終わりなき理想郷

DDice

文字の大きさ
18 / 61
空高く、天を仰ぐ

第18話 凛として鳴る鈴の如く

しおりを挟む
2017年07月20日(木)11時02分 =萌葱もえぎ駅前広場=

 それにしても、ここは全く変わらないな。6年前に起きた聖夜前災せいやぜんさいの被害は住宅街と萌葱山もえぎやまという小規模の被害で抑えられていたからか駅の方はほとんど外見的変化は起こっていない。というよりは、街全体が活気を失いつつある感じだ。実際、この街を根城にしている鈴埜宮重工すずのみやじゅうこう烏丸からすまコーポレーテッドも外部に方針を転換してから日は浅くない。
 そうやって周囲を見ていると、ドンッと背後から押されて地面に倒れこみそうになる瞬間、何とか踏みとどまって後方を確認した。そこにはサングラスをかけて、小洒落た服装の男が黒色のファーコートに身を包んだ男に押されてしまっていたようでドミノ倒しのような構図となっていたみたいだ。
「ごめんなさい!お怪我とかございませんか?」
「い、いえ。大丈夫ですけれど...。」
 なんだか...。この倒れてきた男、見覚えがあるな。
おおとりぃ...!お前さぁ、ちったぁ周りのこと見ろよぉ!」
「ごめん、ごめんて。いや、でもさぁ、もうちょっとりっくんが体幹鍛えれば起きなかった事故でしょ~。」
 この人、言い方とか考え方とかが他者責すぎて気に喰わないタイプだなぁ。にしてもりっくん...、聞き覚えが...。ん?ああ...思い出した。確か、この人は、現鈴埜宮すずのみや財閥のトップ。鈴埜宮すずのみやりくだ。
「あの...、もしご迷惑でなければよいのですが。お代はこちらで払わせてもらうので、お昼をご一緒しませんか?」
 おっとぉ...、まさかのご提案。あの一件から鈴埜宮すずのみや関連は苦手意識があって近づきたくないんだよなぁ。ただまあ、ここで断るとなんだか気まずいしここはお言葉に甘えておこう。
「そちらが構わないのであれば、お言葉に甘えさせていただきますが...、えーっと。」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私の名前は鈴埜宮すずのみやりくです。一応ですが、現鈴埜宮すずのみやコーポレーテッドの社長をしております。そしてこっちが、」
ヒズベストフレンドHis best friendおおとりくんでぇーっす!」
 なんだろ、すっごい元気な人だな。気疲れしないんだろうか。というかおおとりさんだっけか、に思える。過去に何かしら事件に巻き込まれた感があるな。まあ、藪をつつくつもりはないしこれ以上関わることもないだろうから変に詮索する必要もないだろう。
鈴埜宮すずのみやさんとおおとりさんですね、よろしくお願いします。俺はこがらし和葉かずはと申します。」
こがらしさんですか。ちなみに何か苦手だったりアレルギーなどはありますか?」
 話している分には何も気になる部分はないな。ただまあ、この人も会話の節々から相手に何かを守り隠そうとするような感じがする。まあ、一大企業の社長をしている時点で隠すべきことはあるだろうしそこまで気にする必要もない...とは思うが、なんだろう。この、煮え切らない感じは...。
「いえ、特に苦手なものはありませんよ。」
「そうですか、なら良かった。じゃあこちらの方です。待たせている人はいますが、まあ大丈夫でしょう。」
 ・・・いや、良くないでしょ。どう考えてもそっちが先約だろうし、すっげぇ気まずい...。そう感じていながら連れられて行くがままに付いて言っていると、
「あのさぁ、こがらし君の背負ってるものってもしかして刀なのか?」と、急におおとりさんに聞かれる。
「えっ...、あぁ。まあそうですね。それでどうかしましたか。」
「いや、どうってことはないんだが。お前、公安の人間だろ。」

 ・・・は?
 どうしてそれが分かるんだ。いや、聞かれてはいたし刀のせいか。確かにこの刀は特務課の戦闘訓練用に支給されるものだが...、なぜそんなことを。ただそれにしてもだ、どう返答するべきだ?
 馬鹿正直に返答すればどう考えても鈴埜宮すずのみやの奴に警戒されるのは必至。逆にここではぐらかせばおおとりさんに追及されるのは火を見るよりも明らかだろう。であるならば、
「まあそうですね、今年から警察に配属なんですよ。まだまだ学ぶべきことも多いですし鍛錬も人一倍しないといけないんですけどね。」
 今年からなので何も知らないですよバーリア!多少警戒などをされるのはもう諦めて、何も知らないということをアピールしてこれ以上の追及をされないようにしてしまおう。
「ふぅん、まあ頑張ればいいんじゃない。そんな気合が続くのなら、君になら...、いやなんでもない。」
 何なんだよこの人!それっぽいことをほざきかけて口を噤むとか、どうでもいいことだったら本当に殴り飛ばそう。そうしよう。
 そう考えながら歩いていると目的地と思わしき建物が見えてきた。見覚えがある...いや、見覚えがあるというよりは嫌でも脳裏から離れないといった方があってるか。
 喫茶店「klak」、聖夜前災せいやぜんさいの言うなればセーブポイントというべきか。なんというか、始まりの地とでもいうべきだろうか。
 まあ、この街に帰ってきたという気分には、なったかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...