。
 まあ、つまり言ってしまえば、ひかりという少女は両家にとってであったわけだ。
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