くじ屋

花角瞳

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目薬

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先日から重度の不眠症に悩まされており、夜中の二時を過ぎても眠れず、眠ったときは夜中の四時頃。

朝六時半起床のため、眠る時間はたったの二時間。

社会人でサラリーマンをしている俺の身体は、そろそろ体力的に限界を感じていた。

どんなに子供の頃、体が丈夫で皆勤をとった俺でも、眠らずには働けない。

市販の睡眠薬を飲むがあまり効果は無く、自己判断で日々量が増えていく。

会社でのストレスが俺の睡眠を妨害しているのだろう。

限界に近づいたある日、リラックスをするため仕事を終えた後、毎年地元で行われている花火大会に参加することにした。

毎年、年に一度だけ行われるこの花火大会は唯一の俺の楽しみだ。

花火大会の日には屋台がたくさん集まる。

その中でも一番のお気に入りはくじびきだった。

毎年一度だけくじを引くことにしている。

子供の頃の楽しみが、今でも楽しみの一つになっていた。

人ごみの中、くじびきとかかれている屋台を目印に前に進む。

屋台についてからはだいたいの賞品を見渡して、ここだという店にお金を払う。

「悪くないな、はい」

お金を店の男に渡し、箱の中に手を入れかき混ぜる。

よくかき混ぜた後一枚手に取り、紙を破り中を確認する。

「今年は５等か」

それを聞いた店の男が５等の商品を指差し、中から選ぶようにと指示する。

賞品が置かれている箱の前に座り、中身を物色する。

ふと目に付いたのは【よく眠れる目薬】と書かれた小さな箱に入った目薬だった。

「お兄さん、これ本当に効くのかい？」

箱を手に持ち店の男に問いかけると、にっこりと優しく微笑んだ。

「よく効くよ～。ただ使いすぎには注意しなよ」

「本当に効くのかよ。まぁ効かなかったときは効かなかったときだよな。これ貰ってくよ」

半信半疑だったが、もし本当に効果があるのなら今の俺にうってつけの賞品だ。

目薬をポケットにしまい男に挨拶をし終えた後、背後からドンッと大きな音が響き渡り、花火が幕を開ける。

夜空に舞う美しい花を見るより、今はこの目薬を早く使ってみたいという願望が強く、駆け足でこの場をさったーーー。

部屋に着きポケットから目薬を取り出し、さっそく使ってみる。

説明書通りにまずは右目に二滴、そして次に左目に二滴と点す。

真っ白な液がすーっと染み込むように目の中に入っていく。

その途端、眠気に襲われそのまま倒れ込むようにソファの上で眠りについた。

――次の日――

目が覚めると、今までに無い爽快感があった。

一度も目が覚めることなく、ぐっすりと眠りにつくことができたのだった。

ふと時計に目をやると、午後三時だった。

「今日が日曜日でよかった」

明日はちゃんと目覚ましをセットしてから目薬を入れよう。

それにしてもすごい効果だ。

何処に売っているんだろう。

久しぶりに眠れ、体力も回復したということでゴルフに出かけた。

それからまた夜になり、今度はタイマーをしっかりとセットしてから目薬を点す。

そして数秒もしないうちに眠りにつく。

そのおかげで、俺はぐっすり眠れる毎日を送ることができた。

しかし、日が経つごとにおかしなことに気がついた。

使用量が日々増加しているのだ。

始めは二滴だけで十分眠りに着く事ができたが、今は二滴では熟睡することができない。

しまいには、十滴以上点さなくては熟睡することが出来なくなっていた。

それでも目薬のおかげで眠ることが出来るので、俺はそれを使い続けた。

目薬を差し出してから三ヶ月が経ったある日、容器を見てみると残り後一回分ほどしかないことに気がついた。

―――今日使えば終わってしまう。

しかし、この目薬が無くなったとしても、体は睡眠のサイクルを覚えただろうと安易に考えていた俺は最後の目薬を点して眠りに着いた。

――次の日の夜――

机の上に置いてある目薬を手に取る。

「あ～そうだった。もう目薬きれちまったんだよな。」

空の目薬をゴミ箱に放り投げ、布団の中に入り目を瞑ること１時間。

（眠れない・・・）

そしてまた２時間、３時間と眠れない夜が続いた。

また不眠症が続き、前の生活に逆戻り。

だが前回とは違うことが起こったのだ。

説明書どおりに目薬を使わなかったせいで、目薬無しでは眠ることができなくなってしまった。

目薬の変わりに睡眠薬をいくら飲んでも眠ることができない。

何十錠飲んでも何百錠飲んでも・・・。

俺の目は充血しすぎて真っ赤になり、医者に相談しても解決法は見つからず、一生死ぬまで眠ることのできない体になってしまったのだった・・・。

「こんなことになるなんて、死んだほうがましだ！」

そう思った瞬間だった。

仕事帰りの路上で急に睡魔に襲われたのだ。

その場に倒れこみ、俺はやっと眠りにつくことができた。

だが、二度と目覚めることはなかった。

大量の睡眠薬が俺を深い眠りへと引きずり込んでしまった。

しかし、俺の顔は小さく微笑んでいたのだった。

END

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