終わりなき理想郷

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空高く、天を仰ぐ

第17話 所謂、運命の気まぐれというもの

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2017年07月20日(木)08時45分 =萌葱もえぎ町外れ烏丸からすま家別館=

「まさかこんなに山奥にあるとはなぁ。」
 今俺は町はずれにある山に登っていた。別に山籠もりをしに来たわけではなく、坂下さかしたさんのおつかいのためだ。
 坂下さかしたさんのおつかいというのが時雨しぐれ家の蔵というお嫁さんの家の蔵を掃除してほしいというものだった。さすがの俺も知っているが、あの人とんでもない家にとついでるなと思ったものだ。なぜならばその時雨しぐれ家というのはこの街、萌葱町の3すくみと言われていた貴族の一家。なぜ『だった』と言っているのかというと、時雨しぐれ家は約100年ほど前に同じ貴族の烏丸からすまに取り込まれたからだ。ただ、別に時雨しぐれ家がすべて取り込まれたというわけではなく、この街から出て行った分家が存在しておりお嫁さんもその分家の人なんだそう。
 しかし、それならば烏丸からすまの人が時雨しぐれ家の蔵を管理してくれれば良いと俺も思っていたのだが、話はそう簡単ではないらしい。時雨しぐれ家の蔵というのは烏丸からすまの所有ではなく分家の時雨しぐれ家に所有権があるらしく、今までは坂下さかしたさんが代わりに管理をしていたらしい。
 そんなことを考えているうちに古い建物のある場所にたどり着いた。元時雨しぐれ家本館であり、現烏丸からすま家別館だ。
「確か聞いた限り家の周りに脇道があるらしいんだが...あれじゃないよな?」
 視線の先には長い間手入れされていなかったのだろう木々に覆われた道があった。このままだと俺じゃあ通ることもできないし、少しやってみるか。

 公安の備品の中から借りてきたものを背中から降ろす。こんなことに使うのはあまりよくはないだろうが、こういうところでしか練習することもないだろうからね。
 それを。そして、木々に向かって構えてみる。動きは覚えている、後は動かすだけ。

霞城流かじょうりゅう  木霊討こだまうち!】

突き出すように切り落とした木の枝がポトリと落ちる。
 俺が警察学校時代でただ警察になるために訓練をしていたわけじゃない。それに俺はアレを何度も見たんだ。何度も真似した、何度も思い返した、何度も考えた。そして、会得できた。もちろん威力を同じレベルまで出すのはほぼ無理だろうが、それでも俺は使えるようになった。
 だけども、まだあの人の技は底知れないものが多い。もっと貪欲に、もっと深層まであの技に迫ることができれば、あの人に一撃を打ち込むこともできるだろう。そのためには試行回数とデータが足りないんだよなぁ。
 というかそんなことにかまけてる場合じゃない。ここに来たのは蔵の清掃のためだ。おつかいを達成してからそのことを考えておこう。それに、蔵にあるものであればなんでも持ち出していいって言っていたし一撃入れるために使えるものがあるといいんだけど。
 そう考えながら草木の茂る獣道を進んでいくと少し開けた場所に古めかしい蔵が鎮座していた。どう考えてもアレが言っていた蔵なんだろう。坂下さかしたさんから渡されたカギを使って蔵を開ける。中は少し埃がかぶっているがそこまで雑多に置かれているわけでもなく整理整頓自体はされているみたいだ。
 とりあえず、掃除しながら何かめぼしいものがないか調べてみることとしよう。


「これは、結構すごいものなのでは?」
 俺は一つの桐箱の中にしまわれていた黄金色の懐中時計を引っ張り出していた。一見お高めの時計なのかと思えるが、これはそういうものではないらしい。なぜこんな話をしているのかというとだ、俺は蔵の清掃をしていた時にこの懐中時計が入った箱を落としてしまって時計が箱から飛び出て地面にぶつかった拍子に懐中時計のボタンが押されたのかどうなのかはわからないがその瞬間、俺は外にいた。そして、木霊討こだまうちを実践した直後に巻き戻っていたのだ。
 この感じ、俺は経験したことがある。聖夜前災せいやぜんさいでの坂下さかしたさんの時間遡行タイムリープだ。そこから紐づけられる答えはただ一つ。この懐中時計、時を巻き戻すことができるのではないのか?
 ・・・欲しいものがあったら持って行っていいと言っていたもんな。その懐中時計を懐にしまって箱のふたを閉じておく。そして、蔵の掃除に戻ることにしよう。それにしても、こんなものがあるなんて時雨しぐれ家って結構いかれている家なんじゃないのかという疑念も生まれるが、片足どころかしっかり足を突っ込んでいる俺がとやかく言えることでもないし少なくとも今その家が何かしているわけでもないんだ。気にする方が無駄だろう。
 それから1時間半ほどかけて蔵の掃除が終わった。朝早い時間からここまで来たからか、さすがに腹がへってきたな。大体10時過ぎぐらいだから、街まで戻ればいい具合の時間になるだろう。
 そういうことで蔵の清掃を終わらせて、鍵を閉める。そして来た道を戻って、俺は街へと戻ろうとしていた。しかし、まさかそこからあんな大事件に巻き込まれるとは今の俺は考えてすらいないのだった。
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